sekirara | ナノ
 日差しがだんだんと落ち着いて、時刻は三時過ぎ。帰りのホームルームが終わると、クラスメイトはちらほらと教室を出て行った。
いつもなら学校が終わって心が軽いはずなのに、今日は違う。先ほどのキルア君との会話が、確実に私を責め立てていた。

「放課後、ちゃんと待ってろよ」
キルア君はああ言っていたけれど、正直なところ今すぐにでも逃げ出してしまいたい。学校にも来たくない。キルア君が私とクロロ、そしてあの人のことをどこまで知っていて、どのように思っているのかが分からなくて、ただそれだけが恐怖で不安で。

「はあ…」
深いため息を吐いては、キルア君はまだかと廊下に視線をやる。早く帰りたい。でもキルア君には会いたくない。でも、帰りたい。
もういっそのこと帰ってしまおうかと思った時、教室に残っているのが自分だけということに気付いた。すっからかんになった教室はいつもより広く感じて、なんだか感覚がおかしくなる。私は廊下でキルア君を待つ事にした。


 廊下に出てからしばらくしても、キルア君は来なかった。
時計を見て、緊張と不安により加速する鼓動を落ち着かせて、また時計を見てはキルア君を待つ。そんなことを繰り返していると、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。

「、キルア君?」
思わずそう問いかけてしまったけれど、返事はない。
しまったキルア君じゃなかった、と思い恥ずかしさに顔を伏せてその人物が遠くに行くのを待つ。しかし足音は確実にこちらを近づいてきて、ついには私のすぐ目の前で止まった。

(誰、だろう)

伏せていた顔をその人物に向けて、誰なのか確認する。と、同時に私の鼓動は痛いくらいに加速した。


「っ……ク、くら、」

冷や汗がぶわっと滲み出る。指先が震えて、足は動かすことができずに固まってしまった。
目の前に立つ人物は、私の記憶にずっと居て記憶から消す事なんてできずにいた、紛れもない、あの人で。

どうして、あの人がここにいるのか。
どうして、今にも何かを言いたそうな顔で私を見ているのか。

もう考えることすらできなくなってしまった脳みそは、私に一つだけ命令した。

(彼の、名前を、)



「―――クラ、ピカ……」


 少しだけ空いた窓から入り込んだ風が、彼の綺麗な金髪を揺らす。
揺れた金髪の隙間からのぞくピアスは、私の記憶に残っているものと同じだった。

私と同じ制服に身を包んで、あの頃と何一つ変わらない彼は、私に手を伸ばして優しく抱きしめた。


(どうして、なんで)
(そんな疑問は、彼の匂いにかき消されてしまう)


 20130701
ごめんなさいスランプなのでもしかしたら書きなおすと思います。