colorful | ナノ
 気付けば、私が隆也君たちと出会ってから一年が経とうとしていた。入学して一週間が経ったのに友達が少なかった私には今、たくさんの友達がいる。それも全部、野球部の皆のおかげでもあるし何より隆也君のおかげだ。
今日もいつものように皆の朝練が終わるころに登校すると、昇降口の所で水谷君に会った。
「あ、名字さんおはよう」
「おはよう、水谷君」
「どう?阿部とは上手くやってる?」
「み、水谷君までそういうこと…」
「あはは。冗談だよ、ゴメンゴメン」

水谷君は私と話しながら上履きに履き替える。私はそんな水谷君に苦笑した。

 あれから私達は二年生になって、後輩ができた。よく隆也君が新しい新入部員について話をしてくれるけど、新しい一年生は一癖も二癖もあるようだ。隆也君が疲れ切った顔でそう言っていたのを覚えている。

「やっぱり新しい一年生って、指導とか大変?」
そう水谷君に聞くと、隆也君と同じような顔をした。
「それが…マジで大変なんだよなあ…」
「そ、そんなに?」
「うん、まだまだガキって言うか…まあそれは俺等も負けてないけどね」
水谷君が冗談っぽく言うから思わず笑ってしまう。やっぱり後輩ができるっていうのは大変なんだ。そういえば新しいマネージャーとか入ったのかな?去年は私たち一年生だけだったから仕事もそこまで多くなかったけど、やっぱり新入部員が入ってくると話は別になる。私がそう考えていると、水谷君はそれを勘付いたように笑って教えてくれた。

「ちなみにマネージャーは新しい子が一人入ったんだよ」
「え、そうなの?」
「うん、可愛い子だよ。まあ名字さんには負けるけど」
「!?っみ、水谷君!またそういう冗談…」
「本気だけどね」
「え?」
「いや何でもないよ、っていうか名字さん、サッパリしたね」
「!あっ、やっと気付いてくれた!」

何やら上手い具合に誤魔化されてしまったけれど、髪型を指摘してくれたことが嬉しくて私も流されてしまう。
 そう、二年生に上がると同時に髪をバッサリ切ったのだ。前から切ろうとは思っていなかったけど、この際だから切ってしまおうと始業式前日に切りに行った。胸の下あたりまであった髪を一気に肩より上まで切ったから、始業式の日、皆に驚かれたけど野球部の皆とはなかなか会えてなかったから男子に言われるのはこれが初めてで、少し照れ臭いような嬉しいような。
そういえば隆也君とも始業式以来ちゃんと話ができてないから、隆也君は私の髪型の変化に気付いているかも分からない。気づかれていなかったらかなりショックだ。

「良いじゃん、すごい似合ってるよ」
「ほ、ほんとに?思ったより切ったから変かなって思ったんだけど…」
「そんなことないって。それに名字さん可愛いから何でも似合う」
「っ…だ、だから水谷君、」
「名字さん、俺相手にそんな真っ赤になったら阿部に怒られるよ?」
「!?そ…それは…」

私が焦ったように視線を落とすと、水谷君は「なーんてね」と笑った。

「ま、怒られるのは俺の方だけど」
その意味が何となくわかってしまい、私は冷やかされているのだと自覚する。少し怒ったような目つきで水谷君を見れば、水谷君は苦笑してゴメンゴメンと謝った。
 しばらく二人で話し込んでいると後ろから急に「名前!」と声を掛けられて、肩がびくりと反応する。水谷君が「やべ、」と声に漏らすと同時に私の大好きな声が再度聞こえた。

「よっ、阿部」
「おう水谷テメー名前に何もしてねえだろうな」

隆也君の顔を確認する前に後ろからぎゅっと緩く抱きしめられて顔に熱が溜まった。大きな隆也君の体が、私の体に密着している。うわ、あ、ああ、やばいやばい。絶対顔真っ赤になってる…!

「ハハ…なんもしてないって、そんな怒るなよなあ」
「た、隆也君…」
「ん?どうした名前…っつか、おまえ」
「?」
隆也君は私の髪に優しく触れながら言った。
「髪切ったな」
「えっ、あ!良かった気付いてくれて」
「気付かねえわけねーだろ馬鹿、名前相手なら1ミリの変化でも気付くから」
「そ、それは言い過ぎじゃ…」
「似合ってるよ」
「!」
フッと微笑んだ隆也君に心臓が痛いくらいに跳ねた。すると隣では水谷君が何やらつまらなそうな顔で私達を見ていた。

「おい阿部、名字さん苦しそうだからそろそろ離してあげなよ」
「んだよクソレフト。嫉妬してんのか名前は渡さねえよ、死ね」
「ひどい!」
「隆也君それは言い過ぎだよ!」

隆也君のドキツイ毒舌が水谷君に降りかかり、私がそう言うと隆也君は素直に水谷君に謝った。そんな隆也君を水谷君は引いたような目で見ていたけれど、気付けば予鈴が鳴り私達は急いで教室へと走る。

 教室に向かう途中に、新しく入ったマネージャーがどんな子なのか気になった。後で千代ちゃんに聞いてみようかなと思いながら、今日も私の日常が始まる。



 20130326
 20130327修正