AIkurushii | ナノ
「久坂ってイケメンだよな」

昨日の昼食の時に、鉄角がそんなことを言っていたから久坂を何となく観察してみることにした。

 確かに久坂はでかいし男気溢れてるし、温厚でヘタレにも見えがちだがやる時はしっかりやる。そんな男だ。私はそんな観察結果を鉄角に話したのだが、「お前どんだけ観察してんだよ!」と笑われてしまった。

「だ、だって鉄角が久坂イケメンって言うからどんなもんかと思って…!」
「ははっ、そりゃ確かに言ったけどよ!まさか観察までするとは…っ、ははは!」
「おっお前もう笑うなよー!」

しばらくそうやって私と鉄角が騒いでいると、「どうしたんですか?」と真名部が輪に入ってきた。

「聞いてくれよ真名部!森乃が
「だー!言うな言うな!」
「?よ、よく分かりませんが森乃君がどうかしたんですか?」
「な、何でもない!何でもないから!」

真名部は心底不可解そうに首を傾げていた。鉄角は未だにゲラゲラ笑ってるし、何かもうホント恥ずかしい。私は話を逸らすため「そういえばさ!」と切り出す。

「真名部、この前ちょっと分からない計算があったんだけど教えてくれない?」
「ええ、もちろん良いですよ」
「ありがとな!じゃあ後で部屋行くわ」
「はい。分かりました」





そんなこんなで真名部に勉強を教えてもらう約束をしたため、昼食を済ませた後に自分の部屋に戻ってから勉強道具をかばんに詰めて真名部の部屋へ向かった。
 しかし部屋を出てしばらく歩くと向こうから皆帆が歩いてきたため足を止める。

「皆帆!」
「ああ森乃君、」
「皆帆、この前はありがとな」
「え、何のことだい?」
「ほら、俺が瞬木に絡まれてる時に助けてくれたじゃん」
「! あ、ああ…」
皆帆はハッと思いだしたように頷いて「そういえばそんな事もあったね」と笑った。

「でもなんで助けてくれたんだ?」
「えっ?」
「別に放っといても皆帆に害はなかったのに…」
私がそう言って皆帆を見ると皆帆は何だか可笑しなことでも聞いたかのように目を丸くしてから、優しい口調で返した。
「何となくだよ。君が本気で焦ってたから。何というか、ただの正義感さ」
「そっか、正義感か……皆帆は良い奴だな!」
私がそう言うと皆帆も「ありがとう」と言って笑う。

 ふと、私が肩に掛けているかばんを見た皆帆が言った。
「どこに行くんだい?」
「ん?ああ、真名部に勉強教えてもらいに行くんだよ」
「真名部君に…?」
「うん」
すると何故か少しばかり不機嫌そうな顔をした皆帆。何か癇に障ったのだろうか。私がそう不安になると皆帆は小さな声で言う。
「君は真名部君のことが好きなのかい?」
「は?」
その質問に、少しだけ心臓がドキリと嫌な音を立てる。
(す、好き、って…)
もしかして皆帆は、何となく、私が男であることに疑問を感じているんじゃないだろうか。そう考えて、あえて平常心を保ちながら演技をした。

「い、いや…あの、俺も真名部も男だし…」
すると皆帆は目を丸くして私を見る。そして、
「そう、だね…変なこと聞いてごめん」
気まずそうに目を逸らす。

(今日の皆帆は…なんか、おかしい…?)
私はそう思って、皆帆に気を使って笑った。

「あ、いや気にしなくていいよ!それに、そら、数学といえば真名部だろ?だから真名部に教えてもらうんだよ」
「…へえ、君は数学が苦手なんだね」
「そうだなあ、算数の時から苦手……あ、やばい約束の時間すぎてる!それじゃあな、皆帆!」
「あっ、うん…気をつけてね」
「? ああ!」


("気をつけてね"って、どういう意味だ…?)



 20130917