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「大丈夫か、本田」

 聞き慣れた声で目が覚めると、視界には真っ白な天井だけが映っていた。
どうやら先ほどの真っ白な空間は夢だったらしい。安心したような、けれど複雑な気持ちだ。重い体を起こして周りを見渡してみれば、閉めきったカーテンに大きな影が映っていることに気付く。
(…誰、だろう)
そういえばたった今、彼の声が聞こえた気がした。だけどそんな、まさか。

「……今泉、くん…?」

まさかとは思うけど。半信半疑で彼の名を口にしてみると、返事はすぐに返ってきた。

「ああ…カーテン開けて良いか?」
「!?」

(な、なんで、今泉くんが…!?)
驚いたと同時にすごく焦ってしまって、私は手の甲でごしごしと頬や目を擦る。寝癖とか、寝跡とか付いてないだろうか。とにかくすごいスピードで身なりを整えてから、「うん、いいよ」と小さく返す。するとカーテンが控えめに開いて、今泉くんが入ってきた。なんだか緊張してしまう。

「…具合はどうだ」
「う…うん、もう大丈夫」
「そうか」
「…わざわざ来てくれたの?」
「! い、いや…」

今泉くんは少し気まずそうに顔を逸らしてから、すぐに、静かな声で言った。

「お前さ」
「な、なに?」
「鳴子と何かあったのか?」
「…!!」

あまりに真剣な今泉くんの表情に、私は思わず俯いてしまう。何か答えようとしても、あの夢のことが頭によぎって何も言えなくなった。
(……鳴子くん、は…)
あの子の告白を受け入れたのだろうか。失恋したというのは夢だったけれど、それでも、正夢という可能性だって大いにある。こうして私がうじうじ悩んでいる今も、鳴子くんはあの子のことを想っているかもしれない。

「…今泉、くん」
「?」
「もう、応援してくれなくていいよ」
「…は?お前それどういう
「大丈夫、もう大丈夫だから、今泉くんは教室に戻ってて」

私が唇を噛み締めながらそう言うと、今泉くんは何も言わずに私を見つめた。そして、眉間に皺を寄せて言う。

「何か、あったんだろ」

まるで、幼い子供をあやすような、優しい声だ。私は今泉くんから目を逸らして言った。

「私は…鳴子くんの彼女にはなれない」

気付けば目に涙が滲んで視界がぼやける。ああ、これじゃあまた今泉くんに迷惑をかけてしまう。(止まれ…止まれ、止まれ)必死に涙を堪えようと息を止めた時、今泉くんは私の頭をぽんと撫でた。
それに吃驚して顔を上げると、今泉くんは
「もう一時間だけ休んどけ」
とそれだけ言って保健室を出て行ってしまった。


(…私は、どこまでも勝手だ)



 20140504