krk-text | ナノ


▼ Gravitation

※保育士灰崎くんと若手議員赤司くんの未来パロです。
※職業の詳細はよく分かっていないので現職の方が見たらアレレってなります。
※キャラも設定も過去も未来もねつ造しまくりです。
※特に赤司くんの家庭環境のねじ曲がり解釈っぷりが半端ないです。よそのご令嬢とお見合いとかします。


***




選挙を目前に控え、父親の指示で訪れた児童福祉施設にて再会を果たした相手は、思いがけない人物だった。

「…は?何、お前、……何しに来たの?」
「…それはこちらのセリフだ。灰崎、…なぜお前がここにいる」

互いに目を見開いて驚愕する。
これは、想定外の現実だった。



大学院卒業後、国務大臣である父親の私設秘書を数年務めた上で次期選挙への立候補を表明した。選挙活動を行う上では父親が築いた地盤があるし、他に有力な候補者は同地区にいない。所属政党の支持率も高い。若年とはいえ、今回の選挙であればさほど労もなく当選を果たすだろうと言う父の進言に従ってのことだった。
それでもさすがに何もしないと言うわけにはいかない。父や知り合いの議員の発案を取りいれ、街頭演説を行い、いくつかの福祉施設を巡回した。その中で。おおよそ福祉とは無縁のイメージを持つ男と、赤司は再会した。

「ここは児童養護施設だと聞いているが」
「…間違っちゃいねーよ。今はほとんど学校行ってて出払ってるけど。あっちに行けば未就学のガキがわらわらいるぜ」
「…そのような場所に、なぜお前がいる」
「だから言っただろ。オレはここの職員だ」
「…保育士、だと言うのか?」
「悪いかよ?」

不貞腐れた表情で言う灰崎に、「悪い」と答えてしまいたかった。
だがここで彼を否定するわけにはいかない。過去のイメージを知っている自分だからこそそう思うのであって、何も知らない人間ならば「そうか」で済ませる状況だからだ。現に目の前の男は髪色こそ中学時代のように明るく染められているが、短く整えてはいる。服装も簡素であり、派手な装飾品は一切身につけていなかった。
努めて平静を装い、相手から視線を逸らした上で首を振る。
「そんなことはない。立派な職業だと思うよ」
「空々しいぜ。つーか、そっちこそ何だよ。訪問すんのは国会のオエライさんだって聞いてんだけど?」
「現在、僕の肩書きは議員秘書ということになっている。国会関係者と言っても間違いではないよ」
「で?そのオエライさんが何しに来たわけ?」
「施設を視察に来た。ここでお前と無駄話をしている時間はない。施設内を案内してくれないか?」
「…お前さぁ、…相変わらず」
「何だ?」
「一言多いんだよっ!あと、人に物頼む時は頭くらい下げろ!」
何のことかと首を傾げる。灰崎は額に手を当て項垂れた。
「オレと無駄話っつー下りはいらねーだろうが…。思っても、黙ってろ」
「ああ、そのことか。気を悪くしたならばすまない。…気の緩みが生じていたようだ」
「は?」
「知っている顔と、数年ぶりの再会を果たせたことでね。灰崎、ここでお前と会えて、嬉しいよ」
「……」

赤司の発言によって灰崎は言葉を失い、眉間を狭める。
不機嫌もあらわなその表情の理由について、赤司は考えることもしなかった。



それから先、灰崎は施設従業員として議員秘書かつ選挙候補者である赤司に施設案内を行った。
先に言っていた通り、内部には未就学児童の姿が多々目撃される。うちの一人が赤司の元へ寄って来て、隣に添う灰崎へ赤司の正体を問う。灰崎はその場にしゃがみ、子供と目線の位置を合わせて赤司を「偉いヒトだ」と紹介していた。



「今日はどうも有難う。有意義な時間を過ごせたよ」
「…立派な選挙活動、お疲れサン。ま、ここにいるガキ共にゃ選挙権はねぇけどな」
「視察を行ったと言う実績が作れればそちらは問題ない。個人的には楽しかったしね」
「楽しい?」
「…実を言うと、少し不安なところはあった。僕には兄弟もいないし、年の離れた児童と接する機会は今までになかった。どんな風に対応すればいいのかと、ここへ来る前は迷いもあった。だが、お前が案内を担当してくれて良かった」
「…誰だって同じだろ。議員の相手なんてよ」
「そうかな?僕は、お前と言う保育士が隣にいることで非常に心強く思えたよ。自然に笑えた気もする」
「…あー。そういや、お前のツラ見てもガキ共は泣かなかったな。…いつも、あーゆうツラしてりゃいいのによ。そんな仏頂面ばっかしてねぇで」
「え?」
「何でもねーよ。用が済んだならさっさと帰れ」

施設内を回り終え、帰宅の時間が迫った赤司は追い立てられるかのように職員控え室を後にする。
付き添う灰崎は、やはり不機嫌そうな表情をしていた。

「灰崎」
「…んだよ」
「渡した名刺の裏に個人の連絡先を記しておいた。今度、食事でも行かないか?」
「は?…な、ふざけんな!お前、何考えて…」

何の気もなしに個人的な誘いを口にする赤司に対し、灰崎はとうとう嫌悪感を言葉に変換した。
険しい表情で赤司を睨み。過去の怨恨を、滔々と口にする。

「さっきからお前、白々しいことばっか言ってんじゃねーよ。オレに会えて嬉しい?オレといて安心する?ふざけんな、テメェが昔オレにしたこと、忘れたのかよ?」
「灰崎…」
「オレはテメェと再会して嬉しいなんてことはねぇし、今も虫唾が走る気分でここにいるよ。…忘れたなら言ってやる。思いだせ。お前はオレを、」

そこで灰崎は息を飲む。
視線は赤司を見ていない。その向こう。ドアがある方角へ据えられていた。
それを辿り、赤司は知る。職員控え室のドアは僅かに開いており、そこには一人の児童が静かにこちらを見詰めていた。

子供の存在が灰崎の激昂を治めた。ひと呼吸置いて、灰崎は子供の元へと歩み寄り、来訪の理由を尋ねる。先ほどの剣幕とは打って変わってやわらかい声掛けをする灰崎に、子供は安心した様に笑顔を見せた。



灰崎が最後まで言うでもなく、続く言葉を赤司は理解していた。
(お前はオレを、)
それは中学時代に遡る。二人が同じ部活動の部員であった頃。赤司が灰崎に伝えた言葉の結末。
(切り捨てたくせに)
たとえ赤司にそのつもりはなかったとしても。灰崎の意識下には、そのような行為表現が刻まれていることを赤司は知った。




「…仕事中なんですけど、代議士サン。テメーがヒマだからって汗水たらしてマジメに働く保育士さんの邪魔しないでくれまセンカー?」
「先ほど電話を取りついでくれた女性に確認したよ。今は休憩時間だそうじゃないか、灰崎」
「おエライさんは善良な一般労働者に休憩時間も与えてくれないんデスカー?マジでウゼェ。職場に電話掛けてくんなよ」
「お前から連絡をくれることはないと踏んでね。三ヶ月は、待った方だと思うけど」

灰崎のいる施設を赤司が訪問してから三ヶ月。選挙は滞りなく行われ、周辺の目論見通り赤司は見事当選を果たした。
それから赤司は寝る間もないほどに多忙な日々を送っていた。その合間のこと。不意に思い立ってカレンダーを目にした赤司は、未だ灰崎からの着信がないことを思い出し、移動時間を利用して施設へ連絡を行った。
赤司の声を聞き、灰崎は項垂れながらため息をつく。
「連絡はしねぇっつっただろ」
「気が変わるかもしれないと思っていた」
「変わらねぇよ、いまさら。オレにとってお前は、今もムカつく存在でしかねーし」
「…話を、したいのだけど」
「こっちは話すことなんかねぇ。切るぞ」
「お前とじゃない。お前の施設にいる子供と約束をしたんだ」
通話の切断が、延長する。少しの沈黙を挟み、「は?」と頓狂な声を灰崎は漏らした。
「約束って…、何の話だよ?知らねぇぞ」
「お前が席を外した際に交わしたんだ。近いうちにまた話を聞きに来ると」
「…どういうつもりだよ。んな見え透いたウソつきやがって」
「嘘じゃない。疑うならその子供に確認してみろ。…あの日、最後に職員室を訪れた女の子だ」
突然の事実に、灰崎は困惑している様子だ。電話越しにも感じるそれを受け、赤司は畳み掛ける。
「施設の子供たちは素直で心優しい子ばかりだ。約束を、反故にしたくはない」
「…ホントかよ?信じられねーな」
「どうしたら信用して貰えるかな」
「議員なんてのはみんな嘘つきだろ。選挙の時ばっか良い顔して福祉施設巡りなんかしやがって、終わっちまえば知らん顔の、」
「僕には嘘をつかせないで欲しいな」
「……」

約束をしているのは本当だ。灰崎が席を外したのは僅かな時間だったが、その際。あの少女は赤司の元へ近付き、少し照れた様子で赤司に耳打ちをしてきた。
(あのね、お兄ちゃんに教えてあげる。しょーごくんには、ひみつだよ?わたし、大きくなったらしょーごくんのおよめさんになるの!)
その告白に対し、赤司はやや不安を感じて少女に伝えた。もう少し広い視野を持ってから考えた方が良いと。それから尋ねた。灰崎のどこに魅力を感じるのかを。
少女が話しだそうとしたときになり、灰崎が戻ってきてしまったためその話は中断される。灰崎には秘密の内容だからだ。
そのため赤司は少女と約束をした。近いうちにまたここを訪れる。その時に、話の続きをしよう、と。

子供をダシに使われてしまえば、灰崎に断る理由などありはしない。
しばらく唸り声を上げた後、観念したように時間は守れよ、と赤司へ訪問の了承を伝える。
約束する、と答えた赤司に、灰崎は。

「オレのシフトが入ってない日にしろ」
「分かった。予定を教えてくれ」
「…絶対だぞ。ちゃんとメモれよ。今月は…」

あくまで赤司との面会を回避しようとする灰崎の提案に、赤司は快く頷いて。
後日改めて赤司が施設に伝えた訪問日時は、灰崎が夜勤明けとなる日の午後だった。




「だから政治家は嘘つきだって言われんだよ。何堂々と約束破ってんだ」
「こちらにも都合と言うものがある。今日しか訪問出来る時間がなかったんだ。気を悪くしたなら…」
「お前に謝られても謝られた気がしねぇ。謝罪する気があんなら、施設への補助金もっと上げてくれよ。誠意を見せろ」
「それは行政の仕事だな。…知人に関係者がいる。掛け合ってみるよ」
「…冗談だっての。ったく、あいかわらずお前はアタマ堅ぇ奴だな」

女性職員に案内され職員室に現れた赤司を見て、灰崎は呆れと苛立ちが混在した表情を浮かべる。
そんな灰崎に、手土産である高級洋菓子店の紙袋を差し出し、赤司は訪問が本日となった理由を明かした。
すでに灰崎の退勤時間は経過している。だが赤司が訪れたことにより、勤務時間は延長されたと言っていい。予約を取り付けているとは言え、代議士の視察案内を務める職員を配置するほど職員数には余裕がない。
「冗談にしなくても良いよ。人手が不足しているのならば助成金を利用して求人数を増してもいいだろう。建物の増築や改修にも必要な経費だ」
「いらねーっつーの。お前、恩義背がましいんだよ。お前の助けなんか、死んでも求めねぇ」
「お前を助けるつもりなんてないよ。この施設の児童や職員のために提案しているだけだ」
「分かってるよ。だったらオレに言うな。施設長にでも言ってくれ」
「施設長…、お前の親か」
「知ってんの?」
「ああ、調べはした。…中学の頃は知りもしなかったことだな。お前の親が福祉施設を経営しているなんて」

そこで赤司は感慨深げに息をこぼす。部員の家族について無知であったのは、灰崎に限ってのことではない。灰崎が退部した以降も部に残ったチームメイトたちとも、踏み入った会話を交わしたことは一度もなかった。

「…オレは知ってたぜ。お前の親父が、ドエライ大臣サマだったってこと」
「そうか?」
「あの学校で知らない奴はいなかっただろ。赤司って言や国務大臣の息子で、金持ちで、成績も良けりゃバスケ部のキャプテンもしてる。おまけにツラもいい。文武両道、品行方正、眉目秀麗の赤司様ってな。ついでに言えば、お前が今の道に進むのも、誰もが知ってた。疑いようもないくらいに、お前は真っ直ぐな道を突き進んでった」
「…そうだな。僕は、生まれたときから今の状況を定められていた。大学院を卒業し、父の私設秘書となり、自らも代議士になることを」
「ゆくゆくは親父みてぇに閣僚入りだ」
「おそらくはね。そのレールは、すでに敷かれている」
「…つまんねぇ人生だな」

女性職員が出してくれたお茶を飲み干し、湯のみをテーブルに置いた灰崎は吐き捨てるように呟く。
耳にした赤司は興味深そうな表情で灰崎を見据えた。
「どういう意味だ」
「そのまんまだよ。ハナっから準備された人生歩んで、お前何が楽しいの?…聞いてんぜ、お前、高校いっぱいでバスケはすっぱり辞めたんだってな」
「……」
「あの頃のお前は、本気でバスケやってんのかと思ってた。青峰や黒子みてぇに、心底楽しんでやってるように見えたよ。勉強とか、他のスポーツで勝ってもつまんなそーだったけど、バスケのときだけは別だった。あのまま、バスケで勝つことに心血注いで生きてくのかと思ってたよ」
「灰崎…?」
過去を語り出した灰崎に、赤司は内心動揺する。逸る鼓動を気にしながら、無表情を貫き。瞬きをして、灰崎に問う。
「…そんな風に、お前の眼には映っていたのか?」
「違うってのかよ」
「…間違いとは言えない。たしかに、あの頃、…バスケ部に所属していた期間は、日々が充実していた。テストで高成績を残すより、他のスポーツや将棋で相手を打ち負かすよりも…、楽しかったな」
「…お前なら、」

赤司が差し入れとして用意した菓子を手に取り、灰崎はいったん言葉を区切って赤司の目を見る。
告げるか辞めるか。迷う目線を渡されて。赤司は軽く顎を上げて先を促した。

「…お前なら、高校出てからも、バスケ続けると思ってた」
「……」
「辞めたって聞いた時は、その程度だったのかって思ったよ。大学行っても、そこのチームで4番背負って偉そうにセンパイ相手に指示送ってんじゃねーのって。なのに、お前は」
「…灰崎」
「…「その程度のもの」のせいで、オレは、…いったんバスケ辞めさせられたんだ。そりゃ、イラってなるもんだろ、赤司」

灰崎との確執は、考えていたよりも深いものだったかもしれないと。赤司はこの時、この発言を受けて漸く悟った。
中二の春。赤司は確かに、灰崎へ退部を勧めた。入部したばかりの黄瀬が、近いうちに灰崎からレギュラーを奪取することを見越して。プライドの高い灰崎がその現実を知るよりも先に。辞めるべきだと進言した。

だが、と赤司は否定する。退部を勧めた事実はある。だが、それでも。

「退部を決意したのは、お前自身だろう」
「…赤司様にあそこまで言われて、嫌だ、オレは居座る、なんて言えるわきゃねぇだろ」
「オレは…」
「…ま、そんなもんはきっかけの一つに過ぎなかったんだけどな。オレはいずれ、お前に何か言われなくても部活辞めてたよ。あんなもんは、女にモテるだけのステータスでしかなか、」
「灰崎!」

負け惜しみにも似た発言を続ける灰崎の言葉を、強い口調で赤司は遮る。
張り上げられた声に驚いた灰崎は、口を噤み赤司の顔を見て。そして更なる驚愕を、得る。

「あ、かし…?」

灰崎の目の前に座する赤司の白い頬には、透明な液体の筋が伝っていた。











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