AIkurushii | ナノ
「そういえばさ、」
「何ですか?」
「ここに来る途中、皆帆に会ったんだよ」
「!…皆帆君、ですか…?」
 真名部に勉強を教えてもらってから大体30分くらいが経過した頃、私が不意にさっき皆帆と会った話を切り出した。すると真名部は不自然にペンを置いて私を見つめる。(…?)なんか二人とも、やけにお互いの名前に反応するなぁ…。

「皆帆ったら俺が真名部に勉強教えてもらうって言っただけなのに「真名部君のこと好きなのかい?」だなんて聞いてきてね、皆帆ってたまに面白いこと言うよな、あはは…は……、真名部…?」
僕がそんなことを言って笑うと真名部の動きが止まった。
「ど、どうした…?」
「っあ、いえ…何でもないです!」
「そう…?」
真名部は大きく頷くとまたペンを持って勉強を再開した。




「あ…」
 真名部との勉強を終えて部屋に向かう途中、何やら廊下に座り込んでいるさくらの後ろ姿を見かけた。最初は靴ひもを結んでいるのかと思ったのだが、どうにもそんな風には見えなくなってきて未だに立ちあがろうとしないさくらに私は焦って駆け寄った。

「さ、さくら!?」
すると私に気付いたさくらがこちらを向いたのだが、その顔はとても辛そうで私は嫌な予感を感じてさくらの隣にしゃがみ込む。

「さくら、どっか痛いのか!?」
「っう、ううん…大丈夫よ、何でもないから……」
「何でもないわけないだろ!顔色も悪いし…!」

私が必死にさくらの背中をさすると、不意にさくらがお腹を押さえているのに気がついた。
(もしかして…)

生理、か?

そう心の中で勘づいたのだが、さくらは女子だ。そして私はさくらにとって女子じゃない。私はさくらの中では男なんだから、そんないきなり男に「生理か?」なんて聞かれて嫌じゃない訳がない。
 私はうーんと悩んでから、さくらの手を取って「立てる?」となるべく優しい声で問いかけた。

「う…うん、」
さくらはすごく辛そうだった。生理痛は人によって個人差がある。私は別にそこまで痛くならないけど、きっとさくらはすごく痛くなる体質なんだ。こんな状態で練習なんて辛いだけだろうから後で空野さんに説明してさくらの生理が終わるまでは練習を休ませないと。
 そんな事を考えながら私はさくらを部屋まで送った。


「…ほんとにありがとね、ゆうき」
「どういたしまして。あんまり無理するなよ?」
「ううん…」
さくらの部屋に着くとさくらは辛そうな顔をしながらも必死にお礼を言ってくれた。
 私はさくらを支えていた手を離して「それじゃあ」とさくらを一瞥してから立ち去ろうとする。しかしふと頭にあるものが浮かび、部屋に入ろうとするさくらを呼びとめた。

「…ゆうき?」
「あ、えっと…もし吐き気とかが無いなら、ココア飲みなよ。あと、あったかいアップルティーとか、よく効くらしいから…」
「!」

(あ、やべ)このアドバイスは何かと直接的すぎただろうか。私は困ったように口を閉じて、また立ち去ろうとする。だけどそんな私を今度はさくらが呼びとめて、振り向いた私にさくらは笑顔を見せてくれた。

「ありがとう!」

そのありがとうにはきっと、色んな意味が込められてるような気がして。きっとさくらは、私が気付いてることに気付いてる。

「どういたしまして」

そう言って笑い返すと、さくらは部屋に入っていった。


(良い事するって、すごく良い気分)


 20130923