aisiteHERO | ナノ
(今泉視点)


 本田は、教室でキャーキャー騒いでいる女子とは違って、大人っぽい印象の奴だった。
休み時間はほとんど席を立たずに本を読んだり携帯をいじっているし、だけど別に友達がいないわけじゃない。その証拠に、放課後になるとギターを背負って友達らしき女と二人で教室を出で行く。どこか、不思議な奴だ。
それと同時に、俺は本田とは仲良くなれないと思った。そもそも女子と仲良くなるつもりなんてないし、きっとこいつも俺と仲良くなる気なんてないだろう。

 しかしそんな本田と高校生になって初めての席替えで隣の席になった時は少しだけ吃驚した。ああ、こんなこともあるんだな、と。しかし別に本田のことが好きなわけではない俺が本田と隣の席になって喜ぶ理由なんて無く、強いて言えば"うるさい女が隣じゃなくて良かった"というものだろう。
しかしどういうわけか授業中も休み時間もやたらと本田が目について、本田は実は授業態度があまり良くないということ、そして授業中はいつもヘンテコな落書きをしたりペン回しをしていること、その他にも少しだけ本田のことが分かってきたような気がする。




 とある日の休み時間、俺が本田と初めて話したきっかけは、本田が俺に鳴子のことを聞いてきたことだった。

「ね、ねえ今泉くん」
「なんだ?」
「あのさ、自転車部に赤い髪の人いるよね?えっと、背が小さくて…」
「…鳴子のことか?」
「な、鳴子くんって言うの?」

初めて鳴子の名前を知ったであろうその表情を見て、何となく、悟った。どこか嬉しそうに鳴子の名前を口にして、そしてまた控えめに俺を見る。
(こいつ、鳴子のこと好きなのか)
あんな奴を好きになる女もいるんだな、と心の底で驚いていると本田は

「わ、私の友達が、鳴子くんのこと好きって言ってたから、ど、どんな人なのかなって思って…」

だなんて俺の推測を呆気なく外させた。
やや挙動不審な動作が気になったが、どうせ俺と話すのを怖いと感じているんだろう。俺は「そうか、」とだけ返してから、ちらりと本田を見つめて続けた。

「そいつの恋、実ると良いな」
「、え…?」

(まあ別に、鳴子が誰と付き合おうと興味なんてあったもんじゃないが)
と心の中ではそう思いつつも、まあそんな物好きを密かに応援してやろうという気にもなった。そんな俺の気も知らずに本田は嬉しそうに笑う。本当に、不思議な奴だ。




 そんなどうってことない会話を終えて、本田はいつもと同じように次の授業の準備を始める。俺はそんな本田を横目で見つめて、さっき見た本田の笑顔を思い出した。

(…思ってたよりは、話しやすい奴、なのかもしれない)

まぁ何はともあれ、俺が本田と特別親しくなる日は来ないであろうが。




 20131209
ヒロインちゃんと初めて話した時の今泉の心境を書きたかったので!
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
アンケートや拍手にて、応援や感想を送って下さりとても励みになっております。本当にありがとうございます!