colorful | ナノ
※阿部視点


 ――名前に、新しい女友達ができてた。

俺がそれに気付いたのはちょうど帰りのHRが終わった後。いつものように名前に練習の後グラウンドに来るよう言いに行こうと思って近づけば、俺より先にクラスメイトの女子が名前に駆け寄った。
名前の反応を見る限り、二人は友達になったのだと分かった。
 そいつが名前と話しているせいでなかなか名前に話かけられず、やっと話し終えたと思えば二人で教室を出て行ってしまった。

 …――は?
名前が俺よりも誰かを優先したことは、ほとんどなかった。だから今日も俺と二人で帰るのかと思いきや、今日はそいつと帰るらしい。俺は何となく呆気にとられてしばらく二人の背中を見つめていた。

確かあいつは、藤代って苗字だったと思う。うろ覚えだけど。正直、名前以外の女子の名前とかはどうだっていい。仮にあいつは藤代だとする。藤代は腰までの長い髪がわりと印象的で、顔立ちも整っていて男子にはわりと人気があった。ギャルみたいな濃いメイクはしていなくて、むしろ多分、メイクすらしてないと思う。あと、そこまで背が高いわけではないが名前と並ぶと高く感じる。あいつチビだからな。
 そんなことを考えていたら花井が部活行こうぜと声をかけてきた。俺は今日くらい仕方ねえかと思い花井と二人で昇降口まで向かう。

新しく入ってきた新入部員の中に、かなり生意気な一年がいた。そいつは何かに付けて人のモンを真似しようとしたりするから困ったものだ。一年は基本の素振りやキャッチボールから、というのをしっかり教えたハズが、自分も俺達の練習に混ざりたいと駄々をこねる。そいつのせいで最近だいぶ疲れているから名前といる時間もだんだん少なくなっていた。
まさか飽きられない、よな…?なんて心配しながら昇降口を出た時だった。

「、…え」
俺がふと自分が向かう先とは反対方向に目をやると、そこには名前を抱きしめている藤代の姿があった。俺が唖然と二人を見つめると抱きしめられている名前は藤代の顔を見て焦っているようで俺には気付いていない。
藤代は俺を真っ直ぐに見つめて、目が合った途端に勝気に笑ってみせた。
何だかかなりムカついた。何だよあいつ。俺に何が言いたいのかよく分からねーけど、名前を抱きしめてるって時点で俺の中で何か黒いものが疼いた。
 俺がしばらく二人を凝視していると、花井が「どうした阿部?早く行くぞ」と急かしたから俺は慌てて花井の後を追っかけた。それからのことは、分からない。

友達ならではのスキンシップだと、思いたかった。


 20130328