aisiteHERO | ナノ
 小さい頃、親に連れられて行った買い物で初めてギターを目にした。
音楽には無縁だった私が、初めて生で目にした楽器がそれだった。今とは違いほとんど友達と関わろうとしない私にとって、その出会いはとても大きなものだったんだと思う。まだ小さいからと言われなかなかギターを触らせてもらえない代わりに、たくさんギターの本を読んだ。コードの勉強から上手くなるコツまで、ギターを持っていないくせに、弾いたこともないくせに夢中になって色んな知識を得た。

初めてギターを買ってもらったのは、確か小学六年生。初めてその弦に触れて音を奏でた時、本気で、ミュージシャンになりたいと思ったんだ。

 高校生になった私は人とつるんでワイワイ騒ぐのは好きだけど、あまり得意ではない方で。クラスにはたくさん友達もいるし、他クラスにも何人か交流のある人がいる。
でもいつも一緒に、ましてやトイレまで一緒なんて私にはすこし考えられなかった。休み時間は自分の好きなことをしていたいし、放課後だって大人数で寄り道をして帰ったことなはい。そんな私の周りにはいつも構ってくれる友達なんて誰もいないはずなのに、いつだって誰かが声を掛けてくれた。
その一人が、今泉くんだった。

はじめはあまり仲良くなれそうなタイプではないと思っていたのに、私たちが仲良くなるのにそう時間はかからなくて。思えば、今泉くんには恥ずかしいところを見られてばかりだ。
授業を真面目に聞いていないことがバレたり、好きな人がバレたり、鳴子くんに彼女がいると勘違いして泣いているところを見られたり、泣いているところを見られたり、泣いているところを見られたり。きっと私は泣き虫だと思われてしまっているだろう。でも今泉くんは毎回、私が泣き止むまでそばにいてくれた。

「てっきり、ゆらは今泉くんのこと好きなのかと思ってた」

(…"好き"……)
今は正直、好きという気持ちがよく分からない。今泉くんのことを好きな人を、私はたくさん知っている。他のクラスの子からも注目を浴びているくらい今泉くんは格好良いし、それに、先輩の名前先輩だってそうだ。
そんな今泉くんが私を好きなんて、有り得ないと思った。でもあの今泉くんの表情が、声が、あまりにも真剣すぎて。思い出すだけで、胸がじんわりと熱くなる。


「……今泉、くん」

 あれから三日が立った今、一度も今泉くんと会話をしていない。目すら合ってない。なんて声を掛けて良いのか分からないし、きっとあっちも声を掛ける気すらないんだと思う。悩んでいるうちにどんどん時間は過ぎていくし、良い解決法も見当たらない。

 このままだと、本当に、一生今泉くんと話せなるような気がして怖かった。


 20140719