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▼ なんでこんなやつ好きになっちゃったんだろ


※某着うた女王のDarling歌詞パロで、高校卒業後の同棲ネタです。


***



憧れの人の中身なんて、知らない方が幸せなのかも。

「ただいまぁー」
バイトが長引いて、終電ギリギリで帰宅して。
すごく疲れてて、できればこのままがばっと服脱いでどさっと寝込んじゃいたい、ってそんな気分の夜のこと。
玄関のロックを解除してドアを開ければ、中から聞こえた話し声。
嫌な予感がする。それは確実に当たるもの。だって、前例ありまくりなんだもん。

「青峰っちぃ…、まーたテレビつけっぱぁ…」

話し声は、リビングに一個だけ置いてあるテレビのスピーカーから絶え間なく発信されている。割と騒がしいし、テレビと電気の明かりは結構強い。その中ですやすやと眠ってる図体のデカい同居人ってば、もう。

「ほら、こんなとこで寝ないで、寝るならベッド行けって」
「んぁ…、うっせ…」
「うっせーじゃねっスよ。風邪ひいたらどーすんスか」

外から入って来た時は快適な風を感じたけれど、青峰の頭の側に転がってるエアコンのリモコンを拾い上げて顔が引き攣る。いくら連日の熱帯夜だからって、24度設定のまま腹出して寝るなって。
室温を3度上げ、フローリングの上をごろんと寝返り打って丸くなった青峰を見下ろす。
リモコンをテーブルの上に置いて、今度は脱ぎっぱなしの靴下を拾い上げる。
「…靴下脱ぎっぱにすんなって、何度言ったら分かってくれんスかぁ」
しかも裏返しのままだし。こんな見事なぬけがら作ったって、誰も褒めてくれないのに。なんで、全然学習してくれないかなぁ。
同棲始めたとき、洗濯とか掃除の家事は分担でやるって取り決めしたような気がする。でも、やってんのは結局いっつもオレばかり。せめて脱衣所の洗濯カゴに入れてくれるくらいの気遣いを見せて欲しいって思うけど、そんなもの青峰に求めたって無駄だ。
ひっくり返した靴下を脱衣所に運ぶ。そこにはやっぱり洗濯カゴに入りそこなったシャツやパンツが散乱していた。
呆れ返りながらそのまま洗濯出来るように服を拾い、ついでにポケットの中身を確かめる。すると出てくる出てくる。コンビニのレシートとかガムの包み紙とか。

はぁってため息をついて、一通り脱衣所をきれいにして。再び青峰の元に戻るけど、この野郎、全然移動する気配を見せない。

ついにオレはその場に膝をついて、両手で青峰の腕を揺すって起こしに掛かる。
「青峰っち!ほら!いい加減にしないと怒るっスよ!」
「んー…、あとでやる…」
「あとっていつ!つーか、今やるの!ほーら!」
「…っせぇな…。わーったよ…」
強引に腕を引っ張り引き起こす。漸く上体を起こした青峰は、目を瞑ったままだ。のそりのそりと膝歩きで移動を始める青峰を眺めながら、もっかいため息をこぼす。

なんでこの人こんなだらしないんだろうな。
バスケしてる時は、むちゃくちゃカッコイイのに。初めて見かけたときからずっと、それだけは変わってない。のに。

同棲なんて、やめとけばよかったかも。
この人のこんなかっこ悪い姿を毎日見るのは、わりと厳しい。
時々会って、バスケして。メシ食って他愛もない話して、時間制限がきたら「それじゃ、また」って別れる生活のほうがまだときめき感じていられたかもしれない。

言いだしたのは、オレからだった。
別々の高校で過ごした3年間は無駄だったとは思わない。この人がオレをライバルと認めてくれて、向き合った瞬間の高まりは言葉じゃ言い表せないものだった。
だけど、それ以上に。一緒にいたいって、思っちゃったんだっけ。


毎日一緒に過ごしたかった。
時間の制限なんて突破してしまいたかった。
一回離ればなれになったせいで、そんな欲求が沸いてしまった。
それがすべての失敗で。知らなくてもよかったことを、これでもかって見せつけられた今は、ちょっと。


「っ!な、何スか?!」
「…寝んだろ?行こうぜ」
「は?いや、オレは今帰って来たばっかだから…、まだ寝ねっスよ」
「なんでオレだけ寝なきゃなんねーんだよ。いいから来い」
「だ、だって、まだ…」
「明日やれ」

動き出した青峰が方向転換して、オレの腕を引っ張ってくる。さっきとは逆の状況にあたふたしつつ、でもなんでかこの力強い腕を振り払えなくて困る。
なにわがまま言ってんだ。オレ、着替えどころかシャワーもまだだし、色々とやんなきゃいけないことがあるんですけど。
このままがばっと服脱いでどさっとベッドにダイブするなんて、オレにはやっぱり出来ない。
一緒には眠れない。そう言おうとした。でも、青峰はすでに眠くて、ずるくて。

「何のためにオレがここで待ってたと思ってんだよ」

テレビはつけっぱなし、靴下は脱ぎっぱなし。
ベッドにも行かずにここで転寝していた青峰は、オレと同じかそれ以上に疲れているんだと思う。すごく眠たいんだ。だから、こんなこと。

「…もぉ」

すんなりと言うことを聞かされてしまう。自分がちょっと嫌になる。
たった3年間離れ離れの生活を送ったせいで、オレは大事なものを失った気がする。
知らなくていいことを知ってしまった。憧れの人が、かなりだらしない男だったってこと。それから。

「…なんでアンタなんか、好きになっちゃったんスかね」

現実は理想どおりにはいかない。
腹は立つし、文句ばっかり出てしまう、こんな同棲生活が。

時々、めちゃくちゃ幸せに感じてしまうようになったのは、オレにとっては大きな損失だ。











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