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▼ 海老で鯛とか釣れるらしい





赤司の名前で女を釣ったことがある。
同じ学校のセンパイだ。赤司が中学に入学してきた頃から目をつけていたと豪語していた。だからオレはこうやって近付いた。「オレあいつと割と仲良いぜ。たぶん、バスケ部で一番赤司が心許してんの、オレ」。


「…そうか。それで?」
「会うたびに赤司のこと聞いてくんのがウザくなって別れた」
「そうなることは明白だっただろう。お前はやはり、バカだな」
「うっせーな。あそこまでだとは思わなかったし、ヤるだけなら関係ねーと思ったんだよ」
「事情は分かった。ただちにこの携帯のアドレス変更と通知連絡を実行しろ」
「へいへい。…新アド何にする?オレが決めていーの?」
「好きにしろ」

赤司の連絡先が盗まれたのは、確かにオレの責任だ。寝ている間に携帯を盗み見されるのはよくあることだが、いくらあのセンパイが赤司目当てでオレに引っ掛かったとは言え、オレの携帯から赤司の連絡先がコピーされるとは。恐らくこれは犯罪行為だが、赤司は警察に訴えることなく携帯ショップにオレを連れ出し、新たな番号とメアドを入手して流出した連絡先をきっぱり捨てた。
その手続きはショップ店員がすべて行う。だがこのままでは必要な相手にまで連絡手段が絶たれてしまうので、後の処理はオレに投げ渡された。と言うことで今オレは赤司と携帯ショップ隣のファーストフード店で向かい合わせに座ってる。

「お前誕生日いつだっけ?」
「12月20日だけど」
「1220?へー、あと一日ズレてたら左右対称だったんじゃん。それ何て言うの?ゾロ目?」
「回文数だ。…それがどうした」
「新アドに入れようと思って。あとオレの誕生日も入れてやるよ。覚えろよ」
「…なぜオレのメールアドレスにお前の誕生日を入れるんだ」
「女に教えるとき気をつけろよ。たぶん元カノの誕生日だと思われるから」
設定を完了し、続いてアド変通知メールを作成する。なかば強引に設定したが、やめろとは言われない。こいつにとってはあまり関心のないことらしい。
ついでに言えば、オレに交友関係を把握されることについても無頓着だ。オレは割と他人に携帯を預けることに抵抗があるが、赤司は一切気にしていない。アドレス帳を覗けば、ほぼフルネームで連絡先が登録されている。女の名前は、あまりない。あまりにも潔白過ぎる連絡先一覧を見ていると、浮気バレ防止のために敢えて女の連絡先を男の名前で登録してんじゃねぇのか、なんて疑いが出てくるが、赤司に限ってそれはないだろう。

「まだ終わらないのか」
赤司のプライバシーを眺めていると、やや焦れた声が掛けられる。携帯の画面から視線を外す。珍しく僅かな苛立ちが生じてる赤司の顔がそこにはあった。早く帰らせろってとこか。
「もーちょい。…にしても、お前友達少ねぇな。こんなくれぇなら自分でやれよ」
「誰のせいで連絡先を変更する羽目になった?」
「オレのせいだよ。すいませんでしたぁー」
「謝罪する気持ちがあるならさっさと手を動かせ。それから、二度とお前の快楽にオレの名前を無断使用するな」
「いーじゃん、減るもんじゃねーし。つーかさ、お前もお前だよ。あのセンパイ言ってたぜ?赤司くんって頑張れば落とせそうって。油断してんじゃねーよ」
「…落とす?」
「全然隙がないしぃ、虹村くんに可愛がられてるって噂だしぃ、手ぇ出すの怖いなーって思うんだけどぉ、でも、マジメそうだからきっかけさえあれば案外ころっといけそうだよねぇー、アタシが赤司くんに女教えてあげたいなぁー、って」
「…気色悪いな」
「オレ、会うたびに言われてたんだぜ?そりゃウザくなって別れんだろ?」
「いや、発言の内容以前にお前が不気味だ。再現しなくてもいい」
「リアリティを追及してやったんだろ。どーだよ、赤司。年上の女に貞操狙われた気分は」
「有難い申し出だけど、間に合っているよ」
「…え?間に合ってる?」
「お前の様に遊び回る時間はオレにはない」
「…あ、ああ、そういう意味ね。オレはてっきり」
「なんだ?」
「何でもねーよ。ホラ、アド変メール送ったぞ」

澄ましたツラして遊びまくってんのかと思った、などとは言わずに依頼を達成し、携帯を赤司に返却する。中身を確認することなくそいつをカバンに仕舞った赤司は用は済んだとばかりに席を立つ。
「オイ赤司、もーちょいゆっくりしてこうぜ」
「これ以上お前と共に時間を過ごす理由はないのだけど」
「つれねーな。それがマッハでアド変とメール作成代行してやった相手に言うセリフか?」
「お前…」
「あーやべ、指攣ったー。赤司のために赤司の携帯弄ったせいでオレの指がー。あーもーこれ当分ボール持てねーわ」
「……」
右手をぷらぷらと振りながらイヤミったらしく訴える。赤司は冷えた眼差しをオレに向け。それから諦めのため息をつく。
「…礼を言うよ。面倒な作業を代行してくれて、ありがとう」
「そんだけ?」
「…何を望む」
「えー、赤司がオレのワガママ叶えてくれんの?うっわ、何させっかなー」
「……」
とことん気だるげな表情を見せる赤司は最早何も言わない。相手をするのも疲れるってツラだ。意外と分かり易いとこもあんだよな、こいつは。
そしてこういうツラを見せられるとついついもっと、と煽られてしまうのがオレの性格だ。
と言うわけで、赤司にオレと一緒にいる時間を与えてやる。

「そんじゃ赤司、オレんち泊まって」
「…絶対嫌だ」
「はー?何でだよ」
「…時間を定めた滞在ならば、ある程度は耐えるよ。だが宿泊は断固として拒絶する」
「お前…人んちを肥溜めみてぇに言ってんじゃねーぞ?」
「お前の家を拒絶しているわけじゃない。お前と長時間二人きりで同じ空間にいることが耐えられないと言っているんだ」
「うわ、マジ失礼なこと言ってやがるコイツ。じゃあいいよ、何時間まで耐えられんの?」
「…一時間」
「短過ぎだろ。三時間は頑張れよ。ラブホの休憩時間だってそんくらいだろ?」
「……」
「ば、バカ、何もしねぇよ。んな目で見んな」
余計なことを言ってしまったせいで赤司の眼差しに警戒の色が濃く現れる。妙に焦って否定する自分自身に疑問を持つ。何もしねぇって何だ。何が出来るってんだ、赤司相手に。
「……」
そこでふと思い出してしまったのが、赤司狙いのあのセンパイの発言。

(一回でいーから赤司くんとエッチしてみたいなー。ねえショーゴくん、赤司くんとそういう話ってしないの?赤司くんてエッチするとき、どんな風になるのかなぁ?全然想像できなーい)

「…灰崎」
「うわっ!な、何だよ?!」
「…何を慌てているんだ。行くならさっさとしろ」
「あ、あぁ、…って、赤司、オレんちあっちなんだけど」

ふらふらと席を立ち、店を出て。妙なことを考えていたオレに赤司の冷静な声が掛けられ、動揺を治めながら赤司の後を追う。だが赤司が足を向けたのは、オレんちがある方角ではなく。そっちは繁華街方面だ。
足を止めた赤司が振り向く。至極マジメなツラをして。何の躊躇いもなく、こんなセリフを。

「ラブホテルの休憩時間と等しい時間をお前と過ごすのが目的であれば、わざわざお前の家に行く必要もないだろう。ラブホテルに行けば良い」
「……なあ、赤司。オレさ、お前のこと…」
「何だ?」

あまり、頭が良いとは思えない。
正直に今の赤司の提案について感想を述べると、折角釣れた魚を逃がしてしまいそうな予感がしたので。
「…いや、なんでも。…まあ、そんじゃ、きっかり三時間、相手頼むわ」


赤司の名前で女を釣ってみたら、赤司本人が釣れてしまった。
か、どうかはこの三時間の粘り次第だが、ひとまずは。

さっきからひっきりなしに赤司の携帯に届いている、バスケ部員からの「何で灰崎の誕生日が赤司のメアドに入ってるんだ」っつーメールの返信をすべてオレに委ねようとしている赤司をどうやってかわすか、部屋に着くまで考えることにする。









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