krk-text | ナノ


▼ 防衛手段


※ネクストの試合後の話で、ナッシュ→赤とか、シルバー→黄(青黄っぽいの)とかもちょっとあって、アメリカ勢のキャラはなんかおかしい感じです。





***

去年のウィンターカップ決勝戦の最中に、赤ちんが中一の頃の赤ちんの人格に戻ったことで、ちょっと心配事ができてしまった。

「…ねー、赤ちん、それ何?」
「え?あぁ、これか。実渕さんに持たされてね」
「外してよ、そんなもん」

海外のストバスチームと試合するってんで召集され、インターハイぶりに再会した赤ちんの携帯に嫌なものを見つけたオレは、不機嫌な気持ちを隠すことなく要請する。
すると赤ちんはキョトンとした顔で、なぜだと理由を聞いてくる。
なんでって、分かるだろ?その携帯ストラップのキャラクターってさ、どう見ても、カップルがお揃いでつけるやつじゃん。ハート割れてんじゃん。ひょっとして、気付いてないの?
「実渕サンとお揃いでしょ?」
「いや、彼は別のキャラクターをつけていたけれど」
「でもハートをくっつけるとひとつの絵柄になるやつでしょ?!」
「……たしかに、そんなデザインだったかもしれない。だけど、それが……」
「それはカップルが持つやつなの!赤ちん、実渕サンの彼氏じゃないっしょ?!そんなもんぶら下げて、あの人喜ばせないでよ!」

本気でイラっとして言うと、また赤ちんはぽかんとした顔でオレを見上げる。
でもオレが何でイライラしてるのかは分かってくれたらしい。あっさりと分かったって言って、その場でストラップは外してくれた。

「東京にいる間だけでもつけていて欲しいと言われてね。そんなことなら、と了承したのだけど…」
「…こっちにいる時間なんて短いじゃん。すぐあの人のとこに戻っちゃうくせに」
「紫原?」
「……こっちにいる時くらい、オレのこと優先してよね」

去年のウィンターカップまで、赤ちんがオレに他の男の話をすることなんて一切なかった。
あの頃の赤ちんは、中学卒業時の赤ちんのままで、なんとなく、チームメイトたちとの間に壁を作ってたんだろーなってのは想像ついた。だから、オレは油断していた。
今の赤ちんは、かなりガードが甘い。
再会初日はペアストラップどころか、スポーツバッグに実渕サンと撮ったっていうプリクラが貼られてた。オレがやめてって言うまで、ちょいちょい高校のセンパイたちの話をしてきたし。劇的に仲良くなってる空気にイライラしっぱなしで、全然面白くない。
中学の元チームメイトと話してるときはそんなにイラつかないけど、それでもやっぱ。ミドちんや黒ちんと喋ってるときにぽろぽろこぼれてる無防備な笑顔には、ぎくってする。

そんな簡単に笑わないで欲しい。
前みたく、常にきっつい目つきしてて欲しい。
じゃないと、みんな赤ちんのことを好きになるかもしれないじゃん。
そういうの、やだ。そうなるのは、オレだけでいい。

だからオレにとっては、赤ちんが中一の頃の人格に戻ってしまったのは残念な結果だった。




とは言え、あのきつい人格が完全に消滅したわけではないってことは試合の直前に赤ちん本人から聞かされた。
場合によっては今回の試合中に人格が変わるかもしれないと言う赤ちんは、なんだか思い詰めた様子で。出来ればそうなりたくはないって思ってるのがひしひしと伝わってきたんだけど、オレ的にはそれって願ってもない現象だった。
黒ちんなんかは、どんな人格だろうと赤ちんは赤ちんだ的なことを言って赤ちんを激励してたし、まぁ、それはおおむね同意なんだけど。
どっちかって言うと、そのままきつい赤ちんで固定されてくんないかなーっていう勝手な願いもむなしく。

試合終了直後、コートに立ってたのは一人称「オレ」の赤ちんのほうだった。






その日は全員疲労困憊で休息第一って感じで解散し、翌日、オレたちは都内某所のお好み焼き屋で打ち上げをすることになった。
その席にいた赤ちんは相変わらず穏やかで、愛想よくカントクのグラスにビールを注いでいた。
きつい赤ちんなら絶対あんなことしない。むしろ、カントクに自分のお好み焼き焼かせるくらいのふてぶてしさがあったんだけどなーって思いつつ、誰かが焼いたお好み焼きを適当につまんでいたら、テーブルの一角が急に騒がしくなった。
何かと思ってそっちを見て、ぎょっとした。

「え?なんであいついんの……?」
騒いでいたのは黄瀬ちんで。それはいいんだけど、その隣に座ってたのが、峰ちんじゃなくて峰ちんよりももっと巨大な黒い奴。
具体的に言えば、昨日の敵だ。

「リョータ!次は肉入ってるやつ焼いてくれ!」
「……あの、なんでアンタいるんスか?つーか、オレが焼いたお好み焼き食うな!」
「細けーこと言うなよ。オッサンの了解は得てんぜ?」
「カントク!!何でこいつ呼んだんスかぁ?!」

ちょっと泣きそうになりながらカントクに訊ねる黄瀬ちんに対して、カントクはあーと言い辛そうに目を泳がせながら、「どーしても、帰国前に黄瀬に会いてぇっつーから…。あと、そしたら六本木の飲み代返すっつーから……なぁ?」なんて言う。黄瀬ちんはムキーってなってた。

そんな黄瀬ちんの肩を強引に抱き寄せたシルバーは、ニヤニヤしながら黄瀬ちんの耳元に囁く。
「昨日、ホテルに戻って寝る直前にお前に苦しめられたこと思い出してなぁ、ムカつきながら寝たら、夢の中まで出てきやがったんだよ、リョータ」
「し、知らないっスよ…、勝手に人の夢見んな!」
「夢の中のお前はエロかったぜ…。それから、お前のことが忘れられなくなってよ。なぁ、このままオレと一緒にアメリカ来いよ。可愛がってやるぜぇ?」
「……ジョーダンじゃねっス、オレ、そーゆう趣味ないし…。ほら、お好み焼き焼いてやるから邪魔すん、」
心底ウザそうにシルバーの絡みから逃れようと黄瀬ちんがあがいた瞬間、シルバーの体が反対側に引っ張られた。そうしたのは、さっきまで黄瀬ちんの隣にいたはずの峰ちんだ。
「イッテェな!何しやがるっ!」
「うるせー、テメーさっきからオレのお好み焼きばっか食ってんじゃねーよ!」
「あぁ?!テメーが焼いたモンは食ってねぇぞ?」
「黄瀬が焼いたモンはオレのモンなんだよ。そこ退け。首へし折るぞ」

デカくて黒い奴ら二人がギャーギャー騒いでいる中、黄瀬ちんはげんなりした様子で次のお好み焼きを焼き始めた。そーいや、峰ちんっていつも黄瀬ちんのお好み焼き横取りしてたよね。あと、黄瀬ちんああいうタイプの男に好かれ過ぎ。助けるつもりはないけど、同情だけはしてあげた。

そんな騒ぎよりもオレが気になったのは、離れた席で電話してる赤ちんだ。
周りがうるさくて誰と何を話してんのか全然聞こえないけれど、オレはむちゃくちゃ気になってて。
あとで聞こうと思ったけど、答えは数十分後に店内に現れたべつのアメリカ人によって判明した。

「こんなところで遊んでいたのか、シルバー」
「げ、ナッシュ…っ?!テメー、なんでここが…」
「セイジューローに連絡を貰った。行くぞ、シルバー」
「待てよ、まだ食ってるところ…」
「シルバー」
「…っ、クソ、分かったよ。リョータ、また会おうぜ」

猛獣使いのような険しい眼光で退去を命じられたシルバーは、去り際に堂々と黄瀬ちんの頬にキスをしてまた峰ちんのこめかみに血管を浮かせた。
でも騒ぎの元がいなくなってくれんならどうでもいい。何なら黄瀬ちん持ってってもいいんだけど、って思ってたら、ナッシュがつかつかと赤ちんの元へ歩いてくのが見えて。

「迷惑をかけたな、セイジューロー」
「いや、わざわざ連れ戻しに来て貰えて助かった。彼は、君の言うことはよく聞くようだね」
「あぁ。…そのオレは、お前の言うことなら喜んで聞き入れるけどな」
「え?」
「明日、帰国することになっているんだ。今晩、二人で食事でもしないか?」

まだ峰ちんがシルバーに突っかかってる騒がしい店内で、あの二人の静かな会話内容がオレに聞き取れたのは奇跡かもしれない。
思わず手にした割り箸がピキっと割れた。え、なに。なにあの外人、赤ちん口説いてんの?

っていうか、赤ちん。

「そうだな…。あまり時間は取れないかもしれないけれど、それでも良ければ」

待って、なんで、オッケーしてんの。

「あぁ、セイジューローの都合に合わせる。体が空いたら連絡してくれ」

ほんと、待って。話進めんなよ。

「オーケー。それじゃあ、夜に」

夜に、じゃねぇよ!おかしいでしょ、それ。え?なに?赤ちん、何笑ってんの。
なんでそいつに笑い掛けてんの?意味わかんねーし。超無防備だし。ふざけんなし!


バンって、折れた割り箸をテーブルに叩き付けたせいで、その場がシーンと静まり返った。
みんな、オレを見てる。もちろん、赤ちんも。
その赤ちんにオレはむちゃくちゃイラついて。バッカじゃねぇの?って、言ってやった。




あまりにもむしゃくしゃして、あのままあそこにいたらどーにかなりそうだったから、そうなる前に席を立って店を出た。
追いかけてきた赤ちんに呼び止められ、道の傍でどうしたんだって聞かれた。だから、答えてあげた。

「…赤ちん、明日京都に帰るんでしょ?」
「その予定だけど…、それがどうした?」
「なのに、なんで今日の夜、あいつと会う約束してんの?!おかしいじゃん!っていうか、なんであいつの連絡先知ってんの?!」

すごく子供っぽい怒り方をしてるって自覚はある。でも、大人にはなれなかった。ムキになって赤ちんを責めると、赤ちんはちょっと困った顔をした。

「昨晩、彼の方から連絡があったんだ。カントクを通して連絡先を知ったらしい。それで、帰国前に一度話をしたいと言われて…」
「話すことなんてないじゃん」
「…この眼について、話したいことがあるそうだ。…正直に言うと、オレもナッシュの話には興味がある。自分以外にこの眼を使える人間と会ったのは、彼が初めてだからね」

それは、純粋な好奇心なんだろう。
分かるよ。それ、特殊なやつだしね。同じものを持ってる人がいたら、興味沸くよね。気になるよ。でもさ、そんなのどうでもいい。

オレ、当たり前に今夜は赤ちんと過ごせると思ってた。
こっちに滞在する期間はそんなに長くないって知ってたし、練習中も何度か二人で会ったりはしたけど。でもさ、明日、赤ちんが京都に帰ったら次オレと会うのいつになると思ってんの。
そんな貴重な夜を、なんで簡単にほかの人にくれようとすんの?

「……行かないでよ、赤ちん」

この赤ちんは、無神経過ぎる。
あっちの赤ちんなら、敵とみなした相手にこんなに簡単に心を開いたりしない。たとえ同じ境遇の人相手でも。知ったことはないって、孤高に、切り捨ててくれる。
自分の言うことを聞くオレを優先してくれる。
オレだけの赤ちんで、いてくれる。

でもこの赤ちんは、やわらかすぎる。

「…元の赤ちんに、戻ってよ」
「え?」
「性格悪いほうでいいよ。口悪くったって構わない。オレ、あっちの赤ちんのほうがいい」
「紫原、それは……」
「その呼び方、すげームカつく!」

はっきりと伝えると、赤ちんの両眼がでっかく見開かれた。
でも、しょうがないじゃん、ほんとのことなんだから。今の赤ちんは、赤ちんじゃない。オレの好きな赤ちんじゃ、ないんだから。

「……もういい」

好きじゃない。
どうでもいい。
そう思ったら、もう何もかも嫌になってきて。
帰ろうって思った。だけど、赤ちんの手が伸びてきて止められた。
「……何?」
不機嫌を剥き出しにして訊ねる。赤ちんは俯いていた。その顔を、ゆっくりと上げながら。

「あまり、彼を傷つけないで欲しいな。僕と違って、彼にはやや繊細なところがあるからね」

露になった赤ちんの眼は。
片方が、違う色になっていた。





歩きながら、話をした。
さっきオレが赤ちんに放った暴言により、あっちの赤ちんは相当傷付いたらしい。それこそ、人格を手放してこっちの赤ちんを慌てさせるほどに。

「彼の呼びかけに応じて人格を交代することはあったけれど、こんな風に強制的に表に出されたのは初めてだよ。敦、お前は本当に、僕たちを驚かせてくれる」
「…あっちの赤ちん、どーなってんの?」
「眠っているよ。普段の僕のように。…中学二年のあの時のようにね」
「……ふぅん」

どういう仕組みかは分からないけれど、今の赤ちんは去年のウィンターカップ前の状態に戻っているらしい。表情も、どことなくあんな感じだ。

「…そんじゃ、今夜はどーすんの?」
「彼が目覚めない限り、ナッシュの誘いは断るだろうね。僕はあの男にまったく興味がない。あの男と話すより、敦、お前と共に過ごすことのほうが重要だ」
「……そうでしょ?」
「あぁ。……彼は、警戒心が薄過ぎる。中で聞いていても不安に感じるよ。もっとも、彼が心底身の危険を感じたときはこうして僕が表に出て対応することになるのだろうけど」
「え?…そんな便利なものなの?」
「僕は彼の防衛本能が具現化されたようなものだ。最初に顕れた時もそうだっただろう?敦、お前に与えられた敗北の予感による恐怖は、今もこの身に沁み付いているよ」
そう言って赤ちんは笑った。でもその笑い方は、入れ替わる前の無防備なやつではなく。オレを試すような、底意地の悪い笑い方だ。


「…赤ちんがオレにビビってるわけないじゃん。軽く見てるくせに」
「そうでもないよ。彼は今も、お前の一挙手一投足にひどく敏感だ。お前以上に彼の心を揺さぶる存在はないよ」
「……」
「現にこうして、僕に人格を明け渡している。実は先ほどから呼びかけてはいるけれど、一向に目覚めてくれない。お前と対峙するのを恐れているんだろう」
「…ふぅん。べつに、いーけど」
「いいのか?僕は、お前に彼ほどの愛情を注ぐことはないよ?」
「愛情……ねぇ」
「ナッシュや他の敵対する元チームメイトに比べれば、僕に従順なお前を愛しくは思っているよ。だが、今のお前は僕の駒にはならない。そのことを踏まえれば、必要以上の接触を許すことはないし、少しでも反抗の意を示せば切り捨てる。…それが、僕だ」

それでも、お前は彼ではなく僕を選ぶのか?と、オレの気持ちを見透かしてる赤ちんは視線で問い掛けてくる。
言われてみれば、そうなんだよね。オレが赤ちんに告白して、オッケー貰えたのはウィンターカップの後だ。この赤ちんの時に告白してたら、たぶん、あっさりフラれてたことだろう。

だからって、警戒心の薄い元の赤ちんに戻って欲しいかって聞かれたら、オレは。

「…ねぇ」
「何だ?」
「アンタ、本当に赤ちんのピンチの時に目覚めて赤ちんを助けてくれんの?」
「言ったはずだ。僕は、彼の防衛本能が働いた際に表面に顕れる。…彼が望めば、だけどね」
「望まなかったら?」
「彼が、お前以外の男に抱かれることを良しとするかどうかか。そうだね、ないとは言い切れないかもしれない。彼がお前に愛想を尽かし、他の男に魅力を感じたならば、僕の出る幕はないだろう」
「……あっそ」
「そんな未来を許容出来ないと言うのならば、彼の気持ちを引き止めるしかない。…すべては、お前次第だということだ」

また、オレを試すような視線を送り、赤ちんはゆっくりと瞬きをした。
オレ次第ね。そんなの、分かってるよ。赤ちんがずっとオレを好きでいてくれれば、オレのものでいてくれる。他の男にはさせないことを、オレだけにさせてくれる。

でも、たぶん、そうだな。
オレ、自信がないんだ。

「……どーしたら、赤ちん、オレのこと好きでいてくれる?」
「僕は彼ではないから明確な答えは出せない。だけど、お前が彼に想いを伝え、抱き締めたときの彼の胸の高鳴りはよく覚えているよ。…あれほど多幸感に溢れた感覚は、あの時が初めてだった」
「……」
「ひたむきな愛情を示されて心が揺れるなんて、僕には考えられないことだ。だけど、彼は心の底から欲していたようだね。……お前に愛されることを」
「……ごめん、赤ちん」
「……ああ、分かってる」
「これからもちゃんと、この人のこと守ってあげてね」


唆されてるみたいな気分だった。
だけど、赤ちんの言葉がオレの衝動を掻き立ててきて。どうしようもない気持ちになって、腕が動いてしまう。

オレが引っ張り出したようなものなのに。
無理にまた押さえ込んで、ごめん。
でも、ありがと。教えてくれて。

両腕で抱き締めた赤ちんの身体は、あの時みたく細かった。
ぎゅうって、力任せに抱き締める。赤ちんの骨が折れちゃってもいいってくらいに強く。強く。
オレが一番、赤ちんのこと好きだって、この体にはっきり示す。
どんな赤ちんも、好き。
赤ちんのすることなら、全部、正しいって言う。
赤ちんを信じる。赤ちんを否定しない。赤ちんが、オレのすべて。

だから赤ちんも、オレを好きになって。



「む、らさき、ばら……、く、苦しい…よ、」
「赤ちん…」
ちょっと情けないくぐもった声が聞こえてきて、心底ほっとしながら体を離す。
本当に息苦しかったのか、ちょっと涙目になってる赤ちんがいた。これは、元の赤ちんだ。
「お前は…、少しは加減と言うものを覚えてくれ…」
「ごめん、本気出しちゃった。あと、……今晩は、オレ、ガマンするよ」
「え?」
「赤ちんのしたいようにしていいよ。明日、京都に帰っちゃっても…、そのうち、オレ、会いに行くから」

本当はこんなこと言いたくなかった。
わがまま言いたい。だけど、それは赤ちんを信じてないってことになる。だから、オレは。

「……心配してくれたんじゃないのか?」
「え?」

なのに赤ちんは、オレの覚悟を嘲笑うようなことをする。
なんか、ちょっと拗ねたみたいな顔、して。こんな顔出来たんだ、赤ちん。本当に、赤ちん?

「オレだって、お前に嫌な思いをさせたいわけじゃないんだ。行くな、と言われれば行くわけがないだろう?今夜は、お前と過ごすことにするよ」
「あ、赤ちん……」
「…悪い気はしないものだな。お前に、嫉妬される、というのも」

ちょっと照れたみたいな顔してそう呟いた赤ちんをまた抱き締めたくなったけど、その前に聞きたい事がある。
ひょっとして、赤ちん、今までオレがやきもち妬いてたの、全然気づいてなかったの?

「妬いてた……のか?」
「うそ…。マジ?なんでわかんないの?!」
「いや、はっきりと言葉にされたわけじゃなかったから…。…携帯ストラップのことも、実渕さんに嫉妬して怒っていたのか?」
「赤ちん……」

そこでオレは赤ちんについてまた新たな発見をする。
この人、警戒心が薄いわけじゃない。ただ、人よりかなり鈍感なだけだ。
どうでもいいことは察しがいいのに。この手のことに関しては、あんまりその洞察力が発揮できない人なんだ。

「…それは、仕方がないだろう。……オレは、あまり恋愛経験を積んでいない。分からないこともある」
ってまた可愛い顔して言い訳するし。ほんと、ばかみたいに可愛い。
でもいいよ、分かったから。これからは、ちゃんと言う。して欲しいこと、して欲しくないこと、全部はっきり口にする。
だから赤ちんも、なるべくオレと同じにしてください。

「赤ちん」
「何だ?」
「今日はオレんち泊まって。これから朝まで、一緒にいて」
「……それだけでいいのか?」
「赤ちんは、どうしたい?」
「そうだな。お前に抱かれて、お前の体温を感じていたいな」

したいことをはっきりと言う赤ちんは、これはこれで心臓に悪い。
でもたぶん、赤ちんを脱がして好きにする間に邪魔が入らないのは今のところ世界でオレ一人だけってのは分かるから、気分はとってもいい感じだ。












赤司から夜の誘いの断りの連絡を受けたナッシュは、軽く落胆の息を漏らしながら通話終了ボタンを押した。

「ナッシュ、お前何考えてんだよ?あんなチビ、とっとと浚って一発ブチかませばいいじゃねぇか」
「うるさい。彼にそんな野蛮な真似が通じるはずないだろ」
「ハァ?何でだよ。リョータよりずっとチョロそーじゃねーか」
「…オレが欲しいのは、天帝の眼を持つセイジューローだ。あの眼は、彼の意思が伴わなければ表面化されない。下手にレイプして機嫌損ねちまったら元も子もねぇんだよ」
「天帝の眼だァ?なんでまた……」
「天帝の眼を持つオレと、セイジューローの血が交われば、間違いなく優秀な血統の子供が誕生するだろ?」
「……ナッシュ、お前、わりとアホだよな」

呆れたようなシルバーの物言いに、だがナッシュは気に留める様子もなく携帯の画面に視線を落とした。
その画面には、やわらかい微笑を浮かべる赤司が表示されている。

「…待っていろ、オレのエンジェル。いつか丈夫な子供を産ませてやる」

紳士然とした表情でそう呟くナッシュは、どこまでも本気だった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -