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(今泉視点)


 本田が一人で泣いていたあの日から、俺は今まで以上に本田のことが気になってしまって無意識のうちに目で追うようになった。別に好きだからとかそういうわけではなく、ただ単に、本田のことが気になる。そう、ただ気になるだけ。
授業中にヘンテコな落書きをするところとか退屈そうにペンを回すところとかおっちょこちょいなところとか……、鳴子のことが好き、だとか。本田について俺が知っていることが少しずつ増えていくと同時に、俺は何だか妙な違和感を感じていた。


「何か今日、嬉しそうだな」
「えっ、そうかな?」

 朝っぱらから嬉しそうな顔で教室に入ってきた本田に気付き、俺はそう声を掛ける。すると本田は少し驚いたように「私そんなに嬉しそうな顔してた?」と自分の両頬に触れてまた頬を緩ませた。
(…まあ、朝から鳴子と喋れただとかそんなことだろうな)

「さっきね、鳴子くんを見かけたの!」
「…そうか」
「そしたら鳴子くんから声掛けてくれて」
「良かったじゃないか」
「おはようって!」

俺は不器用な返事を返して、本田から目を逸らす。本田はそんな俺に首を傾げて「今泉くん?」と声を掛けてきたが、どうも心で渦巻くもやもやが気がかりで俺はそれどころではなかった。

「あ!そういえば今泉くんって、」
「?」

何かを思い出したように手をポンと叩いた本田が興味深々な顔で俺に問う。

「年上とか好き?」
「…は?」

俺は本田の質問の意味が分からなかったが、とりあえず「別に、そういうのは考えたことないな」とだけ返しておいた。本田は少しつまらなそうな顔で「そうなんだ」と言い隣の席に腰を下ろす。俺はそんな本田を横目に、また妙な違和感を感じた。何なんだこれは。

「また鳴子くんに会えるといいな」

隣から聞こえた本田の嬉しそうな独り言に、俺は心のどこかから小さな苛立ちが湧き出ていることに気付かずにいた。


 20140318