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▼ 虹村提督の秘書艦、赤司


※艦これパロで、キセキが艦娘的なやつで虹村艦隊に順番に着任してきて虹村艦隊超つえーってなって虹赤がケッコンカッコカリする話。


***




その日、帝光鎮守府には、幸運の女神が訪れていたようだ。

「た、大変です、虹村提督!」
「おう、どうした?」
「工廠へ…!工廠へお越しください!」

血相を変えて提督執務室へ駆け込んできた秘書艦の呼び出しに応じ、虹村は執務の手を休めて彼の要請通り、工廠へ足を向ける。
そこで虹村は、思わぬ光景を見ることとなる。

「提督!お待ちしておりました!」
「…お、おい、…ひょっとして、そいつは…」

工廠に常駐している建造担当者は、焦りと戸惑いの交じった様子で訪れた虹村を建造が完了したばかりのドックへ招く。そこでは日夜、妖精さんと呼ばれる存在が提督の指示に従い指定された各種資材を用いて新造艦の組み立てに励んでいた。
この建造は、資材量を調整することである程度艦種を絞ることは可能であるが、必ずしも提督が希望した艦が建造されるとは限らない。その、博打のような建造結果報告を、今日までの虹村はあまり期待を持つことなく受けてきた。

だが、その日は違う。
提督自ら工廠へ出向き、その目で。はっきりと見せつけられたのは。

「あなたが提督ですか?オレは、赤司型一番艦、赤司征十郎と言います。どうぞ、よろしくお願いします」

落ち着いた声音で名乗り、上官となる虹村に洗練されたお辞儀をしてみせた、この新造艦、は。

「…マジ…かよ…。よっしゃ!やっとレア艦来たぜ!!」

数多の提督たちが建造指示を出してもめったに建造成功することはない、非常に貴重な軍艦だった。




赤司が貴重な艦である理由は非常に分かり易く、彼は異様なほどに有能な艦であるからだった。
通常、着任したばかりの艦は非常に耐久が脆く、砲撃火力も低い。幾度も出撃や演習などを繰り返し、練度を高めることによってそれらのステータスは向上していくのだが、赤司の場合は着任当初から他との違いを盛大に見せてくれた。

「提督、お待たせしました。鎮守府近海の哨戒、および敵駆逐艦8隻、軽巡洋艦10隻、重巡洋艦5隻、重雷装巡洋艦2隻、戦艦2隻、航空母艦5隻の撃滅が完了しました」
「お、おう…。消費資材は?」
「提督の指示通り、可能な限り低燃費の随伴艦をつけたため、最低限に留まりました。また、哨戒中に若干量の資材を入手し、資材庫へ運びましたので、ご確認下さい」
「おー、サンキュ。各艦の練度はどうだ?」

可能な限り有能な新造艦の練度を高めるため、虹村は赤司に強力な装備を載せた上で艦隊の旗艦に据え、着任初日から出撃を指示した。
大事な貴重艦だ。万が一の場合を想定して、随伴艦には虹村が提督として就任した当初から主力として戦い抜いてきたベテラン艦を配置した上で出撃させたのだが、その第一回の出撃で赤司は先輩たちを差し置いて見事な殊勲を上げた。
掠り傷程度のダメージを負っていたものの、自ら帰還報告にやって来た赤司を見て、虹村は驚きを禁じ得なかった。

2回、3回と出撃を繰り返すうちに、赤司はすっかり旗艦としての自覚を持ち、着任三日目には赤司に随伴艦、および自身の練度に見合った海域を選ばせ。
滞りなく指示を遂げ帰還した赤司に、それ以降虹村が与えた指示はただ一つ。「大破することなく生還しろ」のみとなる。

そうして自由に出撃させていた赤司が、本日の帰還報告で口にした練度に、虹村は瞠目する。

「…お前、もうそんなに練度上がったのか?」
「はい。提督の指示通り、旗艦として出撃を繰り返し行い、毎回戦果を挙げていたので…。一次改装の練度には達しているかと思います」
「…マジかよ。さすがだな…。そんじゃ、早速改装してくっか」
「ですが、改装には資材の消費が…」
「んなもんケチるわけねぇだろ…。さっさと工廠行って来い!あ、ついでに建造ドックが空いてたらこの建造レシピで造るよう伝えといてくれ」
「分かりました」

従順に返答し、退室していく赤司の姿を見送った虹村は椅子の背凭れに寄りかかり、軽く息を吐いた。
「…あいつ、マジでバケモンだな」
予想をはるかに上回る速度で一次改装可能な練度に達することになったのは、おそらく、虹村が詳細な指示を与えずに赤司自身に調整を委ねたからだろう。
高い能力を持つ艦は、自身の能力に誇りを持ち、練度以上の難易度とされる海域に勇んで出撃して大怪我を負う者が多いと聞く。そうなれば、入渠ドックにて長時間の修理を余儀なくされることとなる。
だが、赤司は現時点の自身の状態をよく認識しており、適度な休息を取りながらも破損をしないように心掛けて出撃を繰り返してきた。その調整力は、虹村が過去に接してきたどんな有能な艦にもない卓越した能力だ。

一次改装を施し、そして近代化改修を進めることにより、たちまち赤司は虹村の艦隊に必要不可欠な存在となるだろう。
その時はおそらく。虹村が想定する以上に、近い。





翌日、虹村は更なる驚愕に直面することとなる。

「…おい、それ、…マジかよ?」
「はい。昨日指示があった通り建造を依頼したところ、2隻の大型艦が着任しました。お会いになりますか?」
「会う…けど。…そいつら、マジで……緑間と、紫原なのか?」

朝一番に執務室のドアを叩いた赤司からの建造結果報告に、虹村は耳を疑う。
昨日、建造の完了予定時間が普段より長時間になることを赤司から聞いていた。だが、まさか。
赤司の依頼で造られたその2隻の艦は、赤司に匹敵するネームバリューのレア艦だった。

「本人たちが名乗りましたし、居合わせた先輩方も間違いないと。紫原が、着任早々空腹だと言うので食堂へ通しましたが、必要であればすぐに呼び出します」
「いや、オレが行く。食堂だな?」

新造艦は補給タンクも満タンで受け渡されることになっているが、それでも着任時から空腹という。それは、提督たちの間で囁かれるレア艦、紫原の大きな特色だ。
燃料や弾薬だけではなく、人間が食するものまで食いたがる。非常に消費量の高いその新造艦は、本人と対面するでもなく本物だと分かる。
燃費は悪いが、火力と耐久力は現在建造可能と言われている艦の中でも最高だという紫原。
そしてもう1隻は、高い索敵値と命中力を誇り、初期段階から超長距離砲を装備しているという緑間。

この2隻が揃って艦隊に加わるとなれば、もはや鬼に金棒だ。
世界中を探しても、このレベルの艦が2隻所属する艦隊は珍しい。さらに、虹村の艦隊には赤司がいる。

いや、もしかしたら。

「…赤司に、依頼させたから…か?」
「え?」
「建造だよ。お前が秘書艦として建造指示を伝えに行ったから、こんなとんでもねぇレア艦がいっぺんに2隻も来たのかもしれねぇな」
「…それは、どうでしょう。オレも、そういった相乗効果は知りません。…ただ」

幸運の仮説を口にすると、赤司は珍しく穏やかな笑みを浮かべ、こんなことを言った。

「建造ドックの妖精には、依頼時にこう伝えました。…虹村提督の望む艦を造って欲しい、と」
「……」

まさか、と思う。
これこそ、仮説に過ぎない。根拠のない推測、だが。

虹村のために、と赤司が願った。
その殊勝な想いこそが、稀少な艦を2隻同時に虹村艦隊へ齎した最大の要素なのではないか、と、虹村は妙に気恥ずかしい気分になった。




それ以降、虹村は赤司を自分の秘書艦に固定し、どの艦よりも厚い信頼を置くようになる。
秘書艦に据えるということは、自動的に第一艦隊の旗艦となる。さらに赤司は艦隊の誰よりも戦果を稼ぐため、練度はみるみるうちに向上していった。
虹村から紫原と緑間の練度を上げるようにと指示があった際は、搭載する砲の火力を調整して戦果を譲ることもあったが、それを差し置いても赤司の練度は高く。
艦隊内、そして上層部からも、虹村艦隊の赤司は一目置かれる存在となっていた。

また、出撃以外でも赤司の艦隊における功績は大きい。
緑間、紫原の建造に成功した一週間後のこと。いつものように赤司に建造依頼をさせたところ、次に成功させたのは。

「…あ、青峰…?!マジかよ!青峰出た?!」
「はい。少々血の気が多いようで、直ぐにでも出撃させろと騒いでいます」
「…お前、マジでスゲェな…。青峰まで造り出すとは…。こりゃ、「キセキの世代」が全員揃うのも夢じゃねぇかもな」
「キセキの世代…ですか?」
「あぁ。大昔に存在した、伝説の艦隊だ。構成された6隻すべてが高性能の艦で、どんな難解海域もほとんど無傷で攻略して帰還したっつー、奇跡の艦隊。…ま、うちにはお前さえいりゃそこそこな結果が出せるし、そこまでスゲェ艦隊になんなくても構わねぇけど」
「提督、残りの2隻は建造可能な艦なのですか?」
「ん?あー…、1隻は、限りなく低いパーセンテージだけど一応は建造報告があるらしいぜ。ただ、もう1隻は…、無理かもな」

艦を艦隊に迎える方法は2つあるとされている。
一つは赤司たちのように、工廠で建造され着任するケース。そしてもう一つは、海域に出撃し、敵を殲滅した直後、何もない海上に突如出現するケースがある。
海域ドロップの場面を、赤司は何度も目にしてきた。まばゆい光の中から現れるその光景は、とても神秘的だった。

「あの海の何処かに、オレたちの仲間が眠っているんですね」
「あぁ…。…でも、ま、無理に探して来いとは言わねぇよ。さっきも言った通り、オレにはお前らがいれば充分だ」
「提督、具申したいことがあります」
「おぉ、何だ?」
「青峰の練度が必要レベルに達し次第、新たに解放された海域への出撃許可を。獲得戦果の上昇が狙える海域と聞きます」
「…よく知ってんな。でも、あそこは今までお前らが出撃してきた海域とは比べ物にならねぇくらい、出現する敵の強さも半端ねぇって話だぜ?行けるのか?」
「攻略してみませます」
「…分かった。そんじゃ、頼りにしてるぜ、赤司」

虹村の激励を受け、赤司は微笑みを浮かべて頷く。
そして早々と退室を申し出た赤司に。虹村は、「ちょっと待て」と彼の動きを制止した。

「何か?」
「…いや、…まぁ、そんな焦るこたぁねーぞ」
「…はい?」
「もうこんな時間だし、今から出撃準備に入るってわけでもねぇだろ?…もうちょっと、ゆっくりしてけよ」

やや言い辛そうに赤司から視線を逸らし、ぶっきらぼうに言い放つ虹村の誘いに、赤司は両目を瞬かせる。
この執務室に訪れ、虹村と艦隊の話を交わすことは幾度もあった。だが、こうして虹村から目的の感じさせない引止めを受けたのは、初めてのことだった。

「ですが提督、執務があるのでは…」
「今日の分は、あとちょっと書類まとめりゃ終わりだ。オレのことは気にすんな」
「…紫原が、必要以上に食糧を貪ってしまうかもしれません」
「緑間がついてんだろ?あと、あいつらもたまにはゆっくり好きなことさせてやれ」
「…青峰に、鎮守府の案内を」
「明日でいい。…あーもう、赤司、命令だ」

虹村や、他の艦の名前を挙げて退室を急ごうとする赤司に焦れ、虹村はとうとう最終手段を用いる。
これはあまり良策とは言えない。だが、生真面目な赤司にはもっとも効果的な手段であり。

「今夜は、オレの晩酌に付き合え。…そこの棚に秘蔵の日本酒があるから、オレがこの書類まとめるまでに準備してくれ」
「命令…ですか。…分かりました、ただちに」
「まァ、提督としての命令じゃなくて、オレ個人の頼みなんだけどな」
「え…?」
「…お前とゆっくり話しながら過ごしてぇ。付き合ってくれるか?赤司」

手元の書類に視線を落としながら、やはり素っ気無い口調で。だがどこか縋るような想いの滲んだ虹村の懇願に。

「…オレで宜しければ。ぜひ、御相伴にあずからせていただきます」

ちらりと見遣った赤司の表情は、虹村の想像していたものとは異なり、いつになく柔らかく感じた。





翌朝、赤司は虹村の許可を得て、昼前に青峰に鎮守府の案内を行い、午後からは青峰を連れ腕鳴らしの哨戒に出ることとなった。

「なぁ、赤司。お前昨日、どこで寝てたんだ?」
長い通路を歩きながら問い掛けられたその質問に、赤司は表情を変えることなく正確な答えを示す。
「お前たちと同じように宿舎で就寝したよ。それがどうした」
「べつに。…メシの後、緑間がお前のこと探してたようだったから。秘書艦ってのは、特別な寝室があんのかなーって思ってよ」
「特別?…そんなものはないよ。秘書艦というものは特殊な肩書きではなく、第一艦隊の旗艦に過ぎない。提督のお気持ち次第で、すぐにでも変更可能なものだ」
「…でもお前、着任してからずっと秘書艦やってたんだろ?…それってさぁ」
「余計な詮索はやめろ。…提督が必要だと感じれば、お前を旗艦に据えることもあるよ。ただ、今は…」
「上官に可愛がられんのウメェな、相変わらず。…ま、べつにオレ、旗艦なんざやりてぇわけじゃねーし。それより、出撃許可出たんだろーな?」

青峰の言葉に何らかの引っ掛かりを覚え、反する赤司の声はやや険しい。
だが青峰は他意もなさそうな態度で、昨日赤司に訴えた嘆願の結果を尋ねる。

工廠で建造確認を行った赤司に、青峰は一番に要請した。
(オレは強ぇから、ちまちまレベルアップする必要はねぇぞ。出撃すんなら、最初から強ぇ敵がいるとこにしろ)
それが、昨日虹村に、開放されたばかりの難解海域へ出撃許可を求めた理由だ。

「…許可は貰った。ただし、昨日の今日での出撃は無理だ。着任したばかりのお前なら、近海哨戒だけでもかなりの戦果をあげることは出来る」
「やっぱ雑魚相手かよ…。めんどくせーなァ」
「ただの腕試しと思え。無傷で生還すれば、近日中にお前の望みは叶うよ」

強力な敵と衝突し、今以上の力を身につけたいと言う気持ちは赤司にも良く分かった。
青峰よりも早く着任し、すでに艦隊の主力メンバーと同等の練度に達している紫原や緑間も、簡単な近海哨戒程度の任務では自分たちの能力を持て余している事実に気付いている。
一刻も早く、より強敵のいる海へ出撃し、戦果を挙げたい。そういった闘争本能は、戦闘のために生産された軍艦には誰しも備わっているものだ。


青峰の登場により、赤司の内面に抑えられていた本能が煽られたのは事実だった。
そして、その逸る気持ちが彼らを戦場へ駆り立て。


自ずと抱えていた慢心が、想定外の損害を艦隊に齎すことを、赤司は初めて知ることとなる。











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