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「ゆら、いつから今泉のこと好きなの?」

 放課後、いつものように部活で練習をしていると友達がいきなりそんなことを言い出したものだがら、私は思わずアンプを弄る手を止めた。

「…え、いや、あの、……え?」
「ん?」

私が目を点にして友達を見つめると、友達は"私何か間違ったこと言った?"みたいな顔をして首を傾げる。そして友達もベースを弾いていた手を止めて、言った。
「今泉のこと好きなんでしょ?」
いやいやおかしいって。

「す、好きじゃないよ。何でいきなりそんなこと…」
「だって皆あんたと今泉のこと、席が隣になってから妙に仲が良いって言ってるし」
「それは友達だからだよ…」
「友達ねえ」

私の言葉に、友達はなにやら納得がいっていないようだ。
確かに私と今泉くんはよく話すし、話すし、…話す、くらいしかしてないような気がするんだけど。

「でもそういう風に言われる相手が今泉なら、嫌じゃないっていうかむしろ優越感なんじゃない?」
「え…そう、かな?」
「だって今泉、モテるし」
「……へえ…」

(そっか、そう…だよね)
今泉くんは背が高くてクールで顔も整ってるし、そりゃあモテないわけがない。おまけに自転車もすごく速い(らしい)。そういえば女の子と話している所はほとんど見ないけど、女の子が今泉くんの話をしているのはよく見かける。

「……でも私は、あんまりそういうの、考えないな」
「そうなの?」
「…うん」
「あんた、そういうの興味ないもんね」
「ふ、普通に恋愛はするよ?」
「そういう意味じゃなくってさ」

友達の言う意味がよく分からずに首を傾げると、友達は短く息を吐いてから半分呆れたような顔で続けた。

「鈍感で、うちのクラスの女子みたいにうるさく騒がないところ。そういうのに今泉は魅かれたんじゃないの」
「……魅かれ、た?ってそんな
「そろそろ気付いてあげなきゃ可哀想だよ」
「え?」
「ていうか、」

私が友達のペースについていけないまま困惑していると、友達は私から視線を外して首から下げているベースに視線をやる。大事そうにベースの弦に触れながら、表情一つ変えずに口を開く。冷めきっているというか、相変わらず、クールな子だ。

「てっきり、ゆらは今泉のこと好きなのかと思ってた」

再び放たれたその言葉に、私は強くコードを握り締めて俯いた。
 あの日、保健室で今泉くんが見せた悲しそうな表情が、いつまで経っても頭から離れない。どうしてあんな顔をしたのか、どうしてあんなに悲しそうだったのか、私にはどうしても分からなくて、苦しかった。

「…ゆら?」
「ちがうよ。今泉くんは」
「、」

せめてあと少しだけでも、今泉くんの考えていることが分かれば、私は今泉くんにあんな顔をさせずに済んだ。私にたくさん気を遣ってくれて、優しくしてくれて、私は今泉くんに恩返しをしなくちゃいけないのに。
(…傷付けて、どうするの)


「今泉くんは、友達だから」

 まるで自分に言い聞かせるようにそう言うと、胸が張り裂けてしまいそうなくらい痛んだ。



 20140713