krk-text | ナノ


▼ 4




「黄瀬に、ホレた」
「え?あ、あぁ、そうですか……?」
「そんで、フラれた」
「??スピーディーですね……?」

昨晩、黄瀬を部屋に入れた時点であいつに何もせずに帰らせるなんてことは夢にも思っちゃいなかった。
身辺整理を果たし身軽になった黄瀬をベッドに連れ込み朝まで。無駄に過ごした年月の遅れを取り戻す勢いで、一気に叩き込むつもりでいた。
それが、結果は、こんなもんだ。

セフレなんかでオレが納得するわけがない。
嫌だと言えば、黄瀬はあっさりした態度で「じゃあ今日は帰るね」と、本当に帰ってしまった。
一人残された室内で呆然と過ごし、気がついたら朝になり。この最悪な話を誰かに打ち明けたくなって、衝動的に高校時代の友人であり、黄瀬の中学来の同級生でもある黒子に電話して、こう言った。

いまだかつて、黒子にこんな話をしたことはない。
黄瀬が自分の性癖をカミングアウトしたのはオレだけだと申告してきたことから、秘密にしなければならないような気がしていた。だからその辺りのことはぼかし、オレが一方的に黄瀬に入れ上げて拒絶された事実だけを、喋り尽くした。

「高校を卒業してからもやたらと仲がいいと思ってたら、そういうことだったんですね…」
「……べつに、その頃から下心あって付き合ってたわけじゃねぇよ。あの頃はまだ、気の合うダチとしか思えなかった。それが、先週になって急に」
「好きになっちゃったんですか?」
「……そうだよ。急に好きになった。そんでコクって、……フラれたんだ。友達のままでいてくれって、言われた」

それは、正しい出来事だ。
誰も知らない黄瀬の秘密を知っている、という優越感は昔からあったものの、黄瀬が不倫に走るまではこんな風になるとは考えもしなかった。そして、フラれることも。

「なぁ、黒子…。教えてくれよ、あいつ、どんな男がタイプなんだよ」
「えっと…、すいません、僕、黄瀬くんの好みは女の子であることしか知らなくて。中学の頃に付き合ってた子は、積極的で華やかな女の子ばかりでしたけど……」
「…だよな。悪い、変なこと聞いて」
「恋愛対象になるかどうかは分かりませんけど、火神くんのことはずっと気に入ってたと思いますよ?僕ら、中学の仲間以上に気を許している雰囲気は感じましたし、火神くんと一緒にいる時の黄瀬くんは随分と自然体のように思えました」
「……サンキュ。慰めって分かってても、嬉しいぜ。今度メシでもオゴってやる。そんじゃ、」
「あの、火神くん」

黒子にこの話をしたところで、返される言葉は大体分かっていた。
それでも、聞いて貰ったことで若干の気休めにはなり、少しだけ浮上できた気がした。
そんなオレに、黒子は言った。

「中学の頃、意外だなって思ったことがあるんです。黄瀬くんって、すごくコミュニケーション能力が高い人じゃないですか。女友達もたくさんいました。だけど告白してきた女の子とは、その場で断ったとしても、付き合うことになって別れたにしても、その後は一切関わらないようにしていたんです。一度だけ、黄瀬くんの元カノさんが桃井さんを通して黄瀬くんに、「友達としてやりなおせないか」と伝えてきたことがあったんです。その時、黄瀬くんはっきりとこう答えてました」

それだけは、絶対に無理。
ずるずると関係を続けてたって、仕方がない。
また付き合うかもしれないって期待しながら側にいられるのはこっちとしてもプレッシャーだし、相手の時間ももったいない。きっぱりと関係を絶って、早くべつの人を見つけるように言っといてよ。

「それ聞いた時、さすが黄瀬くんだなって思いました。ちょっと僻んでしまうくらい、自信持ってるんだなって。実際、黄瀬くんが何もしなくても女の子は次々と黄瀬くんを好きになりますからね。ひとりの女の子に固執する理由はなかったんです」
「…おう、ムカつく奴だな」
「でも、その元カノさんが高校卒業後に別の男の人と結婚したと聞いたときはすごく嬉しそうでした。まるで自分の事のように喜んでる黄瀬くん見てたら、あの言葉は自惚れでも何でもなく、本心だったんだなって思えました」
「……別れた相手が幸せになるのを願って、一切関わらないようにしてた、ってか」

随分と余裕なことだ。
自分は、変な男に引っ掛かってばかりで一向に幸せとは縁遠い生活を送ってたってのに。

「でも、黄瀬くんは火神くんの幸せを願ってはくれないんですね」



黒子の静かな指摘が、オレの胸中にパンと風穴を開けた。

「は……?何だよ、それ……」
「そうでしょう?火神くんは黄瀬くんを好きになり、告白をした。男女の差はあるかもしれませんが、それって中学時代に黄瀬くんと付き合った女の子と同じじゃないですか。でも、黄瀬くんは火神くんの気持ちを受け入れずに、友達関係を続けようって言ったんですよね?」
「そ、そりゃ…、だって、あいつは、」
「他の女の子たちにはなかった執着が、火神くんにはあったんですかね?だとしたら…、期待してもいいと言われたも同然じゃないでしょうか?」




男女の差なんてものが黄瀬にはないってことを、オレは知っていた。
黄瀬の男遍歴は詳しく知っている。モデル時代の知り合いだったり、その頃の関係者を通して知り合った奴だったり、大学の同窓生や、ゲイバーで引っ掛けたっていう男もいた。
交友範囲は幅広く、出会って、惚れこんで、長くても半年で別れるを何度も繰り返す中で。
たしかに、黄瀬は一度付き合った男と再びやり直すことはなかったし、名前を出すことも、連絡を取り続ける素振りさえなかった。

失恋した時は泣きながら相手のことをボロクソに罵る。さんざん悪態をついたのち、「もう恋なんてしない」とへたれる黄瀬に、「また次がある」とオレが気休めを口にする。それで、黄瀬の恋は決着がついていた。

そしてオレの「次がある」に励まされて次を見つけた黄瀬は。


「……もう、次もクソもねぇんだよな」


最後の相手に、出会ってしまった。
だから、黄瀬はオレに友達でいようと言ったのではないだろうか。

だけどオレは黒子に、その絶望的な状況を伝えることが出来なかった。





それから一週間がたち、二週間がたち、ひと月が経過したが、黄瀬から連絡が来ることはなかった。
オレからもそうすることは出来なくて。黄瀬が、相手の男とうまく行ってる証拠だと、突きつけられているような気がした。

黄瀬から「週末、会えないか?」とメールをもらったのは、二ヵ月後のことだ。
指定してきた場所はオレの自宅ではなく、いつもの居酒屋だった。




二ヵ月ぶりの再会を果たした黄瀬は、最後に会ったときとまったく変わらない。
最後に会ったときどころか、オレが告白する前と同じ態度で、早々に彼氏の愚痴と惚気を喋り始めた。

「毎日帰りが遅いから、いっつも夜中に起こされるんスよねー。寝てていいって言われるけど、そういうわけにもいかないじゃん?まぁ、エッチの頻度はそんなじゃないから寝不足になるってほどでもないけど」
「お前、欲求不満になるんじゃねーの?」
「んー、それが、意外と平気…。オレも、着実に年食ってんスよね。そんなにしたいって気分にならないし、一緒に寝てればそれで結構満足しちゃってる。……火神っちは、どぉ?」
「……知ってんだろ」
「あー…、うん。ごめん。……オレで良けりゃ、今晩相手しても、」
「いらねぇよ。……セフレはごめんだっつっただろ」

オレの告白はなかったことにはなっていないらしい。
黄瀬はあの夜のことをきちんと覚えているし、一週間後の告白も。分かっていながらこんな誘いをかけてくる黄瀬の無神経さに腹が立つ。

「……それ、なんスけど。……あのさ、火神っち。もし良かったら、その、……他の人とか、試してみない?」
「……は?」

そしてさらに、黄瀬はとんでもないことを言い出す。

「いや、ずっと気になってたんスよ!なんか、…オレとしたせいで、火神っちも変な性癖に目覚めちゃったんじゃないかなって。罪悪感がすごくって、だから、責任取りたいなー……なんて」
「何だよ、責任って……」
「いい子、紹介したげよっか?って。いるんスよ、火神っちみたいな人がタイプって子。前によく行ってたバーの常連で、オレらより年下の小柄な子。でも結構積極的で、あっさりした性格してるから、エッチしてみてダメでも引きずったりはないかなーって…」
「冗談じゃねーよ。オレは、お前だから抱いたんだ」

見当違いなことを喋り倒す黄瀬にイラつきながら、開き直って堂々と言う。
すると黄瀬は、萎縮したように顔を引き攣らせた。

「そんならやっぱ、もっかいオレと……」
「…責任とか、感じる必要もねぇっての。お前から持ちかけたわけでもねぇし、…むしろお前は、嫌々ながらホテルに連れてかれたんだ」
「で、でもさぁ、オレがもっとはっきり断って、あとあんなに馴れてなけりゃ、火神っちはアナルセックスの良さなんて知らずにいられたじゃないっスか。それを思うとオレは……」
「だったら一生その罪悪感引きずって、オレを気に掛けながら生きてろ。その方がオレは何倍も……」


たとえマイナスの感情だとしても、すっぱりと忘れられて関係を絶たれるよりずっといい。
そうして黄瀬の意識にしがみつけると言うのなら。罪悪感だろうがプレッシャーだろうが、押し付けてやる。

「…何でそんな頑固なんスかぁ。いいじゃん、若い子のほうが」
「いらねぇっつってんだろ。…そいつと寝たら、お前、絶対オレに連絡寄越さなくなりそーだし」
「えー、そんなことないっスよ!火神っちとはずっと友達でいたいって言ったじゃん!火神っちこそ、オレよりもいい子知っちゃったらオレなんか視野にも入れなくなっちゃうんじゃないっスかぁ?」
「あぁ?んなわけねーだろ」
「わっかんないっスよー?火神っち、オレしか男知らないんだからどーなるか。……やっぱ素質あったんスよねぇ」
「だから、そりゃお前が相手だったから…っ、…クソ、やっぱお前、責任取れ!」
「取るってば。いつ空いてる?何なら今から呼び出しても……」
「違ぇよ!あいつと別れてオレと付き合えっつってんだ!」
「……火神っちぃ…」

それだけは無理な責任の取り方だと、黄瀬の顔は言っていた。
分かっている。無茶を言っている。それでも、黄瀬がオレに対する罪悪感を捨てたいと言うのならばそれしか手段はない。

「あーもぉ、オレ、なんでアンタなんかと寝ちゃったんだろ……。オレ史上、最強にめんどくさい男っスわ、アンタ」
「そーかよ。だったらほっとけ」
「ほっとけないから困ってんの。その点も含めてほんっとめんどい。あ、ねぇ、そんじゃ3Pは?オレも参加すれば、その子とエッチ出来んじゃね?」
「しねぇっつってんだろ。いいから、そのことは忘れて酒飲め!」

やけに食らい付く黄瀬を黙らせる目的で、次々と黄瀬のグラスにビールを注ぐ。
負けじと黄瀬もオレに酒を煽ってくる。今夜は、かなり、酔いそうだ。
お互いに譲ることを知らなくて、どうしようもない。黄瀬といると、いつまでも学生気分が抜けないままで、無茶な飲み方をしては後になって後悔をする。
競い合うように飲んで、酔っ払って、だんだん何を喋ってんのか分かんなくなってって。



気が付いたらオレたちは、またラブホにいた。





「すっげぇ酔っ払ってるけど、勃たせられる?」
「んー、頑張りますー。つうか、マジいい男っスね。火神サン……だっけ?」
「そー、見ての通り超いい男ー。オレのマブダチだから、気持ち良くしてあげてね」
「りょーかいっス。そんじゃ、いただきま、……あ」

黄瀬の声と、もうひとつ。知らない男の会話によって意識が覚醒したオレは、開いた視界にとんでもない光景を入れることになる。

「……?!?!?!だ、誰だッ?!」
「あー、起きちゃった…。黄瀬サーン、火神サン起きましたよー」
「黄瀬?!あいつ、どこに…っ」

知らない小柄な男が、オレの足の間に身を収めていて、オレは服を着ていなかった。
この事態に動転し、知ってる名前を聞かされたことで慌ててそいつの姿を探す。すると。

「おっはよー、火神っちぃ!さー、エッチしよー!」
「な…っ、何言ってんだ!お前、こいつ、何時の間に…っ?!」

上体を起こしたオレの背中にぺたりと貼り付き、陽気な様子で開始宣言を行う黄瀬にオレは困惑した。その間にオレの足の間にいた男がオレのチンコに指を絡める。
「う…っ、おい、やめろ…っ!」
「黄瀬サン、火神サン嫌がってんスけど……」
「でもちゃんとオッケー貰ったっスよぉ?火神っち、忘れちゃった?」
「言ってねぇよ!離せ!……ッ!!」

酔いが回って力の入らない体が憎たらしかった。
その隙に黄瀬がオレの首筋に吸いついてきて、意識を捕らわれた途端にチンコの先端に男の唇が押し付けられた。
制止の声を上げる間もなく、先っぽを含まれ、指で竿を擦られ、信じられない気分で股間にある男の頭を凝視する。
誰かに似ている癖のない金髪が揺れるその光景が、オレの下半身を熱くさせた。

「…っ、き、黄瀬…ッ、や、めさせろ、よ…っ」
「……大丈夫っスよ、火神っち、感度いーじゃん」
「ふ、ざけんな…ッ!…くっ、」
「……オレだけって言ったくせにー。この、浮気モノー」

へらへらした声でムカつくことを言いながら、尚も黄瀬はオレの首筋を舐めてくる。両腕はしっかりとオレの腹を固定し、やめさせる素振りも見せない。
このままではヤバイことになる。そう思い、オレは決死の思いで右足に力を入れ、見知らぬ男の腰あたりに弱弱しい蹴りを入れた。

「…黄瀬サン、やっぱ火神サン、オレじゃ嫌そう……」
「えー、…もぉ、しょーがないっスねぇ、火神っちは…。そんじゃ、バトンタッチ。場所変わって」
「だったらオレ、黄瀬サンのしてもいいっスか?つうか、入れさせてくれんスよね?」
「え?…まぁ、べつにいいけど。……キミ、バリネコなんじゃなかったの?入れられんの?」
「ずっと黄瀬サンに入れてぇなって思ってましたー。でも、黄瀬サンって一回ヤった男とは二度としないって噂あったし、切られんのヤだからガマンしてたんスよ。呼んで貰えて超ラッキーっス!」

やいのやいの言いながら、黄瀬と男が場所を入れ替わる。黄瀬の顔が見えたことで、オレは少し冷静さを取り戻した。だが。

「……オイ、黄瀬。何だよ今の話」
「え?」
さっきまで別の男が咥えていたオレのチンコを指で包みこんだ黄瀬は、キョトンとしたマヌケヅラをオレに晒し、首を傾げた。
なに、じゃねーよ。オレの前で、何つー約束してんだよ。
「堂々と、オレの前で他の男にヤらせる宣言してんじゃねぇよ…っ!何様だ、クソ…ッ」
「……いや、オレ、アンタのもんでもないし。それ言うなら、火神っちのチンコこーするのも、おかしな話なんスよ?」
「…っ、く、そ、…触るなっ!」
「ん、…ふぁっ」

勢いをつけて擦り始めた黄瀬が、突然色っぽい声を上げてオレは息を飲む。
何事かと視線を遠くにやれば。黄瀬の背後に回ったあの男が、黄瀬の下半身に何かをしていた。
頭に血が上り、解放されていた腕を黄瀬に伸ばす。その髪を掴んでぐっと引き寄せると、痛みと驚きを含ませた声を上げながらオレを睨んできた。

「イッテーな!何すんスかぁ…っ」
「……頼むから、他の男に、…許すなよ」
「え……?」

情けない声を出している。自覚していても、気を張ることが出来ない。
「オレは、お前にホレてんだ。…お前がどう思っていようが、好きな男が他の男に触られてんの見て、普通でいられるわけねぇだろ……」
「火神っち…、……うぅ、わ、分かったっスよ…」

黄瀬の体を抱き締めながら、懇願を口にする。
オレの願いは聞き入れられ、黄瀬は、後ろの男に「やっぱ今日はオレに入れんのはなし」と宣告した。
男は不満そうに唇を尖らせながらも、「今日は、ってことは、そのうちヤらしてくれんスよね?」と図々しいことを黄瀬に問う。それに答えることはせず、腕の拘束からやんわりと抜け出してオレから離れた。

「黄瀬サン?」
「……火神っちの、やってあげてよ。もう充分堅くなってるから、入るっしょ」
「え?…うお、マジだ。つうか、火神サンの、ご立派っスね……」
「……それ、すんごい、イイよ。カタチもいいし、奥まで届くし。…締め付ければもっとデカくなるから、いっぱいピストンしてやんな?」
「お、おい、黄瀬…っ?!」

男の肩をぽん、と叩いた黄瀬が、ベッドの端に移動する。
入れ替わりにオレの足の間に戻ってきた男が、いやに嬉しそうなツラをして乗りあがってくる。
ちょっと、待てよ。マジで、ヤるのかよ。
何だよ、黄瀬。お前、マジでこいつに入れさせるのかよ。
背中向けてんじゃねーよ。こっち向けよ。おい、黄瀬。俯くなよ。黄瀬。黄瀬!

ぴとりと、先端に濡れた感触を押し当てられる。
狭過ぎる穴を強引に抉じ開けたふた月前の感覚が蘇る。
だが、違う。これは、違う。
視界にある黄瀬の背中は、手を伸ばせば触れられるところにあったはずだ。

オレは黄瀬の肌の感触を知っている。
どっから出すのか分からない、甲高くて甘ったるい喘ぎ声も。香水と汗が入り混じった無駄にエロいその体臭も。おかしくなるほどうねりまくり、吸い取るような動きをするその奥深い部分も。
知ってしまった今は、もう。

お前以外、欲しくねぇのに。



「ん…っ、ぁ、…あれ?……黄瀬サン、ちょっと、」
「え?」
「……緊急事態っス。火神サン、萎えました」
「……はぁ?!」

そっぽを向いていた黄瀬が、男の声により驚いて振り向いた。
その顔を、めいっぱい睨みつけてやる。
「か、火神っち……、アンタ……」
どーだ、見たかよ。
オレを、今までお前の思うがままに扱ってきた男たちと同じと思うなよ。
「…ちょっとどいて。もっかい勃たせるから」
「黄瀬サン、オレ、もう帰りますよ…?」
「ダメ!!ちゃんとやれよ、キミ、うまいんだろ?……火神っちのこと、気持ち良くしたげてよ」
「でも、オレじゃ無理みたいっスよ…?」
「無理じゃない!……出来るよ。やってよ。…オレよりも、いいこと、いっぱいしてあげてくれよ……」

男をオレの上からどかして、震える声を絞りだしながら再び黄瀬がオレのチンコに手を伸ばしてくる。
オレの手の届く範囲にまんまと飛びこんできた黄瀬の手を、逃がすほどオレは鈍間な男じゃない。すかさず、捕らえた。

「…っ!!」
「……もう分かっただろ。いい加減、認めやがれ」
「ちょ、火神っち、離し…」
「離さねぇ。……離して欲しくも、ねぇんだろ?」
「な、に……言って、」
「めそめそ泣いてんじゃねーよ、この、ボンクラ」



指摘した途端、黄瀬の潤んだ両眼からぽろぽろと大粒の涙が溢れだした。
思ったとおりだ。こいつ、本当はオレが他の男に入れることを、心の底では望んでいなかった。
泣くほど、嫌だった。見てられなくて背を向けた。肩が、軽く震えてたぜ?それを認識した途端、オレの下半身は一気に萎んだんだよ。

「…スイマセン、やっぱオレ、帰りますね」
「え?!あ、ま、まって…、まだ終わってな、」
「……いや、オレ無理っスわ。テクには自信あったけど、さすがに……。黄瀬サンの男寝取れるほど、メンタル丈夫じゃないんで」

へらりと笑いながら、さっさと服を着込んで男は部屋を出て行った。
黄瀬は今にも奴を追いかけそうな顔をしていたが、それはオレがさせない。がっしりと体を固定し、「バカ、離せよ!」などと喚く黄瀬を繋ぎ止めることに成功した。

男がいなくなってからもしばらく黄瀬はオレに対する悪態を撒き散らしていたが、無言でそれを受け止めているうちにだんだんと威勢をなくしていき。
ついには脱力してオレに寄り掛かってきた黄瀬は、めちゃくちゃ小さい声でぽつりと呟いた。


「……もうヤダ。ほんと、ヤダ。…オレ、やっと、落ち着ける場所を見つけられたのに」


もう二度と、男関係で自分が泣くことはないと考えていたのだろう。
だがそれは甘い考えだ。それがお前の望みだったなら、そうだな、お前、失敗したんだ。
他の女や男たちと同じように、オレをフった時点で関わりを絶つべきだった。
他の女や男たちにしたように、オレの次の相手との幸せを願って離れるべきだった。

なのにお前は、オレに限って失敗した。
このオレを、友達としてキープしとこうなんて甘い考えを持ってしまった。
お前の歴史上、もっともタチが悪く、諦めの悪い男に、期待を持たせた罰がこれだ。


忘れてただろ、お前、本当に。自分が、人類稀に見るレベルに男運の悪い男だったってことをな。












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