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あれから私はもう一時間保健室で休み、早退することなく教室に戻った。
二時間もベッドで休んだから体は随分と楽になっていて、今泉くんにお礼を言わなければいけないと思ったのだがタイミングを逃してしまい、結局授業が始まってしまう。
チャイムが鳴るといつものように教科担任が教室に入ってきた。それを合図に、学級委員が号令をする。ここまではいつも通りだ。
しかし、号令をし着席すると、今泉くんが小さな声で私に言った。
「もう大丈夫なのか?」
「!」
私は今泉くんが心配してくれたことに驚き固まってしまったが、すぐに笑顔を作り返事を返す。
「う、うん。大丈夫だよ」
ありがとう、と付け加えて今泉くんを見ると、今泉くんは至って平然とした表情だった。(あ、あれ……)もしかして気まずいと思っていたのは私だけだったのだろうか。
「…あ、あの、今泉くん」
「何だ?」
「……さっきは…ごめんね」
そう言って視線を下げると、今泉くんは黙り込んでしまった。やっぱり、気にしてないわけじゃないんだ。私がいきなりあんなことを言ったから、きっと今泉くんだって、困ってしまったはずだし迷惑だと思っただろう。そんなことを考えれば考えるほどに気分はどんどん沈んでいった。
しかし今泉くんは私から目を逸らすと、優しい声色で言う。
「顔色もだいぶ良くなったみたいだな」
「!…そう、かな」
「ああ」
少し、というよりかなり、驚いた。今泉くんが優しいのは前からだし痛いくらいに分かっている。でも誰だって、いきなりあんな風に言われたら良い気分はしないはずだ。現に私には今泉くんに嫌な思いをさせてしまった自覚がある。それなのに今泉くんは嫌な顔ひとつせずに、私を気遣ってくれた。
「もう一時間だけ休んどけ」
あの言葉を口にした時、今泉くんはどんな気持ちだったんだろう。それを考えれば考えるほどに、何も分からなくなってしまう。ただ今私にできることは、今泉くんの気遣いに甘えて笑顔を見せることだけだった。
20140610