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(今泉視点)


 昼休み、俺は鳴子に呼ばれて6組の教室まで来ていた。
鳴子が俺を呼びだすなんて(しかも昼休みという貴重な時間に)一体何の用かと思えば部活のことで連絡事項があったらしい。せっかくの昼休みにまで何故コイツの顔を見なくてはならないのかと気分が悪かったが、部活のことなら仕方がない。できるだけ早く話を終わらせて教室に戻ろうとした時だった。

「なあスカシ、さっきゆらが具合悪そうにして歩いとったんやけど」
「…ああ」
「もう大丈夫なん?」
「心配なら本人に聞いたらどうだ」
「はー、ほんっまにスカしたやっちゃな!もうええわ!」

俺が少し冷たく返すと鳴子は口を尖らせて俺を睨む。今のは、大人げない八つ当たりだった。鳴子の口から本田の名前が出てきたというだけのことなのに、何故か過剰に反応してしまう。(本当に…どうかしてるな)

「鳴子」
「あ?何や」

あれだけ不機嫌そうな顔をしていたにも関わらず俺の呼びかけにちゃっかり応答する鳴子は、まあそこそこ素直でそこそこ良い奴だとは思う。チームメイトということもありコイツのことは認めてはいるが、やはり、一緒にいると苛立つことばかりだ。良い意味でも悪い意味でも。

「……本田のこと、どう思う」
「……はぁ?」
「だから、お前は本田のことどう思ってるのかって聞いたんだ」
「ゆらのことどう思っとるって…そりゃあゆらはアレや、ウサギみたいやわ」
「…そういうことじゃなくて…だな」
「せやから急に何やねん!きしょいわ!」

ああうるさい。鳴子の馬鹿でかい声が耳に響いて頭痛がする…というのはさすがに言いすぎだが、俺は騒がしいのが嫌いだ。そんな俺の視線に気付いたのか鳴子も少し静かになり、また悩みながら口を開く。

「せやなぁ…ゆらはワイよりちっこいし優しいし、ワイは好きやで。ちょっと大人しすぎやけど!」
「!!」

(好き……)
鳴子が至って平然と口にしたその言葉に、俺は目を丸くして固まった。
好き。鳴子の言った好きは、きっと、友達として好きという意味だろう。そうは分かっているはずなのに、どうしてこんなに焦っているんだ俺は。
そもそも本田も本田だ。何が面白くてこんな奴のことを好きになれるのかが分からない。確かにコイツは女子にモテる。気さくで話しやすいのは事実だと思うし、運動もできて目立ちたがりで周りに好かれないわけがない。でも何で、本田まで。

「…そうか」

しばらく沈黙が続いた後、俺が静かな声でそう言うと鳴子は俺をまじまじと見つめて
「ははぁーん、もしかしてスカシ、ゆらに惚れとるんやろ?な!そうやろ!?」
まるで俺をからかうように笑った鳴子に、俺は心の底から腹を立てた。コイツは、何も分かっちゃいない。本田の気持ちも俺の気持ちも何もかも。
(……ムカつく)

「…うるさい。お前の声は耳に悪い」
「なんやと!?」
「用事はもう終わったし、俺は教室に戻る」
「聞くだけ聞いてそれかい!ホンマに意味分からんヤツやな!」
「いい加減黙ってくれないか」
「それはこっちの台詞や!!」

結局俺たちはいつものように言い合いをするだけしてお互いの教室へと戻った。

「私は…鳴子くんの彼女にはなれない」


「………」
本田は、一体どんな気持ちであの言葉を口にしたのだろうか。教室に戻っている時、そんなことを考えた。本田の考えていることは何となく分かるような気がするのに、上手く理解ができない。そういった意味では俺は本田のことなど何も分からないし、分かれるような気がしない。
 ただ俺は、本田の笑う顔がもっと見たかった。だから俺にできることなら最大限してやりたいとも思う。それを本田に伝えたら、きっと本田は引くかもしれない。それでも俺は、本田を気遣おうと心に決めた。少しでも本田の悩みが減るように。

「協力くらいなら、してやるよ」

(…協力、か)

 俺にできる"協力"は、もうこれくらいしかないのかもしれない。
本田と鳴子がもっと身近になれる方法なんて、考えるだけで嫌になった。


 20140610