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▼ 9





「……」
「……」

ベッドに腰を下ろして俯いている黄瀬の元へ戻ると、足音で察したのか、黄瀬の顔が持ち上がる。
だが、黄瀬も俺も何も言わない。無言で見詰め合って、僅かに赤面しつつ。俺はゆっくりと黄瀬の顔に両手を伸ばした。
「…っ、なん、か、…めちゃくちゃハズいっス…ね」
「…まあな」
「あの、なんか…、ど、どうしたらいいか…わかんないんス、けど…」
「上向けよ」
少し困ったように笑う黄瀬にそう指示する。ゆっくりと顔を上げた黄瀬の表情に、不安が浮かび上がった。それを見て俺は苦笑し、軽く頬を撫でてやる。
「なーにビビってんだよ、怖いの?」
「…こ、こわくなんか…ないっスけど…、でも、」
「…何されるか、わかんねぇって?」
「そ、そりゃ…、見えないっスからね」
「じゃあ、お前がして欲しいこと言ってみろよ」
「え?」
「俺は、いまキスがしたいんだけど」
「あ、う…」
明らかな誘導尋問に、黄瀬は戸惑ったように瞬きを繰り返す。長い睫が揺れるたび、こいつを愛しく思う気持ちが増えていく。
「…キス、して」
「…しょーがねーな」
そして思った通りのことを願う黄瀬に、笑いながら顔を寄せる。触れた唇は驚くほどやわらかくて熱かった。

間近で見る黄瀬の顔は、やっぱり俺好みの形をしていた。目のデカさも鼻の高さも、薄いくちびるもすべてが好きだ。頬の色づき具合もたまらない。吸い寄せられるようにキスを繰り返す。徐々に黄瀬の口端からは吐息混じりの甘い声が漏れ出す。
「ふ、…っ、は、ぁ…、も、火神っち、いったんストップ…」
「は?もうヘバったのかよ?」
「ていうか、その…、ああ、もう、言わせんなばか…」
「なにが、…うわっ!」
荒い呼吸を繰り返しながら、照れに照れた黄瀬がいきなり俺の首に両手を回すと、なかば強引にベッドに倒れる。引きずられるように俺は黄瀬の上に覆い被さった。
「黄瀬ェ…」
「ご、ごめん、火神っち…、う、あ…?」
「いーよ、もう。…このままする」
見下ろせば、黄瀬の肌を覆ってたバスローブがいい感じに乱れていた。だから俺はそのまま顔を動かした。黄瀬の両手が強張り、強く俺の顔を引き寄せる。それはそれで、まあいい。
うまい具合にハマったところで、黄瀬の頬に、鼻先に、上唇に、下唇に。順次口付けを乗せていく。きゅっと閉じられた目蓋の上にも。そうしていくうちに徐々に黄瀬の身体から悪い力が抜けていく。
油断させたところで手を動かす。
「ひゃ…っ!」
「…何その可愛い声」
「う、うるさいっス!きゅ、急に…」
「言って欲しい?なら、言うぜ?…お前の肌、触り心地いいな」
「う…っ、や、やだな、やっぱハズいぃ…」
「お前も触れば?」
そう言って黄瀬の右手を取って、俺の顔に這わせる。たどたどしい手つきで、黄瀬の指先が俺の頬を撫でる。その手は徐々に調子を取り戻し。片方の手も加わって、俺の顔をまんべんなく触れ回る。
気がつけば、硬くつむられていた黄瀬の目蓋が開いていた。真っ直ぐに俺の目を見詰め、そこに映しだされた顔は至極幸福そうに笑ってる。
「…なに、ニヤけてんスかぁ…」
「…お前もじゃん」
「俺、笑ってる?」
「ああ、すっげー可愛い顔でな」
「…ふっ、…火神っちも、可愛いっスよ?笑うと、いつもより幼くて」
「分かんの?」
「…全部、イメージ出来るっス。いま火神っちが考えてることも、俺には分かる」
「…マジ?」
「うん。…幸せ過ぎて、死んじゃいそって。俺が、可愛くて仕方なくて、絶対に、手放してやんないって。当たってる?」
「あー、ドンピシャだ」
くすくすと。笑いながら互いの顔を撫でまわす。甘ったるくて和やかな空気の中。時々キスをしながら、同じイメージを共有する。
そのままゆっくりと俺は手のひらを滑らせる。黄瀬の上半身を余すことなく撫でまわし。その手を徐々に下へと移動させる。
足の付け根にその手が到達したとき、黄瀬はぴくんと肩を揺らせた。
熱い体が、更に熱を持つ。
俺の手に触れたままの指先が小さく震えるのを見ると、どうしても躊躇ってしまうのだけど。
「…遠慮しないでいっス、から…、触って」
恥じらう目線は僅かに逸らされ。そうして言われたその言葉のせいで、火がついたように。今まで以上に深いキスを黄瀬にしてやった。

どこに触れても愛しさしか沸いて来ない身体をまんべんなく弄り尽くして、それに夢中になるうちに、気がつけばイかせてしまった。
どろどろしたものが付着した右手を見て、やや唖然とする。そして、真っ赤に染まった黄瀬の顔を見下ろせば、何だかどっと罪悪感が込み上げてきた。
「か、火神っちのばか…っ!い、いくって、言ったじゃん…っ」
「わ、悪ぃ、つい…、…つーか、それって責められることか?」
「ことっスよ!なんで、俺ばっかイかされなきゃなんないんスかぁ…、火神っちも、俺で…」
「…あー…、…うん、分かった。お前でイかせて貰うから」
ぐずぐずと泣きだした黄瀬に反射的に謝ってしまうものの、この罪悪感は不当なものであることを知る。泣いている。でもこれは、辛くてとか哀しくて泣いてるわけじゃないことくらい冷静になれば分かる。この手に吐き出された液体が何よりの証拠だ。
「良かったよ、お前が気持ち良くなれて」
「な…っ、き、気持ち…よ、かったけどっ、でも、おれ、」
「分かってるって。…じゃ、次は俺の番な。…指、入れるぞ」
非難されても困るので、宣告してから俺は黄瀬の体液が付着している指を足の間に這わせ、まだきつく閉ざされたその部分へ先端を差し込む。
「黄瀬、力抜け」
「う、うん…、…火神っち」
「なんだ?」
「…痛いって言っても、やめるなよ?」
「……手加減しねーぞ?」
いちいち煽るのが上手い黄瀬に乗せられて、多少無理して指を奥まで差し入れる。黄瀬は必死に深呼吸を繰り返して脱力を目指してる。よし、がんばれ。そのままそのまま。差し入れた指を引き抜き、同じ動作を繰り返す。何度かそれをしつつ、指の本数を増やしてみたり、中で角度を曲げてみたり、試行錯誤していきながら。
「…ッ!か…、っ」
「あ?何だよ、ここ?いいの?」
「だ…、うあ、なにそれ、…っ、なん、か…っ」
「分かった、そのまま力抜いてろ」
見つけたその部分ばかりを刺激する。男の反応ってのは実に顕著で、それは黄瀬も例に漏れず。一度達したものが再び元気になり、だらだらと先走りの液を流し始めたのを見て俺は調子に乗る。
「ちょっと、ま、って、火神っち、…あ、あ、ぁ、あっ」
「…っ、もうちょい我慢しろ、黄瀬」
「や…っ、やだ、ぁ、っ、こわい、こわい…っ」
「怖くねぇよっ」
ぼろぼろ泣きだした黄瀬の顔にぎょっとしたが、発されたその言葉は聞き捨てならない。自分でも驚くほどデカイ声できっぱりと否定する。はくはくとくちびるを動かしながら黄瀬の焦点が俺の顔に合わされる。
「…よく見ろ、俺を」
「う、あ…、火神っち…?」
「ああ、そうだ。お前を抱いてんのは俺だ。お前を気持ち良くさせてんのも、今からお前がそうさせる相手も。だから、怖がるな」
はっきり言ってもう俺にも余裕がない。何しろ泣いてる黄瀬の顔は可愛いし、中は俺の指をいい具合に締め付けてくる。すぐにでもぶちこんで、更によがる声を聞きたいと思う。でもまだ、黄瀬は震えてる。
「火神っち…」
中から指を引き抜き、そろそろと伸ばされた弱弱しい腕を取る。そのまま、黄瀬の身体を抱き上げて、首にしっかりと掴まらせた。
嗚咽と吐息が耳のすぐ側で聞こえる。何かが決壊されそうな状況下で。根気よく俺は黄瀬の背を撫でて、俺の存在を黄瀬に知らせた。
くたりと黄瀬が俺に寄りかかる。どうした、と問えば、掠れるほど小さな声で黄瀬は答える。
「…すき」
「黄瀬…?」
「奥、まで…火神っちのに、して…、…火神っちの、で、いっぱいに…、して…」
そうして黄瀬は顔を引く。間近で見た黄瀬は、涙の浮いた目を細めて、笑って。
「だいすき」
舌足らずにそう言う。最高に可愛いその顔に、俺は全力で恋をした。

圧迫感に耐える黄瀬の苦しそうな吐息を耳にしながら、片手で黄瀬の背中を支えて片手で黄瀬自身に刺激を与えて、そうして奥まで挿入を果たす。
文字通り、繋がって。黄瀬は体内で俺という存在を実感する。
「…やば、思ってたより…デカいっス…」
「まーな。それ、全部咥え込んでんだぜ?お前の、」
「いいいい言わなくていいっス!わ、分かってる…から…」
繋がった部分からどくどくと鼓動を感じる。自分の物なのか、黄瀬の物なのかよく分からないその音が心地いい。
「か、火神っち…、…う、動いても、いっス…よ?」
「…言われなくてもそーする。…ちゃんと、最後まで付き合えよ?」
「…火神っち、こそ…、んぁっ」
「よし、言ったな?後悔するなよ?」
挿入したまま腰を揺さぶり、黄瀬の言葉をわざと遮る。慌てて黄瀬は俺の首にしがみついてくる。振り落とされんなよ、と忠告して、腰を引く。こっからが、腕の見せどころだ。
「あ、あぁ…っ、や、火神っち…、っうそ、そこ…っ」
「イイんだろ?…ほら、」
「…ッ!!い、…っ、や、ぁ…っ、あっ」
指で探った例の場所をうまく突いてやる。すると黄瀬は箍が外れたように、ひっきりなしにいい声を上げる。耳元でこんな声を出されて、俺もたまったもんじゃない。
次第に黄瀬もノってきたのか、自ら腰を揺らして俺のを咥え込む。腹に黄瀬のが当たって擦れるたびに、限界に近付いてくのが分かる。
互いにもう余裕なんてない。求め合って、キスをする。本能的に揺さぶり合って、喘いで、高まって。
「…っ、黄瀬、…も、イく…ッ」
「あっ、あっ、かが、…っ、おれ、も…っ」
ぎゅう、と中のモノが強く締め付けられる。痙攣するように黄瀬の背中が震える。それを片手で抱き締め、そして。
「あ…、ぁ…」
ぎゅっと抱き締めた、その身体が弛緩した時に。
今まで溜め込んだ多くの感情を、これでもかというほどに黄瀬の中へと注ぎ込む。
「…っ、は、…黄瀬…?」
「…ふ、…ぁ、…か、がみっち…、おれ、…も、ぉ…」
「…よく、がんばったな」
「……」
「黄瀬?」
ぽん、と背中を軽く叩くと、俯いたまま黄瀬は嗚咽をこぼした。そして。
「…し、い」
「……黄瀬」
「…まぶし、っス、…この、世界」

ずっと暗闇の中にいた。光さえも届かない、閉ざされた世界の奥で。
黄瀬が見つけたその光は、この先も永劫に黄瀬を照らし続けることを知ってる。











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