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▼ wednesday.









水曜の夜はオレよりも先に来客が到着していた。
そうか。とうとうこの日が来たか。
玄関に寄り掛かって腕を組んでる奴の姿を見て、オレは息を飲んだ。
そいつはオレに気付くと、ニヤリと口端を上げる。

「よぉ、火神。遅かったなぁ?」
「…なんでお前が」
「聞いてんだろ?早く鍵開けろよ」
「……」
こいつの場合は絶対に断ると思っていた。黄瀬や緑間とは全然違う。好意がゼロなのは緑間も同じだが、青峰の場合はマイナスに突っ込んでる。だと言うのに。
オレは無言で青峰の横へ進み、玄関の施錠を解く。
青峰は何も言わずにオレの後に続いた。

「聞いたぜ?お前、黄瀬だけじゃなく緑間にも手ぇ出したんだってな」
「…緑間が言ったのか?」
「まーな。赤司に全部報告するように言われてるみてぇだし」
「…そーかよ」
意外だった。黄瀬はアレだが、緑間までも、あんなことを他人に打ち明けるとは。緑間のことだ。どうせオレが悪いように話を盛っているのだろうが。
「で、どーだったよ?」
「…何がだよ」
「決まってんだろ?黄瀬と緑間。どっちが良かったんだ?」
「…てめぇに言う気はねーな」
「つれねーじゃねーか。じゃ、身体に聞いてやってもいーぜ?」
「は?…うお?!」
突然だった。あまりにも突飛過ぎるその展開に、オレは目を見開いて奇声を発した。
気がつけばオレは床に押し倒され、腹の上に青峰が乗っかっている。背中の痛みと驚愕で、声も出ない。
「なあ?火神」
「…っ、どけよ!」
「良かっただろ?黄瀬、イく時のツラが一番いいツラだよなぁ?」
「…!」
「緑間には手でされたんだろ?こんな感じ、だったか?」
「やめ…っ、ぅあ!」
ニヤけた笑みを浮かべたまま、青峰の右手がオレの下腹部に伸びる。突然急所を掴まれて、息が止まった。
「青峰…ッ」
「…オイオイ、あんまガッカリさせんなよ?」
「は…?うぉっ?!」
止める間もなく、青峰はオレの制服からベルトを外し出し、下半身を剥かれる。
さすがにこの状況は甘受できるはずもなく、オレは渾身の力で上半身を起こして青峰の手から逃れた。
「てめ…っ、何しやがんだ!」
「…こんなもんかよ?随分粗末だなァ?」
「は…っ?!な、てめ…っ」
「あいつら、この程度のモンで満足したってのかよ?冗談だろ?」
「…ッ!!」
ニヤけたツラで青峰はオレの顔と下半身を何度か見比べ、軽く笑いを含んだ声でそう言った。
男の尊厳を馬鹿にされたことで、オレの頭にも血が昇って行く。
どう考えても異常な体勢と状況下だ。下半身を丸出しにされて、この上なくムカつく野郎に圧し掛かられて、そして。
「…うぁ?!お、オイ…っ、やめ…っ」
剥きだしにされたそこに青峰の指が伸びる。まだ萎えたモノに触れられ、体が跳ねた。
青峰の視線は一点に集中する。そのまま、オレの顔を見ることなく青峰は口を開いた。
「せめてマックスんとこくれぇ見せろよ。せっかく来てやったんだ、そんくれぇ頑張って貰わねーとな。頼むぜ?火神」
「…っ!!!」

オレの息子に語りかけた直後、青峰は、おもむろに大きな口を開いてその中にオレ自身を招き入れた。
正直、冗談じゃない。何が哀しくて男に、それもよりによってこの男に急所を咥えられなければならない?
青峰も青峰だろ。普通、野郎のモンを自ら咥えるなんざ有り得ない行動だろうし、まともな人間なら何とも思ってない、むしろ気に入らない相手にこんなことをあっさりとできるわけが、

「…!」

そこまで考え、オレは愕然とした。
月曜日の黄瀬を思い出す。やけに思い詰めたツラで見つめられ、有り得ないことを願われた。
火曜日の緑間も。高圧的な物言いではあったが、あいつが一番やらなそうなことをされた。
そしていま、オレの目の前で。奴らと同じ元帝光中学バスケ部エースの男は何をしている。
あいつらと同じことを、オレに。

「ま、て…、あおみね…、っ?!」
「…は、…ちょっとはサマになってきたじゃねーか」
どくんと、青峰の咥内でそいつが質量を増す。すると青峰はやや瞠目しながら口を離し、右手で竿を撫でながらやたらと楽しげに呟いた。
まさか。オレは嫌な予感に悪寒を抱く。
「あ、おみね…」
「楽しませてくれよ?火神」
赤い舌でぺろりと唇を舐め、挑発的なことを言ってくる青峰に、くらりと眩暈がした。




「……」
翌朝、腹を蹴られた衝撃で目を醒ましたオレは、お決まりのように自己嫌悪に襲われる。
素っ裸でオレのベッドを占領しているこの男。この男と、オレは昨晩。
「…有り得ねぇ…っつーの」
頭を抱えてオレは蹲る。ありえない。これは、夢だったのだろう、そうだ、そうに違いない。現実逃避は、青峰がごろりと寝返りを打ったことで強制的に終了させられる。
やっちまった。
馬鹿だが健気で可愛かった黄瀬。態度は高慢だったが半端ないテクニックを披露してきた緑間。それに続いて。青峰はどこまでも強気で喧嘩腰で、ヤってる最中もさんざん憎まれ口を叩いてきて、可愛げの欠片もなかったのだが…、今までで一番回数は多かった。
高鼾で寝入る青峰の顔をちらっと見遣って、また嘆息。これに手を出すとか、…ねぇだろ。

それに、少なくとも黄瀬と緑間は表現の違いに差はあれど、オレに好意をチラつかせていた。こいつは一切それがなかった。まるで獣の交尾みたいに、押し倒されて、首元に噛みつかれて、かと思えばやけにエロい視線で舌なめずりして。食うか食われるかみたいな空気の元でいたしたこの行為は、セックスとは言い難い気がする。

こいつはいったい何がしたかったのか。そう思いながら再び青峰の寝顔に視線を落とすと、ぱちりとその目が開かれて息が止まった。
「あ、青峰…」
「…よぉ、早漏。随分お疲れのようだな」
「…は?…なっ、お、オレは早漏じゃねぇ!それに、お前だって疲れて爆睡してんじゃねぇか!」
「あー、腰痛ってぇなー。まさか、お前があそこまでがっついた野郎だとは思わなかったぜ」
「な…っ、だ、誰のせいで…」
「…ま、モノだけは認めてやるよ。黄瀬と緑間の言ってた通りだ。相当だ、お前のモノは」
「…っ!下半身だけの男みてぇに言うな!」
けらけらと笑いながらそんなことを言われ、やっぱりこいつは最悪だと思う。
「今、何時だよ」
「あ?…もーすぐ6時、だけど」
「へえ、…っ」
「あ、青峰っ」
時間を聞いて身を起こそうとした青峰が、その場でバランスを崩したので、オレは咄嗟に両手で青峰の身体を支える。それが、まずかった。こんなムカつく奴、再びベッドに倒れて角に頭ぶつけて失神しようが、関係ないはずだったのに。
「…ぷっ、はははっ!何してんの?お前」
「は?…いや、お前こそ、…っ!」
「あんだけヤって、まだ足んねーとか?大概だな、お前」
するりと両腕をオレの首に回してきた青峰が、耳元で吐息混じりに囁く。不覚にも、その低音ボイスが下半身にきた。…だから、有り得ねぇっつーの。
「上等だ。せっかくだから、付き合ってやる」
「い、いらねぇよ!離せ!」
「素直になれよ、火神」
「…っ!!」
ぎゅうぎゅう抱き着いてくる青峰は、限界を知らない子供のようにこんなことを言ってくる。
そういえば、あれだけヤったのにも関わらず、こうして肌と肌をくっつけて密着するのはこれが初めてだった。
「…ば、バカ野郎!はな…っ」
「…いい反応じゃねぇか」
「っ!どこ触ってんだこの…っ、もうやんねぇよ!うわっ」
そのままずるずるとオレに圧し掛かってきた青峰に体勢を崩されて、気がつけば昨夜と同じ状態の出来上がり。
呆気にとられるオレを上から見下し、青峰はやけに楽しそうに自分の唇を舐めながら笑う。
理性のかけらもない、獰猛な野生動物みたいな目をして。

「この際、他の奴らに勃たねぇくらいに吸い取ってやるよ」

恐ろしい言葉を、口にした。











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