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 目を見開いた今泉くんが、足を止めて振り返った。私はそんなのも気にせずに俯いたまま吐き出すように言葉を続ける。

「あの日…もう応援してくれなくていいって言ったこと、すごく、後悔してた…」
「!、……」
「っ、今泉くんが…離れて行っちゃうと思った…もう二度と、話せないような気がして、せっかく隣の席になったのに…せっかく、仲良くなれたのに、っ…せっかく……」
「本田、」
「好きに…なった、のに…!」

俯いたまま子供のように泣きじゃくっていると、今泉くんの足音がこちらに向かってきているようだった。私はゆっくりと顔を上げて今泉くんの顔を見る。

「今泉く
「もう一度だけ、言わせてくれ」

今泉くんはしゃがみ込んで私に目線に合わせると、優しい表情で言った。

「お前が好きだ」
「…!!」
「俺がお前の恋の応援のためだけに一緒にいると思ってたのかよ」
「っ、だって今泉くんは…」
「応援なんかした覚えがないな」
「! え、」
「…好きな奴の恋なんか応援できるかよ」

そう言われて、思わず顔が熱くなる。きっと顔は真っ赤になっているだろう。私は恥ずかしくてまた俯いてしまった。すると今泉くんが私の頭を優しく撫でて、私の髪にそっと顔を寄せる。

「ひでえ話だろ」
そう言った今泉くんがあまりにも温かくて、愛おしくて私は唇を噛み締めた。

「殴りたかったら、殴って良いぞ」
「今泉くん」
「…ああ」
「助けてくれて、ありがとう」

目一杯の笑顔で今泉くんの胸に顔を埋める。今泉くんの大きな背中にそっと腕を回すと、優しくて温かい匂いがした。まるで今までの五日間が嘘みたいに、胸が幸せで一杯になる。

「好き。好きだよ、大好き、今泉くん」

 こんなにも誰かを好きになったことなんてなかった。私にとっての一番は音楽だった。人は夢があればそれで良いと思っていたのに、いつからだろう。鳴子くんを好きになって、今泉くんと知り合って。苦しくて悲しいこともたくさんあったけど、私は、

「隣の席になったのがお前で良かった」
「私も、同じだよ」

今泉くんに救われた。今泉くんが、私を救ってくれたんだ。私はこの人に出会わなかったら、きっと、悲しみに溺れて何もかも失っていた。今泉くんが隣にいてくれたから、今泉くんが居てくれたから。

「…なあ、本田」

そっと頬に手を添えられて、今泉くんと目を合わせる。どきどきと心臓が高鳴る中、私と同じように頬を染めた今泉くんが、言った。


「俺と付き合ってくれ」
「もちろん」

 今泉くんは私のヒーローだ。


 20140727