AIkurushii | ナノ
 翌日の朝、いつものように食堂に行くと私を見た神童が真っ先に声を掛けてきた。

「何だかいつもよりスッキリした顔だな」
「えっ、そうか?」

するとキャプテンも横から
「ここのところ不安そうな顔してたから、心配してたんだよ!」
と言ってきた。そんな言葉に驚いて「そうだったんだ…」と零すと、神童が笑う。

「だが、元気そうになって良かった」

そんな優しさに嬉しくなると同時に、私は昨日の皆帆とのことを思い出して微笑んだ。
「ありがとう」
お礼を言った後も2人と少し話をしていると、皆帆が食堂に入ってくる。

皆帆はキャプテンと神童に「おはよう」と告げた。そんな皆帆に挨拶をしようとすると、さりげなく私の後ろに来た皆帆が、誰にもばれないように私の服を摘まんで少し引っ張る。それに気付き、私は2人から離れた。

 私と皆帆は、付き合って初めての朝を迎える。
(それは昨日から始まった、私たちの"秘密")






 練習が終わると、ドリンクボトルを手に持った皆帆が真っ先に声を掛けてきた。

「お疲れ様」

その言葉に私も笑顔で「うん、お疲れ」と返すと皆帆も嬉しそうに笑う。すると皆帆はドリンクボトルを私に手渡してから私を見つめた。

「さっき、キャプテン達と何話してたんだい?」
「! ああ…最近元気なかったけど、今日は何かスッキリした顔してるねって言われたんだよ」
「へぇ、キャプテン達がそんなことを」
「うん」
「元気がないのは、僕も薄々気付いていたけどね」
「えっ、そうなの?」
「うん。たまにすごく不安そうな顔をしてたから」

何より僕が君の変化に気付かないわけないし、と自慢げにそう言う皆帆に苦笑しつつも、私は小っ恥ずかしい気持ちで口を開く。

「原因は…皆帆、なんだけど…」
「えっ」

もしかして皆帆は私の好意に気付いていなかったのだろうか。キョトンと目を丸くしたままの皆帆に対し、私は言わなければ良かったと少し後悔する。(は、恥ずかしい…)

「もしかして、ゆうはが僕を避けていた理由って…」

皆帆はそれ以上何も言わなかったけれど、すぐに察して照れ臭い笑顔を浮かべた。そして、少し声のトーンを落として言う。

「やっぱり、ゆうははすごく可愛いね」
「!」

あまりに男の子らしい顔でそんなことを言われたものだから、私は顔を真っ赤にして「い、いきなりずるいって…」と皆帆から目を逸らす。しかし皆帆は反省などこれっぽっちもしていない笑顔で
「あんまり可愛く振る舞うと、すぐ他の皆にもバレちゃうから」
だなんて可笑しそうに笑った。

「っそ、そんなこと…」
「だから、」
「…!」

皆帆は薄く笑い、誰にも見えないように隠して、私の頬にキスをする。
そして、唇を離してからにっこりと笑って言った。

「可愛い顔は、僕だけに見せてね」

(皆帆は、ずるい)
皆帆といると、鼓動がいつもより速くなる。苦しいし、でも幸せで、だから皆帆はずるい。そんな顔を見せられたら、私がもう何も言えなくなってしまうことくらい分かっているはずなのに。
 私は真っ赤になった顔を隠すように顔を逸らして、「馬鹿」と呟く。皆帆は楽しそうに笑いながら私の頭をぽんぽんと撫でた。

「ほら、早く食堂に行こう」

そう言って私の手を取り、ゆっくりと歩き出す。私はそんな皆帆の後ろ姿を見つめながら、小さく皆帆の名前を呼んだ。


「…和人、」


(それはきっと皆帆には聞こえていないのだろうけど)



 20140117