aisiteHERO | ナノ
 高校生になって初めての席替えで、今泉くんという目つきの悪い男子と隣の席になった。今泉くんは自転車がすごいって噂だけ聞いたことがあって、密かに女子に人気があるらしい。私は今泉くんを近くで見たことがなかったからよく分からなかったけど、こうして隣の席からよく見てみると格好いいんだと実感した。ちょっとくらい悪い目つきも、ウニみたいにつんつんした髪も、わりと、逆にそういうのが良いのかもしれない。
だけどそう思ったからと言って、私がこれから今泉くんと仲良くなるかといわれるとそれは無理だと思う。私は今泉くんのような厳しそうな人は苦手だから。

「ゆら、部活行こ」
「あ、うん」
ホームルームが終わった後、友達が声をかけてきたから私は急いで帰りの支度をして、ギターを持って教室を出た。
 バッグがぎしぎしと肩を締め付ける痛さに耐えながら部室に向かう途中、ふと窓の外に自転車部の部員たちが準備をしているのが見えたから足をとめた。
いろんな色の自転車が綺麗に並んでいて、部長さんらしき人が周りの皆に指示を出している。そんな光景をしばらく眺めていると、友達に「早く行こうよ」と怒られてしまった。
あわてて友達の背中を追いかけながらもう一度窓の外に目をやると、さっき見た自転車部の集団とは少し離れたところで、今泉くんが一人で自主練しているのが見えた。

(あ……)
必死にペダルを動かす今泉くんを横目で眺めていると、今泉くんに大きな声で話しかける赤毛の男子が目に入った。

「――スカシ!!」

(…スカシ?)
聞こえた言葉を頭の中で繰り返して、それってもしかして今泉くんのことだろうか?なんて考えてみる。スカシという言葉しか耳に入らなかったけど、元気の良いその声はいつまでも私の耳の奥に残っていた。



部活が終わると、空はもう真っ暗で驚いた。曇り空のせいだろうか。私は携帯をとりだして時刻を確認する。六時半。まあ、いつもより少し遅いけど急いで帰れば親に怒られることはない。私はなるべく早く学校を出ようと、少し速足で昇降口に向かった。

昇降口を出て少し歩くと、ふいにさっき見た赤毛が目に入ってきた。
(あ、)
さっきの、子だ。さっきは窓から見たからよく見えなかったけど、少し歩けば話しかけられる距離にいる彼は少し背が小さくて。近くで見れば見るほど、その赤毛は存在感を増す。そんな彼に少しだけひかれつつ、早く帰ろうと足を浮かせた時だった。

「なあ」
急に彼が目の前にきていた。
「、え?」
「今、何時か教えてくれへん?」
「じ…時間?」
こくりと頷く彼を少し凝視して、それから腕時計を確認した。
「六時半過ぎ、だよ」
「もうそんな時間やったんか!おおきにな!」
「う、うん」

騒がしく音を立てて私の目の前から走り去っていった赤毛の彼。そんな彼の後ろ姿を見つめながら、唖然と立ち尽くす。さっき彼に声をかけられた時から、ずっとうるさいくらいに騒いでる心臓が。ちょっと会話しただけなのに震える手が。なんかおかしくて、変で。驚くくらいに緊張していて、何がなんだか分からなくなっていた。

「か、っこ……」

(――かっこ、いい…)

それに名前を付けるなら、"一目惚れ"が合っているだろう。


 20130513
よわぺだ長編はじめてみました〜!
個人的に鳴子くんがすごくすごく好きなのですが落ちは今泉です。
だけど鳴子くんのほうが好きなので、いいかんじにどろどろした三角関係が書ければな〜と思ってます!つまらない話だとは思いますがお付き合いくださいませ!