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▼ 3





火神にすべてを話した。
青峰が好きだったこと。青峰が黒子っちを好きって気付いたきっかけ。そこでオレが手を引いた理由。黒子っちも、青峰と同じくらい好きだったからっていう話。
当然、無理やり青峰に迫ったこととかも告白した。丸裸になって俯いたオレを、火神は長い腕で抱き寄せた。

「…何スか、この手は」
「いや。お前、割と苦労してきたんだなって」
「苦労はしてねっスよ。勝手に特攻して勝手に打ち砕かれただけっス」
「カッコつけんなって」
「カッコいいのは生まれつきなんで」

火神の腕を振り払うことが出来なかった。
それどころか胸の奥がすうってなってって、いやに落ち着いてしまって。
もやもやした感情をブチ撒けたことでオレは若干ラクになれたのかもしれない。火神が聞いてくれたからだ。肩の力が抜けて、額を火神の肩に預けたのも。体重が、少しだけ軽くなった気がした。

「…火神っち」
「何だよ」
「今の話聞いても、まだ、オレのこと好きって言う?」
「言ったらどーする?」
「…困る、かな」
「そーかよ」
「……嘘だよ」
言葉に出したら多分その気になる。その危険さを二回も体感してる。だからオレはミスをしないように、頑張ったのだけど。
火神がオレの頭の横で囁いた。えぐい攻撃に、オレは弱る。
「お前が好きだよ。お前が青峰のことを今も好きっつーなら、尚更だ。こっち向けさせてぇ」
諦めが悪い奴だ。それはオレの美点のはずなのに、今は火神のほうが上みたいで悔しくて。
負けず嫌いのオレはこの挑発を、受け止めずにはいらんなくなった。
「そんなにオレが好きなら、あいつのこと、忘れさせてみろよ」

カッコよく決めたつもりだった。実際に出てきた声は少し震えていてみっともなかったんだけど。
いいよ、って。あっさり承諾した火神のせいで、いいんだって思えて。
悔し涙じゃないやつを抑えきれなくなったオレは、火神の服にぜんぶ染み込ませて、そうして古い傷口から出てきた膿をキレイさっぱり排出することに成功した。




火神と、付き合うことになった。
その事実をオレが自分の口から発してみたのは、数日後。黒子っちが珍しくオレに電話してきたときのこと。
「…うん、まあ、マジっス。そういうことに、なっちゃった」
本当に珍しいことに黒子っちは上擦った声で「そんな」と言った。オレはこの時の黒子っちの顔を直に見てみたくなって、すごくウズウズした。
黒子っちは先に火神から聞いてたらしい。その真偽を確かめるための電話だ。それでも黒子っちは驚いている。火神の妄想だとか思ってたのかな。
「オレがモテんのは黒子っちも知ってるっしょ?そんなに驚くことじゃないと思うんスけどー」
「…でも、黄瀬くんは」
「青峰っちのこと?それ、火神っちに言ったよ。それでもオレが好きって言われて、何かしつこかったからオッケーしたんス」
「……」
「…オレ、あいつのことまだ好きか分かんないけど、とりあえず、…現実逃避ってわけじゃないってことは断言できるよ。だからさ、黒子っち、心配しないで」
たぶん、だけど。黒子っちはいま、オレに対して罪悪感を持っている。
オレが好きだった人の心をガッチリ掴んだのは黒子っちだ。そのせいでオレが自暴自棄になって適当な男と付き合うことになったって思われてるかもしれないけれど、それは違うんだって説明だけはしておく。
「黄瀬くん、ボクは…」
「ん?」
「…すごく、複雑な心境です。こんなことを君に言ってもいいのか分からないですけど、正直言うと、…火神くんが、憎たらしいです」

黒子っちはオレと似ていて負けず嫌いで諦めが悪い。
だけどオレと違ってあんまり感情を表に出すことのない冷静な人だった。
その黒子っちが、年単位で隠していた本音をオレに告白する。

「青峰くんのことも、黄瀬くんのことも好きでした。だから、後からやって来た火神くんに黄瀬くんを持ってかれるのは凄く嫌に思います。…これは完全にエゴイスティックな考えだと思います。それでも、ぶっちゃけると、…黄瀬くんには、ずっと青峰くんを想っていて欲しかった」

自分で言ってる通りかなり酷い願いだ、それは。
青峰がオレに靡くことはないって分かってて、それでも好きでいろっつってんだ。この人、かわいい顔して中身はむちゃくちゃ悪魔みたいなんだなって思う、けど。
「ごめん、黒子っち」
オレは嬉しくなってしまった。黒子っちが、オレを手の内に納めておきたいって告白してくれたこと。
黒子っちと青峰が二人ずついてくれたら、オレは火神なんかには絶対に見向きもしなかっただろうなって思いながら。
「オレ、火神っちのこと好きになるよ」
宣言して、その気になって。
オレはそうして先に進んで行くタイプ、みたいだ。



上手い具合に吹っ切れてきた。火神とメールするのが楽しくなってきたし、会う日を決めたらその日が待ち遠しくなって部活中によくヘラヘラしてんなってセンパイに言われる回数が増えてしまった。
努力が実る一歩手前まで来てる。それを実感していた頃のこと。
最終的に立ち向かわなければならない壁が、まだ残っていたってオレは知る。

火神とメールしてたとき、唐突に割り込んできた着信音。返事早ぇなって思ってディスプレイを見たら、そこには火神と違う名前が表示されていて。
ぎくりとして、そして慌てた。黒子っちから連絡貰ったときとは別の焦りが、オレを襲う。

「も、しもし」
「……よぉ」
ぎこちなく応答したオレに、ぎこちない挨拶をしてきたこの男こそが。
オレが、ずっと好きだった、最初の人だったりする。



呼び出し食らったことを誰かに伝えたくて、最初に思い付いたのは黒子っちだ。
一応黒子っちは理解を示してくれてる。それに青峰は黒子っちに弱い。あの人に相談すればこの焦りもなんとかして貰えるって思って、でも、携帯の発信履歴からその名前を探し当てたときに指が止まった。
ここで黒子っちを選ぶのは、何か違う気がする。確かに心強いことは心強い。けど、今オレが選ぶべき人は、この先オレが大事にすべき人なんじゃないかって。
何しろ、青峰ははっきりと言ってきた。火神のことで話があると。つまり、青峰は知ってる。オレが火神とどーにかなりそうなこの状況を。
だとしたらオレが相談すべき人物は。

「黄瀬?どーした?」
「…あのさ、火神っち、…ちょっとお願いがあるんスけど」
これは多分、オレにとって試練の時でもあるかもしれない。
青峰じゃない、別の人を本当に好きになれるのかどうか。
そして火神も。オレの過去を、直に見ることによってどんな印象を持つのか。
試してみるには、絶好のチャンスだと思った。




「…緊張してる?」
「いや。どーせ青峰だろ?」
「でも青峰っちはオレの元彼みたいなもんっスよ?ねえ、黒子っち?」
「…元彼よりもタチが悪いと思いますけど」
「え?そっスか?」
「…まあ、会ってみれば分かると思います。火神くん、ボク、どこまで君の事をフォロー出来るか分かりませんけど、まあ、頑張ってください」

結局その日、オレは黒子っちにも声を掛けて一緒に来てもらった。
って言うのは火神の反応がちょっと心許なかったからだ。青峰に呼び出された。吹っ切るつもりではいるけど、不安だからオレが好きなら一緒に来てってお願いに対し、火神は即答しなかったのだ。
(オレはお前に無理強いする気はねーし、お前が青峰んとこに戻りてぇなら止めはしねーよ)
そんな優しい言葉なんて要らない。オレが欲しかったのは、男らしく過去と対決するための勇気だったんだ。でも、「行くな」って言わなかった点は評価しようと思ってる。そこまで火神がビビリだったらオレはここで火神はやめてたと思うから。
結果的に火神はオレの願いを聞きいれ、会う日とか時間とか聞いてきた。素直に教えて、それから、黒子っちにも声掛けてって頼んでみたんだ。
でもいまはちょっとだけ、呼ぶべきじゃなかったかなって思い始めてる。一応認めてくれたとは言え、黒子っちは全面的に青峰の味方だったことを思い出した。

ただこの、「元彼よりもタチが悪い」の意味はオレにも分からなかった。
なんだろう。彼氏になったことは一度もないっていう黒子っちなりの牽制なのだろうか。ひょっとしたらオレが青峰にキスしたこととかも黒子っちは知らなかったりするのかな。だとしたら、ちょっとした修羅場になってしまうんじゃないかって思ったのだけど。


オレの予想は裏切られ、約束の時刻より少し遅れてやって来た青峰は火神の顔を見てむちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
「…何でコイツがいんの?」
「オレが呼んだんスよ。一応、オレの今彼なんで」
「今彼?…オイオイ、ふざけんなよ。誰がんなこと許したよ」
「……へ?」

許すも何も、アンタはオレの今彼どころか元彼ですらない。
もしかしてこいつこそ勘違いしてんじゃないのかって一瞬思った。一回キスしたくらいでオレの彼氏になった気でいて、それで?って思ったけど、いや待てよ、オレをフったのはこいつ自身なんだよな?

「あ、あの、青峰っち?」
「帰れよ、火神。んで、二度と黄瀬に近付くな」
「は…?!」
「コイツはお前にはやんねーよ。寝言はオレを一度でも倒してから言え」


引き釣った顔を黒子っちに向けると、黒子っちは少し呆れ顔でため息をついた。
元彼よりも、タチが悪い。黒子っちは青峰のことをそう言った。そうか、そういうことか、このバカは。

いつからオレの保護者になったつもりでいたのだろうか?











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