aisiteHERO | ナノ
 ギター部の朝練で新しく買ったピックを使っていると、憧れの先輩に気付いてもらえて私はいつもより嬉しい気分で教室へと向かっていた。
朝練が終わる時間帯にはまだあまり生徒は登校していなくて、教室に着くと片手で数えられるくらいの人数しか教室にいないのが毎日の「当たり前」だった。だから別に急いで教室に向かうなんてことはせずに、ゆっくりと廊下を歩く。というより、ギターを背負ったまま走るなんて肩が痛くてそう簡単にはできやしない。

 私がなるべく時間をかけて教室に向かっていると、不意に廊下の向こうから歩いてくる赤毛を見つけて思わず足が止まった。
目をこらしてよく見ると、やっぱりあの赤毛は、そうだ。(な、鳴子くん…!!)
楽しそうに大きな声で喋っている鳴子くんの隣を歩いているのは、鳴子くんと同じくらいの身長の眼鏡男子だった。

私が立ち止っていたから鳴子くんと眼鏡男子はぐんぐんとこちらに近づいてきて、ああ鳴子くんとすれ違う!なんて思っていたら鳴子くんは立ち止まっている私を見た途端少し驚いたような顔で「あ!」と声を上げた。

「この前の!」
と私を指差して笑った鳴子くんに、心臓が破裂してしまいそうになった。(鳴子くん、私のこと覚えててくれたんだ…!)
突然のことに驚いたのと嬉しいので何も言えずにいると、鳴子くんの隣で私と同じように唖然としている眼鏡男子が控えめに口を開く。
「あ、ギター部の本田さん」
「えっ?」
その言葉に驚いて視線を鳴子くんから眼鏡少年に移すと、彼は「あっ!言っちゃった!」みたいな顔で慌てて口を塞いだ。
「私のこと知ってるの?」
疑問に思いそう聞いてみると、彼は大きく頷いて
「ま、毎日重そうなギター背負って学校来てるから…ギター背負ってる姿って、そのっ、すごいかっこいいから記憶に残ってたんですよ!」
と何やら嬉しそうにそう言った。

(…あれ?もしかして…)
ふと思いだした今泉くんの言葉。

「毎朝毎朝重そうなギター背負ってるって、小野田が言ってた」

(ああ、そうか…)

「小野田くん?」
「えっ!?ボクの名前しってたんですか!?」
「う、うん」

あえて今泉くんから聞いたとは言わなかったけど、小野田くんは何だか照れたように笑うから可愛いなと思った。するとしばらく口を閉じていた鳴子くんが私を見て笑う。
「本田さんって言うんか」
「!」
その笑顔があまりにも優しくて、明るくて。私は急に騒ぎ出した心臓を抑えることができずに、小さく頷く。すると鳴子くんは左右の腰に手を添えて、自慢げに言った。

「ギター部ええやん!なかなか派手やで!」
「は、派手?」
「せや!何や、こう、ギャーン言うてギターかき鳴らすんやろ!」

楽しそうにエアギターのモノマネか何かをしながら笑う鳴子くんを見ていると、なんだかすごく見た目通りの子だなって思って、嬉しくなった。
鳴子くんの中のギターのイメージはあまり上手く掴めなかったけど、笑って流せば鳴子くんは気にせずにまた笑う。

「下の名前なんて言うん?」
「え?あ…ゆらだよ」
「ええ名前やな」
「!あ、ありがとう…」

あまりにもかっこいい顔でそんなこと言うものだから真っ赤になった顔を隠すのに必死でいると、小野田くんがナイスタイミングで「そろそろ行こうよ、鳴子くん」とフォローを入れてくれた。(本人はそのつもりはないのだろうけど)
「せやな!」と返して鳴子くんが私を見る。

「ゆら、ギターかっこええで!部活頑張るんやで!」
あまりにも明るいその笑顔に、また頬が熱くなる。
隣で小野田くんも「頑張ってね」と笑ってくれて、私はなんだか朝から良いことばかりだ。
「うん、ありがとう!」


(あなたを、もっと知りたい)


 20130711
考えてみたら鳴子くんの大阪弁すごい似非なんです。すみません…。