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▼ 奪取の根拠、プラス1



赤司は二人いるの双子設定。俺赤司→兄、僕赤司→弟で、弟ちゃんはお兄ちゃん大好き。灰崎くんもお兄ちゃんが好きでグイグイいくけどこのお兄ちゃんは灰崎くんに対してはやたらツンです。


***





どう考えても異常な量のトレーニングメニューを言い渡され、唖然としながら赤司に確認した。
「オイ、赤司、オレそんな遅刻してねぇだろ…?」
「うるさい。口を動かすよりも体を動かせ。時間内に終了しなければ明日の早朝に引きついで行う」
「マジかよ。…つーか…、これ、私怨入ってんだろ?」

この指摘は藪蛇かと思いつつも赤司の表情を窺うと、不機嫌そのものといったツラした赤司はオレを睨み、堂々と言った。

「オレを怒らせるようなことをしたという自覚があるのか?」
「まぁ、あるっつったら…、アレだろ?」
「言ってみろ」
「…弟と間違えたこと」

さすがにこれは開き直って言うべき内容ではないため、声のトーンを落として答える。
すると赤司は眉間に皺を寄せ、ふいっとオレから視線を逸らした。当たりだ。


周囲の温度を人工的に引き下げてんじゃねーかってくらいに不穏なオーラを纏っている目の前の同級生は、ここ最近オレが熱心に口説いている同じ部活の副主将だ。
成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能の超人類であるこの男には、見た目をそのまんまコピーしたような双子の弟がいる。
双子っつーか、最早ドッペルゲンガーの領域に突っ込んでいる双子の兄弟を見間違える人間は数多く、たしか以前に赤司自身も日常茶飯事なのでもういちいち訂正すんのも諦めた的なことを言っていた。
だってのに。

「大体、ありゃお前の弟も悪ィだろ。明らかにお前のフリして喋ってたぜ?」
「ああ、そう聞いたよ。そして指摘された」
「何を?」
「オレが通りかかるまで人違いに気付かなかったお前の薄情さをだ。…その体たらくでよくもオレに浮ついたことを言えるな。お前にはとことん幻滅したよ」
「いや、だってよー…。…ん?オイ、お前…」
「…何だ」
「…ひょっとして、弟に妬いてねぇ?」
「灰崎、気持ちを静めてよく聞け」
「あァ?何だよ?」
「死ね」

オレの体感温度をさらに2、3度下げる声と視線をぶん投げてきた赤司は、最近若干可愛げが出てきたように思えた。




デフォルト無表情の赤司をからかうのは、実に楽しい。
最初は本当に嫌がらせでちょっかいかけていたのだが、徐々に赤司がこぼす僅かな反応にハマって行き、今じゃわりとドップリだ。
それでいて赤司は馬鹿ではない。オレが何を目的として構ってくるのか理解しているらしく、近付けば近付くほど鉄壁のバリアを張って身構える。
その絶滅危惧種のヤマネコじみた赤司のリアクションが、オレの。


「あまり人の兄で遊ばないで貰いたいのだけど」
「うおっ?!…何だよ、テメーか」

鬼メニューのインターバル中、監督に呼び出された赤司が姿を消した数分後。しゃがみこんで水分補給を行ってるオレの真横に現れたのは、渦中の偽赤司。つまり、双子の弟の方だった。
「べつに、遊んでねぇよ。マジメに特訓してんじゃねーか」
「その割には随分と腑抜けた顔をしているね。まるで兄さんを独占していることに優越感を感じているかのような表情だ」
「…いいだろ?」
「兄さんは迷惑がっている。いい加減にしてくれないか?」
「…お前は素直だよな。アニキと違って」
「どういう意味だ?」
「妬いてんだろ」
「そうだね。今すぐにお前の首を絞めて天井から吊るし、嬲り殺したい気分だよ」
「やめとけやめとけ。アニキが哀しむぜ?」
「僕の経歴に傷がつくことをね。赤司の家から犯罪者を輩出するわけにはいかない。この国が私刑を禁じた法治国家で良かったね、祥吾」
平坦な声でそう呟いた後、膝を折ってオレの横に腰を下ろした赤司の弟はにこりと微笑む。まァ、何つーか、カワイイ面して物騒なことを言う弟だ。

おまけにこの弟は自他共に認めるブラコンだ。
四六時中ベッタリ、というわけではないが、大体アニキの側に陣取っているし、登下校は必ず同じ顔が並んでる。現状終わりそうにない赤司の特別メニューは明日に持ち越すだろうが、当然のようにこの弟はアニキと共に早朝練習に現れるだろう。いらねぇのに。

「本当に迷惑な話だよ。お前如きに僕らの貴重な時間が費やされるなんて」
「お前はべつに来なくていーだろ。別行動しろよ」
「僕の監視がないところで、兄さんに何をするつもりだ?」
「さぁ、何だろうな?テメーの見たことねぇ赤司のツラ見てやるわ。今度こそ咥えさせてやっかなァ?お前じゃなくて、あいつに」
「…下種が」

瞬時に笑みを消した弟は、先ほどのアニキ以上に凍てついた視線でオレを睨みつける。
ブラコンの弟は元からアニキに馴れ馴れしく近付く人間には容赦なく冷たい態度を取ってきたが、オレはどうやら格別警戒されているらしい。
っていうのは先日、オレがこいつをアニキと間違えた時からだ。

あの時オレは部室で着替えていたこの弟を捕まえて、いい加減ヤらせろよ、とストレートに口説いた。
人違いされているのは分かっていたのだろうが、こいつは敢えてその指摘をせずに口端を上げ、余裕めいた表情で返した。

(お前にオレを満足させられるとは思えないな)
(あ?んだよ、お前ケーケンねぇだろ)
(そんなことを言った覚えはない。…お前の知識と記憶だけが、オレのすべてだと思うな)
(オイオイ、何だよ。今日は随分挑発的じゃねーか)
(いつまでもお前の暴挙に目を瞑るわけにはいかないからな。この辺で線を引かせて貰う。灰崎、二度とオレに触れるな)
(…あー、オレ、そういうこと言われると燃えんだわ)

こんなことを言えば即断する。だからオレはそれ以上先に進むことなく健全な位置をキープしてきたのだが、その時の赤司にはどことなく踏み込む余地があるような気がした。
いつもと違う反応が逆にオレの気を引いて、いつもと違う行動に出てみたくなったオレは赤司の腕を力尽くで拘束し、ロッカーに押し付けて圧迫した。
無抵抗の赤司はそれでも余裕の表情を崩すことなくオレを見据え、言う。
(後悔することになるぞ?)
(お前抱けんならどーでもいい。オラ、赤司。テメーの経験値見せてみろよ)
体重を掛けて肩を押し下げ、赤司の頭をオレの股間に近寄せる。その時だった。部室のドアが勢い良く開かれ、蒼白なツラした本物の赤司が制止の声を上げたのは。


オレが人違いをしたことで赤司があんだけ怒ってんのは、シチュエーションがシチュエーションだったからだ。おそらく、あんな会話をしていなければ赤司はいつも通り澄ましたツラで弟と間違われるのは馴れている、と締めくくっていただろう。

しょっちゅう絡んでくるオレが、自分と弟を間違えて。あろうことか、その弟に迫っていた。
そんな場面を目撃すれば、赤司だってマジギレする。
弟は正真正銘のブラコンだが、アニキだってそれなりのもんだ。大事な弟に手を出そうとしたオレに、赤司は相当ムカついたことだろう。


「…で、お前。そういうの分かってたんだろ?」
「何のことだ?」
「アニキが何に対してキレるか。お前、身を張って試そうとしただろ、あん時」
「試す?僕が兄さんにそんな真似をするわけがないだろう。僕は、本気だったよ」
「…は?」
「あの場でお前に体を開いてもいいと思った。それを兄さんに目撃されることで、兄さんがお前を完全に軽蔑し、見放すことを想定した上でね」
「……」
「邪魔が入って残念だったよ。もっとも、お前の粗末な物を見せられたら僕も平静を保てたかどうかは未知数だけどね。引きちぎっていたかもしれない」
しれっとした態度でえげつないことを言う。冗談のようだが、こいつが言うと何だか洒落にならない気がしてぞっとした。

「…後悔するって、そういう意味かよ」
「あぁ。今度は兄さんを拘束した上で事に及ぼうか、祥吾」
「…ふざけんじゃねーよ。お前なんか相手にしてられっか。タイプじゃねぇんだよ」
「へぇ?見分けられなかったお前が、よく言うね」
「次はねぇよ」
「どうだか」

フン、と鼻で笑うこいつの余裕にムカついて、思わず手が出そうになる。
だが思い留まって正解だった。本物の赤司が戻ってきたからだ。

「灰崎、何をしている」
「…見りゃわかんだろ。お前の弟に絡まれてんだよ。何とかしろよこいつ。マジウゼェ」
「これ以上練習量を増やされたくなければさっさとトレーニングを再開しろ。征十郎、悪いな。今日は遅くなりそうだ」
「構わないよ。兄さんが悪いわけじゃない。僕も引き続き自主練を行うから、終わったら声を掛けてくれ」
オレの横で優等生ぶった笑みを浮かべ、腰を上げた弟は、兄が目を逸らした隙にこっちを見下ろし。氷のような眼差しでひそめた牽制を解き放つ。

「次はない、とはこちらの台詞だ。これ以上お前に兄さんの心を奪わせたりはしない。先日僕に放ったような発言も、兄さんには絶対に…言わせないようにしてやる」

完全にアニキよりも研磨された殺意に晒され、何も言い返せなくなった。
だがその殺意がオレに重要な自覚を促したのは、ブラコンの弟にとっては致命的だったかもしれない。



「なぁ、赤司」
「何だ?」
「お前やっぱ、あん時オレが弟と間違えたのにキレただろ」
「…誰だって身内を襲撃されれば憤りを覚えるだろう。お前だったから、というわけではないよ」
「そーかァ?…ま、いーや。一個だけ覚えとけ。あん時オレがお前の弟に迫ったのはアレがお前だと思ったからだ。あんな風にお前のマネされなけりゃ、あいつには指一本触んなかった。同じ顔でもな」

無表情を保っている赤司の横顔が、ほんの僅かに揺れた気がした。
錯覚かもしれない。それでも手ごたえを感じ、続ける。

「あとお前と弟の見分け方分かったわ。二度と間違わねぇから、ヤらしてくんね?」
「…説得力のない話だな。どうやってオレと征十郎を識別するつもりだ?」
「いや、それバラすとお前ら対策してきそーだから教えねーよ。何しろ優秀だもんな、お前ら兄弟。生まれたときから一緒なだけあって互いの特徴よく掴んでるよ。んでも、まぁ、オレには無効だぜ?」
「そうか、それは面白い。ただし、…調子にのるなよ。オレはお前の遊びに付き合う気はない」
「ヤらしてくんねぇの?」
「当たり前だ。誰に物を言ってる」
「オマエだよ、赤司。オレが欲しいのは」

睨む目つきに優しさなんてものはない。だが、弟のような殺意もない。
こいつの睨みなんてこんなものだ。この目を見れば、双子の違いなど明白だ。
それから。

「一回オレの言うこと聞いてみろよ。そしたら二度とこういうこと言わねぇから」
「…オレがそんな手に引っ掛かると思うなら、はっきり言おう。お前は馬鹿だ」
「たった一回でいいんだぜ?」
「絶対に嫌だ」

どんな条件を与えても絶対に鉄壁のガードを崩さず跳ね除ける、この潔癖で強情なのが、オレが気に入ってるほうの赤司であり。
このガードをガリガリと削って無防備になった赤司を引き摺り出してオレのモンにするのが、今のオレの楽しみだ。

それプラス、オレにアニキを奪われたあのブラコン野郎がその時どんなツラをするのか。
そんな楽しいことを考えれば、赤司を口説き落とす価値は多大にある。









この後の予定
二年生になってきーちゃん確保した兄赤司くん、きーちゃんべた褒めで面白くない灰崎くん。それでちょっと二人の仲がアレな感じな時に弟赤司くんがお兄ちゃん装って灰崎くんに退部勧告。
これが弟だってことは分かってたんだけど、きーちゃんに夢中な兄赤司にムカついてたので騙されたフリして退部。弟ちゃん大喜び。
調子こいてたらチーム内分裂が始まって、敦に弟のくせにしゃしゃってんなよ〜って言われた弟ちゃんが敦にお灸を据えて覚醒して、兄さんのやり方は正しくないとかなんとか言ってますますしゃしゃって仕切るるようになって、何か普通に弟ちゃんはお兄ちゃんより強いのでお兄ちゃんもさせ放題にしてたら黒子っちが泣いちゃったっていう話。
ウィンターカップ決勝戦後に弟ちゃんが意気消沈してお兄ちゃんが慰めて何となく和解したら灰崎×兄赤司、敦×弟赤司でうまくまとまる予感がするぜ。




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