krk-text | ナノ


▼ I will never give you away to anyone.

最初のほう黄→青→黒要素が強めですがそのうち火黄になって火黄で終わります。


***



「よろしくな、黄瀬クン」

ちょっとだけ引き釣った顔でそう言った相手に笑いかけ、これからの生活に期待を膨らませる。
きっともう退屈することはない。この人がいれば、オレはいくらでも充実した日々を送ることが出来るだろう。
乾いた気持ちが潤ってく。だけどまだまだ満たされることはないから。
お楽しみは、これからだ。



気合も充分。お次はレギュラーのイス狙いってことで張り切って練習に参加して。
全体練習終了後、青峰に教えを請おうとその姿を探したところ。シャツを引っ張られてオレはそいつの存在を思いだす。

「やる気があっていいと思うんですけど、その前に用具倉庫の案内させてください」
「…うーん。まあ、いんスけど。ちょっと青峰っちんとこ行って来ていい?」
「はぁ」
「青峰っちー!青峰っちどこっスかー?!」
とりあえず言いたいことがある。オレは2年だけど新入部員ってとこは1年生と同じ扱いになるってのは分かってる。片付けとか掃除とか、下っ端がやることもオレ上手いからって拒否する考えなんてない。青峰だって去年はちゃんとそういうのやってたって聞いたし。不満があるのは、別のことだ。

「うっせーな、何だよ黄瀬」
「お願いがあるんスけど。オレの教育係っての、やっぱアンタがやってよ」
「…はァ?ふざけんなよ、何でオレがお前の面倒見なきゃなんねーんだよ」
「オレ、ヤなんスよ!黒子クンにモノ教わるの。教えて貰うなら自分よりスゲェって思った人にして貰いたいんス!」

1軍昇格初日から訴えてきたことを改めて嘆願する。
青峰は面倒くさそうに顔をしかめ、それからオレについてきた黒子クンへと視線を移し。
「…こんなこと言われてんぞ、テツ。お前の実力見せてやれよ」
「ボクの実力は練習中のですべてなんですけど」
「…そうだよな。分かってた。…オイ黄瀬、何度も言うけどな、テツは凄くなくはねぇんだぞ。練習中にはまぁ見れねーけど、とにかく、スゲェ奴なんだよ」
「わかんねっスよ!目に見えないモノをどうやって信じろって言うんスか?!」
青峰がこんだけ言うんだから、この黒子クンも本当は凄いヒトなのかもしれない。だけどやっぱり、オレは引けない。オレが信じられるのはこの目に焼きつけた青峰の姿だけだ。だから黒子クンじゃなくて青峰に教えて貰いたい。
「ねえ青峰っちー、頼むよ。オレにバスケ教えて」
「…ダメだ。お前は大人しくテツの言うこと聞いてろ」
「うー…」
「そのうちお前にも分かるから。テツはマジでスゲェ奴だって」

説得され、ちらりと横へ視線を移す。オレにこんだけボロクソ言われても平然としている黒子クンが本当は凄いなんて、やっぱり思えなかった。



青峰に言ってもラチが開かないから、オレは直接主将に直談判してみた。
主将は言う。黒子をオレの教育係に指名したのは赤司だから、チェンジして欲しいなら赤司に頼めと。
と言うわけで赤司のもとに行ったところ、少し困ったような顔をした赤司は言う。
「それについてはこちらも検討していたところなんだけど、もう少し堪えてくれないか?」
「もう無理っス!オレの限界は突破済みっス」
「…黄瀬には2軍の練習試合に同伴してもらう。黒子と共にね」
「え?」
「そこで彼の力を見て欲しい。もしもその試合で君が黒子をやはり認められないと思ったなら、もう一度来てくれ。別の手を考えるから」
「…今のうちに考えといて欲しいんスけど。…そんで、その試合って青峰っちは出ないんスか?」
重要な質問をすると、赤司は苦笑しながら首を振る。モチベーションは低下する一方だった。




「で?どうだった?」
「…スゴかったっス。マジ、ソンケーした」
「だろ?」
一試合経てオレの考えは一新された。青峰の言うとおり、黒子っちはスゴかった。神だった。ヒトを見た目で判断したらいけないってことをオレは学習した。
「…青峰っち、見る目もあるんスね。オレだったらたぶん気付かないまま放置してたっス」
「あいつの才能を見抜いたのはオレじゃねーよ。まあ、才能があろうがなかろうがオレはあいつを気に入ってたけどな」
「…すごい、なんか、黒子っちのこととなるとベタ褒めっスね」
「そーか?」
「うん。なんか、自分の彼女自慢してるバカ彼氏みたいっス」
思ったことをぽろりと吐く。青峰は笑うだけで、否定も何もしなかった。


そういうこと、だったんだと思う。
注意して練習風景を見てれば割と分かり易いことだった。
青峰は黒子っちを信頼していて、この二人は凄く息が合っていて、完全に相思相愛。彼氏と彼女のステップを通り越しておしどり夫婦みたいにも見えてきた。それは、練習が終わった後でも。青峰がテツあれ貸せって言うと黒子っちはあれが何かすぐに分かって青峰に手渡す。オレもそういうのやってみたくて黒子っちにアレ貸して!って言ってみた。黒子っちは何のことですか?と首を傾げるばかりだった。
ときどきオレだけ意地悪されてんじゃないかって疑うときもあったけど、黒子っちは本当に青峰のことしか分かってないみたいで。試合中はともかく、日常生活で他の人と意思疎通を測るのはそんなにすんなり行ってないのを見るとちょっと安心したり。でもなんで青峰だけ、って思って落ち込んでみたり。大忙しだ。

付き合ってるみたいとか、冗談で言ったことがある。
二人とも、やっぱり笑うだけで否定しない。冗談じゃなくて本気で言ったら、どんな反応が見れたかな。そんなんじゃないとか、言うだけでもいいのにな。
一切の否定をしない。それでいつもラブラブしてる。オレはその間に割って入ってみたかったけど。
僅かな隙さえ見せることのない、二人の絆は鉄壁だった。




「お前、ちょっとテツに似てきたよな」
それから数週間経って、黒子っちの手からほぼ完全に離れたオレは毎日青峰に1on1を強請って相手して貰ってた。
今日も青峰には歯が立たなくて悔しくて。キーキーいいながらもっかいもっかいと再戦を請う。そのうちに青峰がふと漏らしたその発言は、聞き捨てならなかった。
「似てる?どこがっスか」
「諦め悪いとこ。まあ、テツは自分の武器知ってっからお前みてーにはなんねーけど」
「オレは負けっぱなしはイヤなんスよ。だからたとえオレが黒子っちみたいに消える技とか身に付けたとしても、青峰っちとやるときは使わないから」
「身に付けらんねーよお前には。つーか、そんな意味で言ってんじゃねーし」
「じゃあどういう意味?」
「お前らみてぇな奴、オレ好きみてぇ」
「……」
意味が、分かってしまって俯いた。そうか。そういうことか。
最近青峰がオレとやってて嬉しそうなのは、オレが黒子っちみたいに負けず嫌いで諦め悪くて超頑張ってるからで。それは青峰の目に映る黒子っちの姿とダブってるから、好感アップに繋がったわけで。べつに、青峰はオレ自身を好きになったわけじゃない。
好きだと。こっちもいいなって思ってた人から言われて。屈辱的な気分に陥るのは、人生初の経験だ。
「ほらさっさと立てよ。次やんぞ」
「…青峰っち」
悔しい。歯がゆい。その目を。こっちに向けたい。
黒子っちの教育を受けたオレを、黒子っちにダブらせて好きにならないで。オレを見て。オレは、ちゃんと。アンタのことを。

誰かの代わりじゃなくて、好きになったんだから。



思い余って部室に青峰を閉じこめ壁に押し付けて迫った時、オレは凄く後悔した。
「お願いが、あるんスけど」
「…何だよ?」
「…黒子っちの代わりでも、いまは、いいから。一回さ、…ヤってみない?」
決死の告白に、青峰は目を見開いた。それから、はあ?と聞き返された。
「何の話だよ。なに、ヤるって。何を?」
「…純粋ぶらなくてもいいから。ヤるっつったらアレっスよ、セックス」
「…バカじゃねーのお前、ヤんねーよ」
「なんで?」
「なんでってそりゃ、…出来ねーだろ、お前男だし」
「オレは、出来るよ」
身を任せてくれれば、全部オレがするから。大丈夫、絶対に青峰に負担がかかるようなマネはしない。じっとしてれば気持ち良くなって終わるからって、懸命に説得を試みた。
「何事も挑戦が大事っス。青峰っち、しよ」
「…本気で?」
「本気っス。オレを信じて、青峰っち」
「……」
青峰だって中二男子だ。それなりにエロいことにも興味はあるだろう。揺らいだところを狙って、顔を寄せる。くちびるを、奪ってみる。
拒絶はされなかった。舌を出して掻き回しても、突き飛ばされることはなかった。気持ち良くなるキスをした。その先にはもっと気持ちいいことがあるよって、耳元で囁いた。
未知の快楽を餌にして、突き進む。あと一歩で陥落すると思って、青峰のシャツの中に右手を差し入れた。その時、青峰が言った。
「…テツの代わりって、どーゆう意味?」
思いだしたように聞かれて、手が止まる。どうゆう意味って言われても。
「そのまんまっスよ。青峰っちは黒子っちが好きなんだろ?だから、オレを黒子っちの代わりと思って貰って構わないって」
「お前がテツの代わりになるとでも思ってんの?」
「え?」
「確かにお前はテツに似てるとこあっけど、あいつの代わりは務まんねーよ」


二人の絆が鉄壁って、オレは知ってたはずなのに。
なんであんなこと、しちゃったのかな。

オレは、黒子っちにはなれなかった。
青峰の一番には、最後までなりきることが出来なかった。
性格が似てきても、走り方やパスの出し方とかをマネしてみても。
青峰にとってのオレは、黒子っちとは別のニセモノ。


「…よく分かんねーけど、なんか誤解させてたなら言うよ」
言わなければ良かった。キスなんてしなけりゃよかった。
そしたらオレは、青峰の口から決定的なことを聞かずに済んだのに。
「お前らみてぇなの、つーか、オレはテツが好きだ」


もしかしたらこの時点で青峰はその気持ちに気付いてなかったのかも知れない。だってさ、自分で言って、自分でビックリしてたもんね。
オレが気付かせてしまった。無理やりキスして、勝手に代わりに使えって押し付けて。地雷を踏んだオレは見事に失恋しちゃってさ。

バカみたい。
恥ずかしい。

一番最悪なのは、こうしてはっきり好きな人を好きだと言い切る青峰のことを何よりもカッコいいと思ってしまう、どこまでも未練がましくて諦めの悪い自分だった。











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