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 昼休み。私は教室に来るはずの先輩の名前先輩を待っていた。しかし先輩の名前先輩が目当てとしている今泉君は昼休みになった途端どこかへ行ってしまったため、(余計なお世話かもしれないが)先輩の名前先輩には今泉君が戻ってくるまで待っててもらうことにしよう。
しばらく友達とお弁当を食べていると、教室の外から聞き慣れた声が聞こえた。

「ゆら」

私はその声を聞こえると同時にドアの方へ走る。
「先輩の名前先輩!」
廊下に出るといつもの優しい顔で微笑んだ先輩の名前先輩が立っていた。

「ごめんね、急に来るなんて言い出して」
「いえ、全然。気にしないで下さい」

私も笑顔でそう言うと先輩の名前先輩は綺麗な髪を揺らしながら控えめに教室を覗き込む。それを見て私は今泉君のことを思い出し、先輩の名前先輩に伝えた。
「今泉君、もうすぐ戻ってくると思うんですけど…」
今泉君の名前を聞いた途端に、先輩の名前先輩は少しばかり頬を赤くする。

「い、良いのよ。その…少し見れたらと思っただけだから」
「それなら尚更ですよ!」
「そうかしら…」
そう言うと先輩の名前先輩は少し視線を下ろして苦笑した。
「先輩?」
「何だか、気を遣わせちゃってごめんね」
「そんな。本当に気にしなくて平気ですよ!私が好きでお節介してるんですし」
「ううん、すごく嬉しいわ。ありがとう、ゆら」
「こ、こちらこそ!」

あまりに綺麗な先輩の名前先輩の笑顔に思わず見惚れてしまう。
 正直、今泉君は先輩の名前先輩のことをどれだけ知っているんだろうか。先輩の名前先輩はすごく美人だから有名な方だし、こうして一年のフロアにいるだけですごく目立つ。前に今泉君に年上が好きかと聞いた時は曖昧な返事をされてしまったが、きっと今泉君だって百パーセント恋愛に興味がないわけじゃあないだろうし。
(そりゃあ、恋愛より自転車の方が何倍も大事なんだろうけど…)
そんなことばかり考えていたのだが、ふと少し前に先輩の名前先輩と話したバンドのことを思い出して私はバッと顔を上げた。

「そういえば、先輩が好きって言ってた好きなバンド名の新曲もう聴きました!?」
「えっ?あ…ええ、聴いたわよ」
「本当ですか!私、先輩が好きって言ってたバンドだからすごく気になってて…それで試しに聴いてみたらすごく好みで!」
「! そうだったの、良かったわ。ゆらとは好みが合うものね」
「はい!今度CD買いに行くので、良かったら一緒に行きませんか?あと楽器屋も!」
「ええ、もちろんよ!一緒に行きましょう」
「ありがとうございます!」

何より先輩の名前先輩との約束ができたことが嬉しくて目一杯の笑顔を浮かべると、先輩の名前先輩も笑顔を浮かべているものの、それがほんの少しだけぎこちないものに見えた気がした。
やっぱり今泉君を見れなかったことがショックだったんだろうか。よく分からなかったが、あまり気にしないことにし、しばらく会話を続ける。話題が音楽のことから他のことに変わっていくにつれて、先輩の名前先輩の笑顔も自然なものへと戻っていった。
 それからも他愛もない会話を続けていると不意に先輩の名前先輩が時計へと目をやる。

「もうこんな時間…それじゃああたし、そろそろ教室に戻るわね」
「え、でもまだ今泉君が…」
「今日はゆらと話せただけで十分よ」
「!」
「ゆら、また部活でね」
「は、はい!」

(ど…どうしようすごく嬉しい!)
どの先輩よりも尊敬している先輩の名前先輩にそう言ってもらえて私は浮かれたまま教室に戻った。先輩の名前先輩と今泉君の中を縮めることは全くもって出来なかったけれど、これはこれで良いのかもと思ってしまう自分もいた。


 20140614