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 今泉くんは本当に優しい人だ。
昨日はそんな優しい今泉くんに迷惑を掛けてしまった。今泉くんは私が落ち着くまでずっと隣にいてくれて、きっと今泉くんは女の子と関わるのが得意じゃないはずなのに私に他愛もない話題を振って笑わせてくれたのだからお礼をしなきゃいけない。私はそう思い、急いで家を出た。

学校に着いたのは何といつもより一時間以上も早い時間。校門をくぐると向こうの方で自転車部の人達が朝練の準備をしていた。そう、これが狙い。少しでも早く今泉くんにお礼を言いたくて、そして朝練の応援もしたい。これまた迷惑かもしれないが私はそれほど今泉くんに感謝しているのだ。
何だか緊張している身体を解そうと深呼吸をする。自転車部の部室に少し近づいた時だった。

「あれっ、本田さん!」

後ろから小野田君の声がして私は慌てて振り返る。そこにはこの前の制服姿ではない、ジャージに身を包んだ小野田くんが立っていた。

「ど、どうしたんですか?こんな早くに…」

少ししどろもどろになりながらも私にそう尋ねてきた小野田くんに私は笑顔で返す。
「ちょっと、今泉くんに用事があって」
「! 今泉くんですか?ち、ちょっと待ってて下さい!」
「えっ?あ、小野田くん!」

私を置いて部室へ走って行ってしまった小野田くん。私はぽつんと取り残されて、どうしようか焦ってしまった。しかしすぐに部室から小野田くんが出くる。そして、小野田くんに続き今泉くんが姿を現わした。どうやら今泉くんを呼んできてくれたらしい。

「…本田?」

今泉くんが私を見て首を傾げる。私はバッと頭を下げて叫ぶように言った。

「い、今泉くん、昨日はごめんなさい…!」
「昨日?」

私から視線を逸らして少し考え込んだ今泉くんだったが、すぐに「ああ」と頷いて私に言う。

「別に、謝る程のことじゃないだろ」
「で、でも…迷惑掛けたのは事実だし、…それに」
「?」
「今泉くんが隣にいてくれなかったらきっと、あのままずっとあそこにいたかもしれない。…本当にありがとう」

満面の笑顔を浮かべながら私がそう言うと、今泉くんは勢いよく顔を逸らしてしまった。それがどうしてか理解できなかった私は「今泉くん?」と呼びかけながら彼に少し近づいたのだが、それ以上何も言わずに距離を置かれて少しショックを受ける。

「…とにかく昨日のことはもう忘れて良い」
「え、」
「それじゃあな」

(あ、あれ?)おかしいな。今泉くんは昨日みたいな笑顔ひとつ浮かべずに部室へと戻ってしまった。またもや取り残された私に対し、私たちの会話を終始聞いていたであろう小野田くんは控えめに口を開く。

「本田さん」
「え、あ…なに?小野田くん」
「き、きっと今泉くん、恥ずかしかったんだと思います…」
「恥ずかしかった、って…?」
「僕もよく分からないですけど…今の本田さんの笑顔、すごく可愛くてその、えっと何ていうか…」
「?」

しばらくモゴモゴと何かを呟いていた小野田くんだが、やがてしっかりと私を見つめて言い放つ。


「今泉くんは本田さんのことが好きなんですよ!!」
「えっ」



 20140223