sekirara | ナノ
※キルア視点


 あれから一週間が経ったが、少し前に俺はクロロと名前が楽しそうに話しているのを見かけて安心してしまった。(まあ、これはこれで…)許せる、のかもしれない。廊下で会う度にクロロがニヤニヤしながら「名前とはどうなんだ?」と聞いてくるのがうざくて仕方ないが、気まずい気持ちでお互いを避けて通るよりは何百倍もマシだ。名前は俺たちを見て「クロロと仲良くなったんだね」と笑っていたが、そんなのは絶対にありえない。絶対に!!



「キールア」
「! ゴン、何だよ」
「名前先輩が呼んでるよ」
「え」
「ほら早く早く」
「ちょ、待てって!」

 とある放課後。どうやら名前は教室の外で待っているのだろう。俺の腕を引っ張って教室を出ようとするゴンを止めようとしたがゴンは腕を離してくれない。俺はそんなゴンの後ろ姿を見て、苦笑した。
廊下に出るとそこには大好きな後ろ姿があって、俺は思わずそいつに駆け寄る。そして、大きな声でそいつの名を呼んだ。



「名前!」



その声に反応して名前が振り向くと同時に、綺麗な髪が揺れる。ふわりと良い匂いがして、目が合えば名前は嬉しそうに笑ってみせた。どきりと心臓が高鳴る。こいつは、やっぱり可愛い。

「キルア君!」

まるで犬みたいに俺を見つめてにっこりと笑う名前に、心臓が跳ねた。
そんな俺たちを見て「それじゃあね」と苦笑するゴンにお礼を言って、俺は名前の手を取る。


「帰るぞ」

そう言うと名前は嬉しそうに頷いた。
「うん!!」
その笑顔は、何度見ても飽きることはない。むしろ名前の笑顔を見るたびに名前のことが好きになって、愛しくなって、俺は命を掛けて名前を守ろうと決めたのだ。
 もう決して、こいつを泣かすようなことがないように。




 俺たちはあの日とは違い、楽しく話をしながら駅の6番線ホームに立っていた。
(ああ、そういえば)
委員会の仕事で図書室に行くことが多い俺たちだが、名前は図書室に行く度に気になる本を見つけては手にとってしばらく読むのだ。そんな名前を俺はただひたすら待つのみだけど、ひとつだけ、変わったことがある。

 名前は、分厚くて難しそうな本を読むことがなくなった。
それはどうしてかと名前に聞いてみたことがあるけど、名前はスッキリした顔で「ひみつ」と笑うだけで教えてはくれなかった。別に深い意味はないのだろうと自分に思い込ませた俺だったが、きっと、何かあることは確かだろう。しかしそれを無理にでも知ろうとは思わない。

(今は…繋がれたこの手が離れなければ、それでいいんだ)
俺は繋いだ手を更に強く握って、名前を見つめる。するとそれに気付いた名前が「どうしたの?」と首を傾げて俺を見つめ返した。


「…ありがと、な」
「えっ?ど、どうしたの急に…」
「っな、何でもねーよ!」
「ええ!?」

俺がいきなり怒鳴ると名前はあわあわと口を震わせて、意味もないのに「ご、ごめんね」と俺の頭を撫でる。(っくそ、また子供扱い…)俺は頭を撫でるその生意気な手を掴み、手の甲にキスを落としてやった。
「!!」
途端に真っ赤になった名前の顔を見て俺はにやりと笑う。

「好きだぜ、名前」
「! わ、私だって…大好き」
「ああ。知ってる」

周りの目も気にせずに、今度は名前の唇にキスをした。

 名前の過去とか、名前が今までどんな奴だったかとか、そんなの俺には関係ない。俺は今の名前を好きになって、今の名前と付き合ってる。
(だから、俺は…)



あなたとわたしの赤裸々
こいつが過去を忘れられるくらい、死ぬほど愛してやるんだ。



 20140113