AIkurushii | ナノ
 皆帆に連れられてやって来たのは、そこそこ大きな美術館だった。

「わぁ…」
思わず驚きの声が漏れる。
「すごい。合宿所の近くに美術館があるなんて知らなかったよ」
ただただ感動して立ちつくす私を見て、皆帆は嬉しそうに「僕も最近知ったんだ」と返した。
 すごい。本当に、すごいという言葉しか出てこなくて、早く入ろうと皆帆の腕を引っ張った。すると皆帆も足を進めて「よし、行こうか森乃君!」と美術館の入り口をくぐる。


 美術館の中はとても落ち着いていて良い雰囲気だった。センス良く配置された彫刻や絵を見渡して、感動が溢れてくる。芸術品たちを前にはしゃぎたい気持ちで一杯だったが、なるべく気持ちを抑えてどんどん奥へと足を進めた。

「本当に色んな絵画があるんだね」
「そりゃあ、美術館だもんなぁ」
「僕はあまり詳しくないからよく分からないけど、やっぱり絵画を眺めるのって勉強になるね」
「うん。どんな感情がこの絵の中に込められてるのかとか、細かいところまで一切気を抜かずに描かれてて…本当にすごいや」
「今まで美術館にはよく行ったりしてたのかい?」
「いや、近くに美術館がないものだと思っていたから…遠くにある有名な美術館には一度行ったことがあるけど、それ以来は行けてないから美術館に来るのはこれで二回目かな」
「そうなんだ」
「ああ」

 たくさんの絵画を観賞しながら皆帆と会話をして、感想や意見を言い合ったりしていたらあっという間に時間は過ぎて行った。


「そろそろ帰ろうか」
美術館を出ると空は少しばかり暗くなっていて、皆帆がそう言って帰り道を歩き出す。

「み、皆帆!」

足を進める皆帆の後ろ姿に声を掛けて、振り向く皆帆に精一杯の笑顔を見せた。

「連れてきてくれて、ほんとにありがとう」

皆帆はそんな私の言葉に驚いたようだったけど、すぐに笑顔になって「どういたしまして」と言う。私が皆帆の隣まで追いつくと、不意に皆帆と目が合った。

「…すごく、楽しかった」

何だか照れくさくて視線を皆帆からずらしながらそう言うと皆帆は「よかった」と頷く。
「俺もいつか、あんな絵を描く画家になりたいな」
咄嗟に漏れた私の本音に、皆帆ははっきりとこう言った。

「なれるよ」

そんな言葉にハッと皆帆を見れば、嘘ひとつない優しい笑顔を見せられる。その瞬間、何故か心臓が高鳴った。
「あ、ありが…とう」
バクバクと心臓が音を立てる。何かがおかしい。

(皆帆に、ときめくなんて)

きっと皆帆が言ってくれた言葉が嬉しかったから、こんなにも心臓がドキドキするんだ。そう、きっとそうだ。それしかありえない。必死になって自分に言い聞かせながらもう一度ちゃんと「ありがとう」と伝えると皆帆はまた「どういたしまして」と言った。
 今日は本当に良い一日だ。そう思えたことが、何よりの幸せだった。



 20131006