krk-text | ナノ


▼ 独占肌質感



初回限定シナリオの女装ネタ。青峰くんが黄瀬くんの色気に気付いた話。


***




酔っ払ってんじゃねーのかってくらい、今日の黄瀬はめんどくさかった。

「ねー青峰っちぃ、結局何でなんスかぁ?」
「何がだよ」
「だーかーらぁー、学祭の女装の話!青峰っち、何であの時あんな素直にオレたちの言うこと聞いたんスか?」
「…言ってんだろ。お前とさつきが強引に…」
「それは聞いたし、我ながらあの時はグイグイ行ったなって思ってるっスよ。でもさ、火神っち言ってたじゃん。…『その頃の青峰はそんな素直なヤツだったのか?』って」
「……」

ちょっと前までわりと大人数でカラオケ店にいた。
そのメンツがまた異色っつうか、オレにとっては有り得ない顔ぶれで。
中学時代のバスケ部レギュラーが6人揃い、さらにもう一人、火神がいた。この7人でメシを食って昔話をして、黄瀬の提案で二次会カラオケにまで連行され。その帰り道が、今だ。
他の奴らとはすんなり別れられたのものの、なぜか未だに黄瀬がオレの横を歩いている。黄瀬の自宅の方角がどっちだったかは覚えてないが、オレんちの近所ではないことは確かだ。どこまでついてくんだよ、と訊ねた答えが、「そう言えば青峰っちに聞きたいことがあったんスわ」だった。

お好み焼きが焼けるまでの雑談で、たしかにそんな話をした。
中2の学祭で、オレは思いだしたくもない嫌な記憶をこいつらに植え付けられた。





(あ!いたいた!大ちゃん、ちょっとこっち来て!)

あの時オレはテツや紫原たち、バスケ部の連中と出店を回っていた。
綿菓子の店で紫原が大量に綿菓子の袋を受け取っているのを見届けていたその時、廊下を走ってきたさつきがオレたちに声を掛けて来た。
(んだよ、お前、クラスの店番はどーしたよ)
(ちゃんと持ち回りの時間はこなしたよ!…どっかの誰かがふらっといなくなっちゃったせいでちょっと予定よりオーバーしちゃったけど)
(青峰くん、サボったんですか…?)
(ダメじゃん峰ちん〜。さっちんかわいそ〜)
やや不服そうに頬をふくらませたさつきの暴露により、テツと紫原がオレに非難の声を浴びせてくるが、こんなものはいまさらだ。てきとうにあしらい、別の店へ足を向けようとした。

(ちょっと待って!大ちゃん、お願いがあるの!)
(あぁ?んだよ)
(いいからちょっと手伝って!あ、テツくんとムっくんも一緒にいいかな?)

なんとなく逃げられない予感を察知したオレは、紫原とテツにサイドを固められて渋々とさつきの召集に応じた。
そして向かった先で。

(なんだ、お前たちも協力してくれるのか?)
(ブハッ!!あ、赤司…?!)
(赤ちん?!何やってんの…!)
(?見ての通りだけど。桃井、彼らにはまだ話していないのか?)

吹き出すオレと紫原に対し、冷静な返しをする。その見知った顔は、紛れもなくオレらの部活の主将だった。
その主将はオレたちの反応にやや怪訝そうに首を傾げ、さつきに確認をする。頷くさつきを見て、だったらオレから話そう、と落ち着いた声音でそいつは言った。

(これから体育館のステージで帝光中ベストカップリング大賞の発表が行われるんだ。だけど、応募者が一組しかいなかったそうでね。これでは主催者側も企画を遂行することができないだろう?そこでオレは、企画を盛り上げるために自ら候補者として立ったんだ)

すらすらと取説を朗読するように言ってのける赤司から、オレたちは片時も視線を逸らすことが出来なかった。
なぜならこの赤司の恰好が。普段、学校中の女子から王子様のようだと囁かれている赤司が。

赤いスカートを履いていたからだ。

(なるほど、それで赤司くんが女装をしているんですね)
(オイテツゥ!!今の赤司の説明で何でそーなんだよ?!)
そしてオレの横で納得したように頷いているテツもよく分からない。新手のボケなのかと思いすかさず突っ込みを入れてやると、まったく笑っていない大きな両眼がオレを見上げてきた。
(ですから、赤司くんは帝光中ベストカップリング大賞の候補者として名乗りを上げていると…)
(カップルだろ?!女装コンテストじゃねぇだろ?!)
(そーだよー、なんで男の赤ちんが女の恰好してんの?…なんかやたら似合ってるけど)

常識的な反論をすると、紫原もオレに同意した。
だが対峙する天然ボケチビ二人組は揃って同じ方向へ首を傾け。

(カップルでの出場が義務付けられているんだ。男と女が一組でなければエントリーは出来ないだろう?)
(赤司くんが女の子の恰好をしているのは理にかなっていると思いますけど…)
(あ、そっか、わかった〜)
それを聞いた紫原があっさりと相手側に取りこまれる。
(ひょっとしてさっちん、赤ちんの相手役で峰ちん探してたの?)
(は?!いや、普通に赤司が自分で女捕まえてくりゃいーじゃねーか!つうか、さつきでいいじゃん!)
(いや、それでは面白くないだろう?)
(何だよお前!それでいいのかよ!)

口端を上げて悠然とした微笑みを返す赤司の考えてることはまったく分からない。
だがまぁ、本人がそれでいいと言っているのならこれ以上オレが反論しても無駄だ。紫原も言っていたが、赤司の女装姿はわりとしっくりきている。少なくともオレや紫原がやるよりは。

だがオレはこの赤司の相手役として悪乗りに付き合うつもりはない。
幸いこの場にはテツと紫原もついてきている。二人のうちのどっちかが赤司に付き合ってやりゃオレは用ナシだろ、と気を静めた。

(それじゃあ青峰、衣装に着替えてきてくれ)
(…は?いや、なんでオレなんだよ?お前の相手は…)

落ち着いたオレの結論をまるで無視した赤司が催促をしてきたので、驚いて聞き返す。
涼しげに笑っている赤司は、そうだな、と視線をオレから隣へ移した。
(オレの相手は、黒子にお願いしよう)
(ぼ、僕…ですか?)
(それから、紫原は緑間の相手を頼む。そろそろ着付けが終わる頃だろう)
(え、ミドちんも参加すんの?…って、まさか、…ミドちんも女装…?)
(少し強引な誘い方をしてしまったけれどね。彼の落ち着いた佇まいにうってつけの衣装があったんだ。上手にエスコートしてあげてくれないか?)
(んー、まぁ、オレが女装するんじゃないならいいけど…。…って、それじゃあ峰ちんは?)
(オレはやんねぇぞ!)

次々と指示を繰り出す赤司に流されたらおしまいだ。
なんとなくオレに下される指示内容が予想できたが、それを言われる前に拒絶を口にする。
だが、赤司は一枚上手だった。

(相手役をお前に、と指名してきたのは、黄瀬本人だ)
(は…?黄瀬…が?)
(彼もあまり乗り気ではなかったのだけど、他の誰でもなく青峰が相手役を務めてくれるのならば、と渋々承諾してくれたんだ。すでに着替えも終了している。…黄瀬はモデル業をこなしているだけあってああして着飾っていると見違えるね。同性だと分かっていても、見惚れてしまったよ)
(……そんなにかよ?)
(あぁ。彼は、とても綺麗だ)

黄瀬が整った顔をしているのは、あいつがバスケ部に入部してくる前から知っていた。
モデルの黄瀬涼太を知らない生徒はこの学校に一人もいない。一年の頃、移動教室ですれ違う際に間近で見た黄瀬の顔は純粋にキレイなもんだと賞賛できた。
あいつなら、たしかに女装もお手の物かもしれない。
ガタイが良くて中身はバカでも。いまオレの前に立っている赤司がこんだけ化けたんだから、黄瀬が女装をすればそれはもう、女優レベルに達するかもしれない。

オレの思考の変化を読み取った赤司が、さらなる揺さぶりをかけてくる。
(黄瀬に与えた衣装は胸元が大きく露出されたデザインのドレスだ。オレや真太郎がまとう衣装よりもよほど色気の感じられるものを選んでみたんだ)
(は…っ?!お、おま、何考えて…っ)
(お前は、そういったタイプが好みだろう?)
(…っ)

どこまで、赤司はオレの上を行くのか。
脳内でオレ好みの女優やタレントが露出度の高いドレスをまとう。その顔がすべて黄瀬に置き換わる。違和感は、まるで感じない。
黄瀬の顔は、キレイに出来てんだ。しかも、部活で着替えるときに時々視界に入るあいつの肌はかなりきめ細かくて白い。たまに触ってみたくなるときもある。
なめらかで手触りが良さそうなあの肌に、色気を感じたことがまるでないとは言い切れない。

黄瀬が、女だったら。
そう考えたことが一度もないと、オレは。

(どうだ?青峰)

改めて促され、決断をする。
オレは、黄瀬の女装姿が見たかった。





「桃っちと二人でオレんとこ来たときは本当にビックリしたっスよ!赤司っち、どーやって青峰っちにオッケーさせたんだ?!って」
「…うっせー。お前、赤司の押しの強さ知ってんだろ」
「まぁ、赤司っちが交渉するって聞いた時はスッゲーほっとしたけど。やっぱさすがっスよねー。ほんと、頼もしい人っスわ」
「……クソ」

すっかり女装した黄瀬がいると思いこんでいた部屋の中に、その姿はなかった。
代わりにいたのは、タキシードを着用し深い青色のドレスを手に抱えた黄瀬だけで。

「ドア開けて、オレ見てすぐまた出てったじゃん?あの時も赤司っちに説得されたんスか?」
「…違ぇよ、それは。…さつき」
「え?桃っち?」
「…もーいーだろ。過ぎた話は」

騙されたと知り、すぐにオレはあの場から逃げだすつもりだった。
だがオレを捕まえたさつきは、声を潜めてこんなことを囁いてきた。

(待って!大ちゃん、きーちゃんのドレス着てあげてよ!)
(なんでオレが…っ!冗談じゃねーぞ?!話が違うじゃねーか!)
(最初はきーちゃんが着るはずだったの!でも、演劇部の人から渡されたドレスがあまりにも大胆なデザインだったから、これだと大ちゃんが気にするかなって思って…)
(ハァ?だから何だよ、黄瀬に着せろよ)
(いいの?きーちゃんがそんな色っぽいドレス着ても。大ちゃん、嫌じゃないの?)
(は…っ?!)
(みんなにその姿見られちゃうけど。きーちゃんの、セクシーなドレス姿)


さつきのこの言葉。そして直前、赤司の誘導によって鍛えられたイメージパワーがオレの正常な判断力をぶっ壊した。
このときのオレの脳内の黄瀬はオレのために女装をし、並ならぬ美貌と色気を兼ね備えた設定になっていた。その黄瀬を、なんで他の奴らに見せてやんなきゃなんねーんだと。
後から思えば、二重の洗脳に引っ掛かっていただけなのだが。

さつきと共に部屋に戻ったオレは、黄瀬から衣装をぶん取り。さつきや黄瀬の思うがままに、史上最悪な着替えをするハメになったんだ。




「…ま、いっか。青峰っち、桃っちに泣きつかれちゃうと弱いっスもんねー。オレは楽しかったし、これ以上聞かないであげるっス!」
「…マジムカつくな、お前」
「えー?なんだかんだ青峰っちも楽しかったっしょ?二度とあんなドレス着る機会なんてないっスよ、きっと!」
「そーだろうな」

能天気に笑ってる黄瀬の頭を殴ってやりたい衝動を堪え、深く息を吐く。
そうして気分を静めたところで。

自らの首を絞めたのは、黄瀬だ。


「あれからあのドレスどーしたんスか?演劇部に返却したんスか?」
「あー。サイズ調整されて他に着れるヤツいねぇってんで、持ち帰らされたわ」
「マジっスか!そんじゃ、青峰っちの部屋に今もあのセクシードレス眠ってるんスね!やったじゃん、いつかまた着れる日が…、……ん?」

一度はオレに押し付け回避した地獄の罰ゲームのような事態を、こいつは。
むざむざとオレの前でその話を蒸し返し、思い出し笑いしている黄瀬は、マジでバカ。

「なぁ、黄瀬。今からオレんち来いよ」

ドレスの在り処なんか、お前が聞かなけりゃオレは一生記憶の彼方に追いやったままだった。
オレの顔を見た黄瀬の表情が僅かに強張る。「え?」じゃねーよ。とぼけんな。

思い出した。オレ、お前の女装姿、普通に見たかったんだわ。
相変わらずお前色白だし、よく手入れしてんだってな。メンズコスメ?んなもん使って、磨きかけてんじゃねーよ。

「あ、青峰っち?今日はもう遅いからまた今度…」
「ダメだ。帰さねーぞ」
「いやホント。オレ、テスト勉強もしなきゃだし、これ以上は…」
「逃げんなよ」

オレはお前の頼みを聞いてやった。
今度はお前の番だ。

黄瀬の頬に手を伸ばし、触れた肌の手触りは想像以上に悪くない。
いいな、これ。もっと見せろよ。触らせろ。

誰の目に触れることもない。
オレだけが目撃する。このカラダは、オレのもんだ。

二年前に赤司とさつきから掛けられた洗脳は未だに解けてはいないらしい。
だから、今日。これから黄瀬の身に起きる事件の真犯人は、オレじゃなくてあいつらだ。









緑間くんの衣装と違って青峰くんのはぼーっとしてたら勝手に着せられてたなんて言い訳は通らねぇぞ自らの意思で着てるだろこれ!って思って、あと黄瀬くんの身代わりに着たって自分で言ってたから私はすごく動揺した。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -