AIkurushii | ナノ
「あ。おはよう真名部」

 朝、廊下で真名部を見かけたから挨拶すると真名部は珍しく笑顔で返してくれた。
「森乃君、おはようございます」
「おはよ。今日も厳しい練習なんだろうなあ」
「そうですね…」

私の言葉に歪な顔をした真名部はもしかしたら私より体力がないのかもしれない。私は普段の家事で身に付いた体力が味方してくれるが、真名部は根っからのインドア派に見える。

「正直、この練習尽くしの毎日に自分が耐えられてることに吃驚ですね…」
「はは。でもさ、それでサッカー上手くなって楽しくなるなら嬉しいよな」
「!…森乃君らしい。そういうものかもしれないですね」

真名部も頷きながらそう言って笑う。
 ここ最近、私は心からサッカーを楽しむようになった。それは他でもないこの練習尽くしの毎日のおかげだが、やっぱり練習は辛くてもサッカーが上手くなることが何より嬉しい。

 そのまま真名部と二人で食堂まで向かい、食堂に付くとすぐに瞬木に声を掛けられた。

「おはよう森乃」
「あ、ま、瞬木。おはよう」
「昨日さ、ごめんな」
「えっ?」
「昨日の夜だよ。なんか俺酔ってたみたいでさ、食堂で森乃に声を掛けたところまでは覚えてるんだけどそこからの記憶が全く無くて……」
「あ、ああ!そうだったんだ!」

何となく、いや、すごく安心した。申し訳なさそうな顔をする瞬木に「気にすんなって」と言うと、瞬木は続ける。

「俺、森乃になんかしたり言ったりしてないよな?」
「えっ、ああ、してないしてない!普通に話したあと瞬木は部屋に戻ったよ!」
「そっか、それなら良かった」

あまりに必死な否定になってしまったが、あっさり信じてくれた瞬木にホッとした。そうだ、昨日の夜のことはなかったことにするのが一番だ。
 すると真名部が「昨晩、瞬木君と何かあったんですか?」と聞いてきたから私はまた否定する。

「ん?いや、何かあったって程じゃないよ」
(本当はありまくりだったけど…)
「…そうですか?なら、良いんですけど…」
「?」

何だか気になった真名部のその言い方に首を傾げると真名部は小さな声で言った。

「彼は、危険です」
「え…?」
「上手くは言えませんけど、あまり彼に気に入られない方が良いと思いますよ」
「そ、そう?でも瞬木、いいやつだし…」
「森乃君は本当に甘いですね」
「!そんなこと…」
「ない、とは言えないでしょう?」
「うっ…で、でも瞬木は、」
「そんなに彼のことが好きですか?」
「…は、はい?」

真名部の説教染みた言い方に戸惑っていると、真名部はいきなりそんなことを言いだす。しかし真名部はすぐに「しまった」というように口を閉じて、咳払いをした。

「っ、すみません…何でもないです」
「だ、大丈夫か?真名部、」
「すみません…こんなの僕の計算外です」
「まあ、その…僕のこと心配してくれる真名部のことも、瞬木と同じくらい好きだよ」
「! 同じくらい、ですか…」

(あれ?なんか、残念そう?)

「ほら、早く朝ご飯食べよう。俺もうお腹ペコペコだよ」
真名部を気遣ってそう言うと、真名部も「そうですね」と笑った。



(そういえば、なんで真名部は怒ったんだろう?)


 20140105