AIkurushii | ナノ
 皆帆の前で大泣きしてから、一週間が経った。
もう体調も治っていつものように練習をしているが、ひとつだけ、変わったことがある。


「ゆうき!」
「! キャプテン、お疲れ様」
「ああ、お疲れ!」

練習が終わるとキャプテンが真っ先に声を掛けてきて、タオルで汗を拭きながら不思議そうに問いかけてきた。

「そういえばゆうき、ずっと気になってたんだけど皆帆と喧嘩でもしたの?」
「え、な、何で?」
「なんか最近、あんまり話してるとこ見ないからさ」
「!そ、そんなことないと思う、けど…」
「そっか、じゃあ俺の勘違いだったみたいだね!」

良かった、とキャプテンはそう言って笑った。
それからプレーについても少し話をした後、キャプテンが笑顔で去っていくのを見届けてから私も食堂へと足を進める。

 あの日、私は皆帆のことを好きだと自覚した。しかし自覚してからが大変で、いつものように皆帆が話しかけてくれても上手く応答ができず赤くなる顔を隠すばかりだ。それに耐えきれずなるべく皆帆と話さないようにしていたのだが、正直、もっと話したい。だけど男が男に対して赤面するだとかそんなの周りから見たらホモでしかないし気持ち悪いと思われる。そんなのは絶対に避けたい。私だけならまだしも皆帆まで引かれてしまうかもしれない。
しかしこれからもずっとこんな状態だと逆に周りにおかしいと思われるし無駄な心配を掛けてしまうだろう。じゃあどうしたらいいのかなんて、今はよく分からなかった。

(恋なんて、ロクにしたことなかったからなぁ…)
恋愛経験が無さすぎる自分を恨めしく思う。思わず自分の無造作な髪をわしゃわしゃとかき混ぜて一人唸った。それを見ている人物が、また一つ、誰にも言えない私の秘密に気付いているとも知らずに。







 夕飯とお風呂を終えて自室に向かっている途中、さくらの後ろ姿を見つけて私はさくらに走り寄った。

「さくら!」
「! あっ、ゆうき」

さくらは私に気付くと笑顔で私の名を呼ぶ。

「もう部屋に戻るの?」
「ああ。後は寝るだけって感じかな」

さくらの問いかけにそう返すと、何か言いたそうな表情のさくらがじっとこちらを見つめてきた。私は軽く首を傾げる。(何だろう…?)さくらの頬がいつもより赤く見えるのは、きっと気のせいだろう。

「あ、あの、ゆうき…」
「ん?」
「もし良かったら、ちょっと付き合ってほしい所があるの」

言ってやったぞ、みたいなさくらの顔が必死だったから何だか可愛くて面白くて、私は快くOKした。するとさくらは嬉しそうに笑って「ありがとう!」と言う。

「さくら、付き合ってほしい所って?」
「あ、えっと…自販機、なんだけど」
「自販機?」
「ええ」

ちょっと恥ずかしそうに「グレープジュース」と呟いたさくらに、私は「ああ!」と手をポンと叩いて頷く。さくらはあの時みたいにグレープジュースが飲みたかったのだろう。

「じゃあほら、早く行こう!」

私はそう言ってさくらの手を引く。こんな話をしていたら私もグレープジュースが飲みたくなってきた。さくらは嬉しそうに笑っているからそれが嬉しくて。昔から友達が少なかったから、こうして女友達とはしゃいだりすることなんて滅多になかった。だから、余計に。ああ、さくらとは"女の子"として出会いたかったな、なんて思う自分もいた。



 20131223