AIkurushii | ナノ
(皆帆視点)



「おはよう、森乃君」
「! あっ み、皆帆、おはよう」

 朝。食堂に来ると森乃君を見かけたから真っ先に挨拶をしたら、何とも微妙な顔で返された。
あの日から、森乃君は確実に僕を避けている。僕が声を掛けるとあまりにも分かりやすく目を逸らし顔を隠すような素振りをするから、きっと鈍感な井吹君や真名部君でも分かるんじゃないだろうか。それくらい彼は分かりやすい。
キャプテンたちに何度か「ゆうきと喧嘩したの?」と聞かれたがそんな覚えはない。もしかしてあの日のことを気にしているのだろうかとも思ったが、きっとそれもないだろう。じゃあ何だ?ますます謎は深まっていく。

 一人でうーんと唸っていると、横から真名部君が話しかけてきた。

「皆帆君が悩み事なんて、珍しいですね」

真名部君はそう言うと僕の隣の椅子に腰をおろし、「いただきます」と手を合わせて食事を始めた。僕はそんな真名部君に視線をやり、「別に、悩みごとって程のことじゃないさ」と返す。

「もしかして、森乃君とのことですか?」
「!」

 図星を突かれて、食事を始めようとした手が止まる。

「真名部君には関係のないことだよ」
「…なんか嫌な言い方ですね」
「気のせいじゃないかな」
「皆帆君、気付かないうちに森乃君の気に障ることでも言ったんじゃないですか?」
「……さて、どうだろうね。僕には全く覚えがないんだけど」
「そう言う人ほど、気付かずに相手を怒らせることが多いんですよ」
「…君こそ、何だか嫌な言い方じゃないかい」
「森乃君が、一人で溜息をついているのを何度か見ました」
「!」

 理由は分からないが真名部君も少し怒っているように見えた。真名部君が朝から苛々しているなんて珍しいことではなかった(彼には少し失礼だけど)。今までにも何度か真名部君と言い合いの喧嘩をしたことがあったが、その時とは何かが違った。

「真名部君?」
「その溜息の理由が、君じゃないなら別に良いですけど」
「……どういう意味だい?」

彼の言っている意味が分からなかったためそう問いかけると、真名部君は持っていたお箸を少し荒い手つきで机に起き、僕に向き直る。(やっぱり、怒ってる)真正面から見た彼の顔は明らかに不機嫌だった。真名部君がさっきよりも小さめの声で、しかしハッキリと僕に訴えるように言う。

「僕はよく森乃君に勉強を教えています」
「…う、ん?」
「それに、前よりも森乃君から話しかけてくれることが多くなりました」
「…真名部君?君は何が言いた
「僕だって、君と同じくらい森乃君と仲が良いです」
「!!」
「ごちそうさまでした」

どうやら言いたいことを全て言い終えたらしく、荒々しく手を合わせた真名部君は席を立ち食器を片づけに行ってしまう。
 一人残された僕は真名部君の言いたいことが分かり、あまり良い気分ではなかった。つまり彼は、自分が僕よりも森乃君と仲が良いということを言いたかったのだろう。真名部君は本当に面倒くさい人だ。なんだか年頃の女の子みたい。

 僕は早く食事を済ませようとスープを口に流し込んだが、いつもは美味しいと思う朝食が何だか美味しく感じられなかった。



 20131223