aisiteHERO | ナノ
 今日はあまりツイてない気がする。
放課後の掃除で皆が最も嫌がるゴミ捨てジャンケンに負けてしまった私は、同じくジャンケンに負けたクラスメイトの男子(確か浦宮くんだったと思う)と二人でゴミ捨て場まで来ていた。昔からジャンケンが弱くて、まあ何というか、こうなることは薄々分かっていたのだ。どうせ私がゴミ捨て当番になっちゃうんだろうな、とか思っていたらこの有様である。それもこれも最近恋だの何だので浮かれていたバチが当たったからだと自分に思い込ませながらゴミ捨てを終えて教室に戻ろうとしていた時だった。

「……、…」

(…ん?)
少し向こうにある倉庫の陰から何やら聞き慣れた声が聞こえた気がして足を止める。よく耳を澄ましてみると、私はそれが"彼"の声だということに気付いた。

「本田?」

突然立ち止った私を心配したのか浦宮くんは「どうした?大丈夫か?」と言い引き返して私の顔を覗き込む。しかし私はそんな浦宮くんに返事をすることすら忘れて、倉庫の陰に立っている二人の人物を見つめた。
 真っ赤な顔で立っている女の子と、もう一人は、鳴子くんだった。

(…なに、話してるんだろう)
まさか、と心臓が嫌な音を立てる。あの時の今泉くんの言葉がふとに頭をよぎった。
「あいつはああ見えて結構女子に人気あるから、モタモタしてるとすぐ誰かに取られるぞ」
そうだ。そもそもクラスが違うから自転車に乗ってる鳴子くんや小野田くんと一緒にいる鳴子くんしか見たことが無かったから、今泉くんの忠告などすっかり忘れてしまっていたけど。鳴子くんは……


「…鳴子君のこと、ずっと好きでした」

不意に聞こえた女の子の声に、私は胸がこれでもかというくらい締め付けられる痛みを覚えた。
鳴子くんは女の子から人気があって、明るくてきらきらしてて、私みたいな"普通の人間"には眩しすぎる存在、なんだ。
(きっと私なんか…)
私なんか鳴子くんの眼中にすら映っていない。


「うわっ、思いっきり告白してんじゃんアレ」
「……」
「本田、ほら早く教室戻るぞ」
「………」
「……本田?」
「! えっ?あ、う、うん。分かった」

浦宮くんの声により我に返った私を見て、浦宮くんは不思議そうに私を見つめた。しまった、これじゃあ私が他人の告白シーンに見入っていた変態みたいじゃないか。そんなことを考えながら、私は慌てて浦宮くんの後を追った。二人の声は、もう聞こえなくなっていた。

 今日は本当にツイてない。そうだこれは、バチなんだ。バチが当たったんだ。私が恋なんてものに浮かれて良い思いばかりをしていたから。
手の届かない相手に、恋なんかしたから。


 20140322