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何を言っても適当に流されるし、酷い時は皮肉が倍返しで返ってくる。
赤司に口では勝てない。それが無性に腹立たしく、ある日強行突破に出たことがある。

皮肉に皮肉で返された際に、血が上った風を装って赤司の胸倉を掴んでみた。鍛えている割には軽く踵が浮く。油断しやがったな、と内心ほくそ笑みつつ、右手を赤司の顎に添わせる。
「あんま憎たらしいこと言ってっと、見れねーツラにすんぞ?」
「…へぇ。出来るものなら、やってみたらいい」
「……は?」
「断言するよ。お前がオレの顔を傷つけることは、絶対に不可能だ」
どことなく純粋とも表現出来る濁りのない眼差しが、射るようにオレの目を捕らえ。圧倒的不利な状況で余裕発言をかます赤司に、今度はフリじゃなくマジで血が上って拳を振り上げた。



「…赤司、お前、バスケやめて格闘家にでもなれば?」
「この拳は聞きわけのない犬を折檻するための拳だ。お前の提案は受け入れられないよ」

それなりの力で振り下ろした拳は見事に赤司の左掌でキャッチされ、マジかと思った隙に鳩尾にカウンターを食らったオレはその場に蹲り、しばらく痛みに悶えた後、オレの前に片膝をついて涼しい顔をしている赤司を仰いだ。この坊ちゃん、どこでこんな技覚えてきたんだ。これほど重いパンチを食らったのは生まれて初めてだった。

「いつまで蹲っているんだ。多少は加減をしたつもりだけど」
「これでかよ…。お前、マジ…」
「腹筋があればこの程度で苦しむことはない。少し体を鍛えた方がいいんじゃないか?」
「……」
挙句の果てには明らかに勝っているはずの体格のことまでケチつけられる。
お前はどんだけ鋼鉄の腹筋してんだって言いたくなった。だが、口で勝てないことはとっくに知っている。大人しくオレは赤司に絡むことをやめた。



とは言え、赤司もオレと同じ中一の男だ。完全無欠の神様仏様ってわけじゃない。
欠点はある。しかもそいつは、こっちの得意分野だ。

赤司には、オンナが居ない。
モテることはモテるみたいだが、入学してからこの方決まった女と二人でいるとこなんか見たことはない。あいつのクラスの奴に聞いてみても、「赤司様は誰にでも優しいけど、たぶん彼女いないよ。コクった子知ってるけど、ソッコーで断られたってー」って話だ。
朝も放課後も休日さえもバスケ漬けの日々を送ってるような奴だ。いない歴=年齢ってとこだろう。つまり、アレだ。


「赤司、コレやるよ」
「…いらないよ」
「そう言うなって。お前には逆立ちしても敵わねーことが分かったし、今までのことは謝る。コレで勘弁してくれ」
「謝罪をするくらいならサボリ癖を直して欲しいな」

部活の後、シャワー室から出てきた赤司を待ち伏せして差し出したドリンクには仕掛けがある。
明らかに飲み掛けのペットボトルだ。一度めちゃくちゃ嫌そうなツラして断りを入れてきたが、そうはいかない。半ば強引に手に握らせると、赤司はため息混じりに余計なことを言いつつ。キャップに手を掛けた。

馬鹿め。そんな簡単にオレが謝るわけねーだろ。
今に見てろ。余裕ぶれんのもここまでだ。内心ニヤつきながら真顔を装い、赤司がボトルに口をつけるのを見届けて、告げる。

「飲んだ?それ、中にエロくなるクスリ入ってんだけど」


ぼとりと赤司の手から落ちたペットボトルは軽く表面をへこませ、中の液体をどくどく床に垂れ流す。
それから、崩れるようにその場に膝をついた赤司を見下ろし。隠していた表情を曝け出してオレは言ってやった。

「バァーカ、安い手に引っ掛かってんじゃねーよ、この世間知らずのボンボンが!」

いつか絶対に言ってやりたいと思っていた発言を放てたことで、オレのテンションは最高潮に高まった。



ドリンクに混ぜたのは兄貴の部屋から拝借した合法ドラッグだ。奴が何を悩んでこいつを購入したか知らないが、商品名をネットで調べたところ割と効果はあるらしいことが分かった。
そして実際、オレの足元にひれ伏している赤司を見れば、効き目は充分。マジこいつ馬鹿。
「赤司クーン、やたらにヒトから貰った物を体内に入れっと危険デスヨー?なあ、聞いてるー?」
「……」
「赤司ー、今どんな気分?…顔見せろよ」
俯いて身を震わせている赤司の前にしゃがみ、後頭部の髪を強く引く。されるがままに引き上がった顔を覗き込むようにして見てみれば。

「…エッロい顔。出来んじゃん、そーゆーの」
「…はい、ざき…ッ」
「睨むなよ。せっかくのカワイーツラが台無しだぜ?…なあ、赤司。辛そうだなァ?」
「……」
普段は人形のように白い頬を赤く染め、僅かに開いた薄い唇からは絶えず呼吸音が溢れている。ハードな練習後だってここまで呼吸を乱すことのない赤司が熱く湿った吐息を漏らすたび。オレの背にはぞくりとしたものが走り、高揚感はさらに高まる。
普段人を見下してばかりの奴を、こうして屈服し。次にオレがしたことは。
「…ラクにしてやろっか?」
正真正銘の得意分野。今やこの空間は完全に、オレのホームグラウンドだ。



掴んだ髪を離してやれば、赤司の体はふっとオレに寄り掛かってきた。
全体重を掛けて圧し掛かってくるコイツはそれなりに重いが、支えられないことはない。片手を腰に回し、空いた手をハーフパンツのゴムに引っ掛け中に突っ込む。赤司の体は陸に打ち上げられた魚のようにビクンと跳ねた。
「…ッ、触る、な…っ!」
「我慢すんなよ。辛ぇんだろ?ホラ」
「ッ!!」
威勢のいい拒絶は口だけだ。パンツの中は早くもぐちゃぐちゃに濡れてるし、握りこんだモンは完全に勃ってる。赤司はオレの肩に顔をうずめ、オレのシャツを掴みながら。無抵抗で身を委ねてくる。
「腰揺れてんぜ?赤司よぉ」
「ぅ…、…っ」
「お前、オナニーもしたことなさそーだもんなー。なぁ、ここ、こーすっと気持ちいーだろ?」
「ひ…ッ!」
引き攣った声を上げながら悶える赤司の姿はかなりイイ。あの赤司が。オレに縋って、辛辣な口調も凶暴な手足も使えずに、されるがままになっている。卑怯な手を用いたことは重々承知の上だ。それでも、これはいい。
「や、めろ…ッ、それ以上、オレに、」
「オレの手に擦りつけながら、なーに言ってんだよ?ホラ、イっちまってもいいんだぜ?」
「だれ、が…ッ、ぅ、あ…ッ!!」
体は割と正直になってきたが、まだ理性は残ってるのか。ぎゅっとシャツを掴む指先が震え、むちゃくちゃ懸命に耐えている様子が分かる。そうだよな、オレなんかにイかされちまったらお前、アレ、恥ずかしいな。二度とオレに頭上がらねぇな。それ、いいなァ?
俄然やる気が出てきて、手を動かす速度を上げる。緩急つけて揉みこんで、時々先端の穴に爪を立て。ついでに赤司の耳が視界に入って来たので、べろりと舐めてやった。すると。

「…ッ!!ふ、ァ、……っ!」
全身を強張らせ、息を詰めた赤司がとうとうオレの手の中に出すモン出した。
ぬめついた熱い液体の感触で、かなりの量を吐きだしたことを知る。数秒ほど痙攣が続いて、それから赤司は脱力した。
「…イっちまったなぁ、赤司ィ」
「……」
無言で荒い呼吸を繰り返す赤司の反応はない。完全勝利を果たした気分でパンツの中から手を引こうとしたところ、ぽつりと呟く声が耳に届いた。
「…い、」
「あ?何か言った?」

広い体育館で張り上げる凛としたいい声に定評のある赤司らしからぬ蚊の鳴くような発声に、違和感を持ちながら聞き返す。すると赤司はのろのろと両腕を動かし。オレの首に腕を巻きつけ、安定した支えを得てから再び呟く。
「まだ、…足り、ない」
「…は?…あ、あぁ、…そりゃ大変だ」
「灰崎…」
「……」
吐息混じりの濡れた声が耳のすぐ横から放たれる。名前を囁かれてから気付いたが、何か今のコイツの声、エロいんだけど。
「お、オイ、赤司…、お前いま、誰にしがみついてっか分かってんのか?」
「灰崎…」
「…普段オレにどんな態度してっか覚えてんだろ?いっつも見下したようなツラしやがって…」
「…すまない。これまでのことは、謝罪する、…だから、」
「……」
「もう一度、してくれ。からだが、熱くて、…っ、は、…たまらない…」


正直、マズイことになったと思っている。
ひょっとしたら赤司にはクスリなんか大して効かないかもしれないと思い、量を規定よりも多めに投入したのが悪かったのか。それともやり方をミスったか。考えてみれば、別にわざわざ手でイかせてやる必要などはなかった。床に這い蹲って悶え転がる赤司をせせら笑ってりゃ、それでオレは満足出来たんじゃないのか。
今のこの体勢って、何だ。密着した体は確かに熱を持っていて、非常に辛そうだ。オレが望んだままに、赤司はオレに屈服し、そして謝罪の言葉まで口にした。
それに対してオレはいま。勝利の余韻に浸る間もなく、別の感覚に身を支配されている。

赤司がエロい。そしてエロい赤司は、なんか良く、思えて。


マズイ、と思いつつも右手は素直に動き出す。
赤司の精液に塗れたそいつを、中に突っ込んだまま移動させ。ケツの割れ目に触れると、赤司の身体がまた跳ねた。
「ッ?!…ど、こを、触って…っ」
「…いや。…ここまでやる気はなかったんだけど。でもまあ、いっか」
「何、を…?!」
「望み通り、気持ちいいことしてやるよ。ただし、まぁ、こっちも盛り上がってきたからな。悪ぃけど、ココ使わせろ」
「つ、かう…?ま、まて、灰崎…、お前は、何を言っ…、ッ!!!」
人差し指を強引に突き入れると赤司は黙った。つーか、息を止めた。
大変なことになった。だが止められる自信はない。それを赤司に知らせるために、僅かに腰を浮かせて赤司の太ももに息子を当てる。ヒ、と赤司の口から悲鳴じみた声が漏れた。
「や…ッ、いやだ…!やめ、っ、ぁ…ッ!」
取り乱して吼える赤司に残念なお知らせがある。お前の穴は急速に広がってきている。埋めた指はもう二本だ。さすがに女のようにとは言えないが、割とイけるもんだな。
オレにしがみついた赤司がぐずりと鼻を啜る。可哀想なことをしているな、と思ったのは束の間。可哀想?冗談じゃねぇ、コイツは赤司だ。さんざんオレを小馬鹿にしてきたクソ生意気なドS野郎。今更殊勝に泣いてみせたって、遠慮なんかしてやるかよ。

覚悟しやがれクソ赤、し…?


『飲んだ?それ、中にエロくなるクスリ入ってんだけど』



不意に眼前に突きつけられた黒い長方形の物体。それが発する音声には、覚えがあった。
たらりと額から汗が伝う。何これ。物体を突きだす赤司の眼を見る。涙で潤んだ瞳は、こうなっててもやたらと強気で。
『バァーカ、安い手に引っ掛かってんじゃ』
「ま、待て!オイ赤司!何だよこれ!!」
「…聞いての通り、お前の暴言だ。…は、ぁ、…よく、録れて、るな…、」
「な、何録ってんだテメ…ッ」
「指を、ぬけ…、オレから、離れろ、…ッ!」
苦しげな呼吸をしながら明らかな脅しをかけてくる赤司には正直参って、大人しく言うことを聞く。目を細めながら色っぽく息を吐く赤司は、レコーダーを握った拳を床に下ろした。
「…ぬかりねぇな、お前。こうなるって分かってたのか?」
「…お前が、よからぬことを企んでいることくらい…、顔をみれば、すぐに、分かる」
「へぇ。よく見てんな。…で?それどーすんの」
「決まって、いるだろう…、お前の暴行の、証拠だ。…主将に、提出を、」
「ま、待て待て!ふざけんなよ赤司!やめてくださいそれだけは!」

血の気が引くような脅迫を受け、慌てて阻止を嘆願する。そんなオレを見遣りながら、赤司は深く重い吐息をこぼし。
「…ならば、オレの言うことを聞け」
「な、なんだよ…」
「……続きをしろ。ただし、肛門の使用は許さない。それをしたら、必ず殺す」
「…赤司、ちょっと耳貸せよ。ココ使うのかなり気持ちいいぜ?手コキよりも確実にイイから、な?」
「ならばお前が足を開け」
「…分かったよ、手でしてやる。ほら、こっち来い」
最後の砦をかたくなに守る赤司に根負けし、脅迫材を握り締める赤司の手を取り抱き寄せる。
逆の手を股間に伸ばせば、ピクリと震える高感度の赤司は、こうなってもやっぱり可愛げなんざまったくない。
オレにしがみついてエロい声を上げまくる。むしろこれは、かなりタチが悪い。

自分で撒いた種とはいえ、完全に生殺しの苦行を果たし。
何回か連続でイった赤司は、くたりとオレに寄りかかり。この隙に例のブツを赤司の手から奪おうと試みるが、赤司の右手だけは石のように堅く閉ざされていた。




「どんな手を用いても相手を打ち負かそうと気負うお前の粘り強さは賞賛に値する。お前ほど悪質で根性の曲がった努力家は、初めて目にした。…今回ばかりはオレも白旗を上げることになるかと思ったよ」

乱れた服を直し、レコーダーの調子を確認しながらそう言う赤司の前でオレは正座を強いられている。
赤司に用いたクスリは即効性なだけあって効果の持続性はさほどないらしい。すっかりクスリを飲む前の状態に戻った赤司は、いつもの余裕げな表情でちらりとオレの顔を見遣った。
「…辛そうだな、灰崎」
「うるせぇな!そう思うならさっさとどっか行け!」
イくだけイった赤司はいいだろう。スッキリしてんだろう。だがこっちは煽られるだけ煽られて、突っ込むことも許されずに今に至る。男ならこの状態が如何にキツイか分かるだろう。協力するつもりもないならさっさと消えて欲しい。

「手伝ってあげようか?」

必死に耐えているこっちの気も知らず、またどうしようもなく厄介なことを言い出す赤司をオレは力の限り睨みつけた。赤司は口端を上げ、涼しげな目線をオレに向けている。
「今後、練習をサボらず主将やオレの言うことを忠実に守ると約束するならば、手を貸してあげてもいいけど」
「…冗談じゃねぇよ、テメェの情けなんざいらねー…、…まあ、ケツ貸してくれんなら聞いてやってもいいけど」
「せいぜい自己処理に励むことだ。…お前の指は、こんなことには優秀なようだからな」
「へ、へぇ…。そんなによかった?オレの手コキ」
「そうだな」
「またしてやろっか?」
「…ああ」

そこで赤司は目尻を下げる。澄ました顔を崩し、唇の両端を上げ。そうして笑った赤司の顔には普段の何倍も幼い印象が浮かび上がり。
「必要な時は声を掛ける。その時はよろしく頼むよ」
「…冗談じゃねぇよ、テメェなんか、二度と、」
皮肉で言ったんだと強調しようとするが、その前に。赤司は右手をオレの前に翳してみせた。
「分かっているとは思うけど」
だらだらと冷や汗が全身を流れ伝う。赤司は微笑んだまま、黒いレコーダーを唇に寄せる。
「お前はオレに逆らえない。…いい材料を提供してくれてありがとう。有益に使わせて貰うよ」


何をしても裏目に出る。オレと赤司の相性は最悪だ。
項垂れるオレに対し、ご機嫌な様子の赤司は大切そうに脅迫材料を仕舞い込むと、両手を床について立ち上がろうと試みて。
「…灰崎」
「んだよ」
「…早速だけど、頼みを聞いてくれないか?…腰に力が入らないんだ」

そりゃあんだけ出しまくればな、と言いたいのを堪えて視線を向ける。そうしたのはオレのミスだ。
両手両膝を床につき、猫のポーズを取る赤司。やや困惑気味の表情も、無意識でやってんのはよく分かる。でもな、お前、いい加減にしてくれよ。
大人しげな見た目にそぐわぬ腕っ節の強さも。劣勢を逆手に取って、自らを囮に使うみてぇな脅迫材料の作り方も。もう懲り懲りだ。降参するから。

「…ちょっと待ってろ、先にトイレ行かせてくれ」

こんな憎たらしい奴のポーズや表情、そしてさっきまで散々耳元で騒がれていた声なんかで、盛り上がるオレの下半身も大概おかしい。









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