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▼ 空腹治癒処置




白いうなじを見下ろして、衝動的な感情から腕を伸ばした。

「ねえ、赤ちん」

いくら食べても空腹で、最近イライラが募ってる。
フラストレーションを解消するために、オレは赤ちんの首へ両腕を巻きつけ。背後から、ぎゅっとそれを抱き締めた。
「たすけて」


出会った頃よりも線が細くなった気がする。そう言うと赤ちんはくすりと笑って否定した。
「僕が細くなったわけじゃない。お前の身体が、急速に成長を遂げたんだ」
「あーそーかも。だから赤ちんが小さく思えんだ」
「実際に敦よりは小柄だけどね。これでも身長は伸びているし、筋量もアップしている」
「赤ちん、毎日そういうの計ってんの?」
「毎日ではないけど。定期的に身体の変化を数値化し確認することは効率的なトレーニングを行う上で重要だ。やみくもに筋力トレーニングを行えば身体への負荷が過剰になり、オーバートレーニングに陥る危険性もある。敦も充分に留意しておけ」
「…オレはたぶん平気ー。疲れたら休むし。休ませてよね、赤ちん」
「その時になれば状態を見て判断するよ。敦の場合は、身体の負荷以上にメンタル面の悪化が著しいな。さすがに僕も、お前の心の中身までは覗けない」
「うん、だから、まずくなったら言う。赤ちん、いま」
「いま?」
「そう。いま、まずいから。治して」

赤ちんに巻きつけた腕は長くてあまる。だから胸を赤ちんの後頭部に押し付けて、密着を強める。腕の中で赤ちんが笑った。
「脈拍が速まっているように感じるけれど。この接触は、メンタル治癒には逆効果なんじゃないか?」
「そんなことない。オレは赤ちんにくっついて、癒されてるよ」
「不可解な構造だな、敦の精神は」
「うん、オレ自身よくわかんない。だから赤ちんが解析して」
「…難しい要求だな」
「大丈夫、赤ちん頭いいから。オレのこと考えて。オレで頭をいっぱいにしてみて」
「……ますます難しい」
「出来なくはないでしょ?」
「…ああ。出来なくはない。腕を外してくれないか。顔を、見せてくれ」
従う。赤ちんがゆっくりとこちらへ顔を向ける。視線が繋がる。赤ちんがふっと目を細める。
非のつけどころもない完璧な笑顔を造り上げた赤ちんはオレの両眼を惹き付ける。これを見せられると、どうしてもオレは動けなくなる。
触りたい。欲求を伝える。判断を待つ。くちびるが「ユルス」と動く。目蓋が下りる。金縛りの呪いが、解けた。

唇を重ねた瞬間、喉の渇きが治まった。
指先を赤ちんの皮膚に当てた瞬間、血液の循環が速くなった。
舌を吸う。唾液を飲み込む。食道を通って胃に落ちて行く、熱い液体には特殊な成分が含まれている。
毒薬でも飲まされてるみたいに。空っぽだったはずのハラの内部が、じわじわと満たされてって。
それはただの錯覚なのだろうけど。胃に治まった特効薬はそこから染み出て体内を巡る毛細血管へ侵入し、またたくまに全身へと行き渡った。

体内に少量のこれを摂り入れることで、さらに枯渇感を覚えるときもある。
今みたく。赤ちんの腰に回した右手をそろりと服の中へ差し入れて、汗のひいた背中を指でなぞる。「もっと」と請う合図を送ると、察した赤ちんの目蓋が開く。
これを許すか許さないかは赤ちん次第。オレの状態を見て、赤ちんが自動的に判断する。今日はどうかな?赤ちんは笑う。
「充分だろう」
「ダメ?」
「過剰摂取は毒となる。制限は守ってくれ」
すでにオレの体は毒されている気がするけれど。そう言うと赤ちんは少し目を細めて頷いた。
「ならば尚更、適度なインターバルが必要だ。これ以上は許さない。こちらの身にとってしても、」
赤ちんの指先が、オレの肩を軽く押す。それだけでオレは赤ちんから突き離された。
「お前に思考を占有され過ぎるのは困るからね。どうか、僕の言うことを聞いてくれ」


すべてはこの人の匙加減。
状況の判断を誤らない。だからオレはすべてをこの人に委ねていいと考えた。
強くて正しくて価値の高い。赤ちんだけは、信用出来る。


たとえ世界が間違ったとしても。オレはアンタに従うよ。
だから次回も、オレをその身で救ってね。
ハラが減って死にそうな時にはね。言うから、ちゃんと、応えてくれ。
オレは良く分からないから。赤ちんが判断して、適切な治療を施して。適量の毒を、オレの体に注入して。
もう二度と浄化されることはないって、知ってるから。

中毒症状を引き起こしているこの体を。
定期的にメンテナンスするのは、赤ちん、アンタの役割だ。










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