krk-text | ナノ


▼ 今日はどこ行く?





「二人っきりだと、なんかデートしてるみたいっスね!」
「僕はそのつもりでお前に同行していたけれど、違うのか?」
「……へ?」

その認識の違いはとてつもなく衝撃的だった。




月バス主催の大会のメンバー集めとバイト先からの依頼、およびテスト勉強という鬼忙しい課題を大量に抱えながら図書館に出向いたオレは、そこで偶然赤司と再会した。
リラックスした様子で本を読んでる赤司に声を掛けたのに、特別目的はなかった。
赤司にも、オレと共通した目的が一つだけあるのは大会会場の下見に行った日に判明してる。
だけど赤司は計画性のある人だから、オレとは違ってもうすでに出場メンバーのスカウトは終了してるんだろうなって思ってた。
ここでそのメンバーの人たちと待ち合わせして、それから練習にでも行くんだろうって推測した上で調子はどう?って聞いてみた。そしたら、逆に。
(涼太の方はどうなんだ?もうメンバー選出は済んだのか?)
って聞かれたので、素直にまだだと答える。

(なかなかこれって人に巡り会えなくて…。黒子っちか火神っちあたりとやってみたかったけど、もう二人ともチーム組んじゃったみたいだから、あと誰に声掛けよっかなーって思ってうろついてるんスけどね)
(あの二人は同じチームなのか?)
(んーん。今回はバラけてやるみたいっスけど…。二人が組んだそれぞれの相手が面白くって)
(へぇ…)
(黒子っち、紫原っちと組んだんだって!一緒に東京限定のお菓子探してるうちになんとなくまとまった〜って言ってて…。で、火神っちは、なんと青峰っちと組むそうっスよ!すでに青峰っち、火神っちのおうちに遊びに行ってるらしいっス!急接近っスよね!)
(そのどちらかのチームに加われば良かったじゃないか)
(え…?あー、それも考えたけど…、そんなら、一緒にやるより相手チームになったほうが面白いかなーって思って、パスしたんスわ)

元チームメイトの黒子っちと紫原っちはともかくとして、犬猿の仲って感じの火神っちと青峰っちが同じチームって聞いたらなんか凄い燃えちゃって、お前もチーム入る?って聞かれたには聞かれたけれど辞退した。
ってことを素直に打ち明けると、赤司は少し笑いながら、お前らしいな、と言った。そして。

(涼太は、チームメイトが決まったらどんな風に相手と交流を深めるつもりなんだ?)
(え?んー、そうっスねー…。まぁ、適当にぶらぶらしながら普通に遊んだり?)
(それなら、中学の頃からよく行動を共にしていた大輝たちと同一チームに加入するのは刺激が不足するかもしれないね)
(うん、そーゆうのもあるっスね!せっかくだし、あんま遊んだことのない人と遊んでみたいかも)
(だったら、僕と一緒にやらないか?)
話の流れでそう言われて、え?って思って赤司の顔を凝視する。
(赤司っち、まだチーム組んでないんスか?)
(あぁ。今回は少し試してみたいことがあってね。自分から声を掛けるよりも、受動的になってみようかと思っていたんだ)
(誰かに声掛けられるの、待ってたってことっスか?えー、ラッキー、そんじゃやろう!オレ、赤司っちとやりたいっス!)
(決まりだね。それじゃあ、場所を移動しようか)

まさか赤司のスカウトに成功するとは思ってなかったので、本当にラッキーって浮かれながら図書館を後にしたオレたちは、その足で近場にある屋外コートへ向かった。
そこでちょっと汗を流して、とりとめもない雑談とかしてるうちに、心なしか上機嫌そうな赤司が黒子っちや火神っちがしてるみたいに明日からはチームメイトの親交を深められることをしないかって言ってきた。
それに対して軽い気持ちでいーっスよ!って答えたオレに、赤司は。

(行き先やその内容は涼太に任せてもいいかな?僕は、あまり同級生と街を出歩いた経験があまりなくてね)
(え…?そ、そうなんスか?!あ、中学の頃も…)
(部活動の主将業務や、生徒会の仕事もあったし、習い事も多くしていたからあまり同級生と過ごす機会は取れなかったんだ。高校に進学して、部活のセンパイたちと食事に行くことは増えたけれど、
彼らはまだ少し僕に遠慮をしているような素振りがある。だから、この機会にぜひ、お前が普段している遊びを僕に教えて欲しい)
(ふ、普段の遊び…っスか?えーと…)

そう言われるとオレって普段何して遊んでたっけ?ってすごく真剣に考え込んでしまう。
赤司はオレのそんな様子を見て、穏やかに笑いながら続けた。
(何でも構わないよ。本当に、何気ない日常的な行動でいいんだ)
(…女の子とデートでカラオケとかゲーセンとかならよく行くけど、…そういうこと?)
(あぁ。そのどちらも、僕は経験したことがない)
(えっ)
(手ほどきを頼むよ。涼太、お前を信頼している)

と言いながらオレの背中を軽く叩いた赤司は、オレに物凄いプレッシャーを掛けたままさっさと帰ってしまった。
でも、その重みに押し潰されそうな気分になったのはその日だけ。

翌日、実際に赤司と二人で街中をぶらぶらしている間に変なプレッシャーが吹き飛んだのは、どこに連れてっても素直で新鮮な反応を見せてくれる赤司が無邪気で可愛く思えてきたからだ。


赤司は本当にまっさらな人だった。
カラオケやゲーセンに行ったことがないってのはマジみたいで、店舗設備にいちいち関心を寄せてはオレにどうやって使うのかとか聞いてくる。
今時こんなピュアな高校生いるんだなぁ、って思いながら丁寧に使い方の説明をすれば、もともと頭の良い赤司はすぐにその場に順応して、オレと同じレベルでオレと同じように遊んでくれた。

中学時代、赤司には部活でアドバイスを貰ったり、たまに勉強を教えて貰ったことはある。でもそういうのは大体オレ以外の人も一緒にいて、二人きりでこうして出歩く機会なんてゼロだった。


だから、つい。「デートみたい」だなんておかしなことを口走ってしまったオレも悪かったのだろうけど。




「昨日、お前は女性とデートすることが自分の日常だと言っていたね。僕は今日、その日常を味わわせて貰っているつもりだ」
「え…?それって、赤司っち、女の子気分でオレと一緒にいるってこと?」
「…相手役、という意味ではそうかもしれない。パートナーと言って貰ったほうが印象は良いけれど」
「…そっか、赤司っち、モテんのになー…」

オレの日常を経験したことが今までなかったってのは、女の子とデートした経験がないってことでもあったんだと気付いて、ちょっと勿体ない気分になる。
オレほどじゃないけど、赤司は中学の頃から女の子人気は凄く高かった。バスケ部ではオレの次にモテてた人かもしれない。それなのに、赤司に浮ついた噂が流れたことは一度もなかった。

「何で彼女作らなかったんスか?告白とかされてなかった?」
「…昨日も言った通り、あの頃の僕にはあまりプライベートな時間がなかった。恋人がいたとしても、おそらく退屈な交際を強いてしまうことになっただろう。だからかな?」
「えー、じゃあ今は彼女作り放題なんじゃないっスか?……ってか、すでにいたり?」
「いないよ。高校生活も、それなりに忙しくてね。中学時代と同じ理由で、交際を申しこまれても断るようにしている」
「……ほんと勿体ない…。それって青春のお楽しみの9割は損しちゃってるっスよ?」

これは、現在オレが通う高校のバスケ部のセンパイが特定の彼女を作らないオレに対して言ってきた言葉でもあるけれど、オレのことはまぁいい。彼女はいなくても、適当に遊べる女の子とデートとかしてれば楽しいし。いまは、そんなもんでいいって考えてる。
でも赤司の場合は、オレみたいなフランクな考え方は出来ないだろうなって思う。だからこそ、ちゃんとした本命の彼女を作ればいいのにって。
オレなんかじゃなく、今日みたいな遊び方は女の子と二人でした方が絶対楽しいのに、って。

「そうだね。今日一日お前と行動を共にしていて、こういった過ごし方も悪くないと思えたよ」
「そんじゃ、次に告白してきてくれた女の子と付き合っちゃう?」
「……いや、そういったことはしない。恋愛感情もないのに交際を受け入れるのは相手にも悪い」
「耳が痛いっスね…。そんじゃ、赤司っちは好きな女の子作るのが当面の目標ってことで、」
「その目標ならすでに達成したよ」
「へ?」

同い年にしては大人びた態度をする赤司が、恋愛に関して奥手な事実を知ったオレは、赤司がその気になればいくらだってアドバイスをあげるつもりでいた。
だけどここでこの好きな子がいる発言。どういうことだ?と首を傾げながら赤司の顔を見れば、左右で色の違うふたつの目がじっとオレの顔を凝視していてちょっとビビった。

「え、何…?」
「擬似体験にしろ、お前と二人でいる時間は僕にとってとても充実した気持ちにしてくれた。つまり、僕は涼太という個人に特殊な感情を抱いているのだと思う」
「……は、」
「今日、一緒に行動した相手が涼太でなければ僕はここまで安らげはしなかっただろう。お前は盛り上げ上手で、細かな気遣いができるいい男だということが分かった。だけど、……もっと深く、お前のことを知りたいという欲求が僕の中に生まれたんだ」
「ちょ、ちょっと待って、赤司っち!それは……」

いま、赤司は言っちゃいけない言葉を口にしようとしている。
それだけは阻止しなきゃならない。でもどうやって?この話題を終わりにしよう。そうだ、もっと楽しい話をしよう、そうし、

「僕は、他でもなくお前に交際を申し込みたい」


オレの回避策は表面に出る前に無効化された。





かつてない窮地に立たされている。
問題がデリケートなだけに、他の人に相談するわけにもいかない。オレ一人で解決しなければならないこのまずい状況に、ひとまずオレは逃げを打った。

急に言われてもすぐには答えが出せない。
赤司のこと、真剣に考えたいから、もう少し様子見させて。なんて。

その場できっちり断れなかった自分の優柔不断さを、帰宅してから充分に後悔している。


真剣に考えるっつったって、答えは一つっきゃないのに。
どんなに悩んでみても、オレが赤司の要望に応えることは出来ない。
赤司がオレにあんなことを言ったのは、何より、赤司の恋愛経験が一般に比べて著しく少ないからってそれに尽きると思う。
わずか数時間デートしたくらいでそんなほいほい好きになっちゃまずいだろ。
実はわりと惚れっぽい性格でしたっていうにしても、良くない、と思う。赤司はそんな簡単に自分を安売りしては駄目だって、そう思う。

これだ、って思って携帯を手に取る。
『自分を安売りしてはいけない』。これってすんごいナイスな断り文句じゃないか。
告白の断りを入れるのには馴れてるはずのオレでも、こんな相手重視な言葉を用いたことは未だ嘗てない。だけど、赤司が相手ってなら全然使える気がする。
思い立って早速赤司あてのメールを作成した。一生懸命考えた末の結果だって、そんなフレーズも追加してみる。だけど。

……待てよ。
赤司、こんなんで納得するかな?

告白してきたときの赤司は異様に自信たっぷりな表情をしていた。
オレが断るはずもないって。自分の判断は間違ってないって、圧力すら感じる堂々とした態度だった。オレが即断できなかったのは、あの態度と表情が主な原因だったかもしれない。
そんな赤司に、『オレじゃ君には不釣合い』的な否定的な言葉を送って、はいそーですかと納得するだろうか。いや、無理だ。うまいこと言いくるめられて終わりそうだ。

口じゃたぶん、オレが赤司に勝つなんて不可能だ。
だったら、行動で示したほうが確実かもしれない。
どうしよう。何をする?赤司がオレと付き合うのは無理だって思う有効な手段は何だ?

って考えを進めたとき、手に持っていた携帯がブルブル震えて、ビビってうわってなった。

「あ、う……」

受信したメールの差出人は、いままさにオレが真剣に考えて居た相手の名前。赤司から、だった。
恐る恐る携帯を操作し、赤司からのメールを確認する。そこには実に簡潔なワンフレーズが。

『明日はどこに行く?』

挨拶も、絵文字も顔文字も一切ないシンプルな一行。でもこの無機質な文字から、オレは赤司が明日のデートを非常に楽しみにしている事実を読み取ってしまった。





結局考えがまとまらないまま、翌日。オレは赤司と二回目のデートをすることになる。
日中はオレも学校があるし、赤司も部活の用事がある。待ち合わせはオレの授業が終わってから、駅前広場でってなったので、逃げたい気持ちを必死に押さえながらそこへ足を向けた。

駅の改札を出て、ロータリーの向こう側に待ち合わせに最適な駅のシンボル的銅像とベンチがある。
先ほど電車の中で、赤司から到着連絡を貰った。少し早めについたから、ベンチで読書でもしてるって。言葉通り、赤司の姿はそこにあった。

昨日と同じ、制服姿の赤司はベンチに足を組んで座り、涼しげな顔で文庫本を読んでいた。
あの本の表紙がアニメちっくな美少女のイラストだってことを、通りすがりの人たちは誰も知らない。それどころか、改札からオレの前を歩いている女の子二人組は、赤司の方をチラチラ見ながら「ねぇ、あの人かっこよくない?」「彼女と待ち合わせかなぁ」「どこの制服だろ?この辺じゃないよね?」「ちょっと様子見て、いけそうだったら声掛けてみよっか」なんて会話をしている。

このままオレが隠れて赤司に声を掛けなければ、自動的に赤司は逆ナンをされる運命にあるのかって思うと、ちょっと見てみたい衝動に駆られた。
赤司はどんな対応をするんだろう。こんな、スカートの短い女子大生風の女の子二人に声を掛けられて。ちょっとは、気持ち揺らぐのかな。
オレと待ち合わせしてることなんて忘れて、彼女たちの誘いにまんざらじゃない態度で応えちゃうのかな。オレと付き合いたいって言ったくせに。昨日の今日で、そんな、舌の根も乾かぬうちに。
昨晩、オレがなかなか寝つけなかったのは赤司のせいなのに。
オレをこんなに悩ませておいて、キレイな女の子に靡く赤司なんて、オレは。


「涼太!」
「…っ!!」

もやもやした気分で妄想を膨らませたオレの名前が、突然良い声で呼ばれる。
そんなにデカい声じゃない。だけどこの屋外でもよく聞き取れる響きのキレイなあの声は、紛れもなく赤司のもので。顔を上げれば、本を閉じてベンチから立ち上がった赤司がすたすたとこちらへ近付いてくるところだった。

「あ、赤司っち……、お待たせっス」
「いや、そんなに待ってないよ。読書もあまり捗らなかった」
「え?そ、そう…?」
「…と言うのも、あまり集中出来なかったからなのだけど。ここでお前を待っている、と思うと、妙に気が急いてしまってね」
「う……」
「昨日の今日で、もうお前の顔が見たくて仕方がなかった。…想定していた以上に、僕はお前に夢中なのかもしれない」

そう言って少しはにかむ赤司に、不覚にもドキっとしたのは。
べつに赤司を可愛いと思ったからじゃなく、深みにハマってしまった危機感から、なのだと思いたい。










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -