sekirara | ナノ
※キルア視点


 クロロを殴った左手が未だにじんじんと痛んで熱い。
散々に怒鳴り散らして最終的に手も上げて、俺がこうしたことが名前にとって良い結果になるかは、考えなくても分かる。名前はきっと赤くなったクロロの右頬と俺の左手を見てまた涙ぐむだろう。

(俺、は……)


ただ、自分がそうしたかった。クロロを許せなかった。名前を好きだっていう気持ちが俺にこうさせた。そんな言い訳にすらならないような理由はいくらでもあるのに、どうしても"名前のため"という理由が出てこない。
別にクロロを責めたのと殴ったことを後悔しているわけじゃない。ただ問題なのは、それが名前のためになるのかということだ。

「っ…くそ…!!」

考えれば考えるほどに、自分がどうしようもないガキだと分かる。


――名前は俺に、"あの子は関係ない"と言った


そんなの、知らなかった。


名前はお前を巻き込もうとしなかった


知っていたら、俺はどうしていた?クロロを責めたり殴ったりしなかった?


それなのにお前は名前の気持ちも知らずに俺達の問題に首を突っ込んで…


「!」
クロロが言った言葉を思い出して、俺は思わず足を止める。
(名前の気持ちも、知らずに……)
そう、後悔なんか、してない。自分のしたことが正しいとか、そういう風には思わないけど。だけど名前は、クロロが殴られたと知ったら「キルア君に本当のことを話さなければ良かった」と思うんじゃないだろうか。

(名前の、気持ち…)

俺が知ってるのは事実だけ。あいつの言う通りだ。"事実"と"名前の気持ち"は違う。全くの別物だ。

 俺は近くの壁に体を預けて、その場に蹲る。
(知らない。俺は)
本当に名前のことが好きなのに、それなのに俺は
(名前の気持ちを、知らない)


またひとつ感じた"距離"に、ただ心が痛くなった。



 20131011