AIkurushii | ナノ
 それは、皆がお風呂から出るのを待っている時のことだった。
私はいつものようにスケッチブックを広げ、真っ白なそこに鉛筆で花の絵を描いていたら後ろから誰かが近づいてきたことに気付き手を止める。

「ゆうき」
「! ああ、井吹」

井吹はお風呂上がりはバンダナを付けていないから一瞬誰だか分からなかったが、特徴のある声ですぐに分かる。私が持っていた鉛筆を置いて「今日は風呂出るの早いな」と言うと、井吹は「ああ」と頷いてから、描き途中の絵をジッと見つめた。

「…どうした?」
「続き、描かないのか?」
「ああ、今日はもう良いんだ。そろそろ皆出てくるだろうし」
「そうか」

今度は私の手をジッと見つめた井吹が、少し小さな声で言う。

「ゆうきは本当に絵が上手いな」
「ありがとう。これくらいしか取り絵がないからね」

半ば冗談っぽく笑って返すと、井吹は何だか真面目な顔で私を見た。

「でもゆうきは、優しいだろ。それにサッカーの上達も早い」
「! そ、そんなこと…」
「あと、顔も良い」
「へ?」

すると井吹は私の両手をがしっと掴み、そのまま見つめてくる。突然の言葉にかなりびっくりして井吹を見つめ返すと、井吹は何だか言いたげな顔をした。

「…井吹?」
「それ」
「えっ?」
「呼び方」
「…え、ああ、呼び方?」
「そうだ。俺はゆうきのこと名前で呼んでるのに、お前は名前で呼んでくれないな、と思って…」
「!」

(な、何かそれって…)すごい、可愛いと思うんだけど。

「ははっ」
思わず笑ってしまった私を見て、井吹は驚いたように「な、何がおかしいんだ?」と首を傾げる。私はそんな井吹の肩をぽんぽんと叩き、井吹を見る。

(えっと、確か井吹は……)
「宗正」
「!」
「これで良いか?」

 少し前から思ってたけど、井吹は…

「ああ!!」


(犬みたいな奴、だなぁ)




 20131229
ちょっと和む話が書きたかったので…(^▽^)