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▼ 紫赤





赤ちんと二人で2軍の練習試合に同伴した帰り道での出来事だった。

「紫原、この後時間はあるか?」
「え?んー、ハラ減ったし、真っ直ぐ帰るつもりだけど」
「だったら都合がいい。付いて来い」
「…来いって、どこに?」
「オレの家だ」
「え…」
「そんな顔をするな、父は不在だよ。急用でしばらく海外へ滞在することになってね。お陰で、先日購入したばかりの食材の保管に困っているんだ。協力してくれないか?」

この言葉を聞いての通り、いまオレの前にいるオレと同じジャージを着た同学年のチームメイトは、凡人とは言い難い生活環境に身を置いている。
そんな格調高い家に呼ばれたって絶対行きたくないって思ったのが顔に出たのか、赤ちんは苦笑を浮かべながらオレを自宅に招く理由と招ける事情を説明した。

「それならべつにいーけど。なに?赤ちんがメシ作ってくれんのー?」
「作り置きして貰ったものもあるけれど、出来たてのほうが良ければ構わないよ」
「だったら行くー。あ、何なら泊まってこうかな」
「ああ、そのほうが合理的だな。家族の許可が下りれば、そうしたら良い」

家族の許可なんて。外泊にそんなもんが必要不可欠なのは金持ちの家の子供か父親が厳しい箱入り娘くらいなもんだって。って突っ込もうとしてやめた。
いまオレの前にいるオレと同じジャージを着た同学年のチームメイトがそういう人だったからだ。




というわけで赤ちんの前で家に電話して、友達の家に泊まることを伝えたわけなんだけど。
それをやってからオレは、ちょっと捨て置けない事実に気付いてしまった。

赤ちんの自宅に泊まる。
家族不在で、二人きりの一夜を過ごす。
そして、まぁ。オレにとっての赤ちんと言ったら、同じ学校に通う同じ部活所属の同じ学年の顔見知りっていう以上に、わりと、あれな関係の人で。

「どうした?紫原」
「へ?あ、んーん。…あのさ、赤ちん。一応訊いとくけど、…平気?」
「?何がだ」
「だから、その、…こないだの」

こないだの。
部室で発生したとあるイベントについて、忘れたとは言わせない。
かなりいいところまで進展した。もうちょっとで突破出来そうな感じだった。っていうか突破してた。気持ち的には。
何の突破かって言うと、つまり。

「平気も何も。…そのつもりで、お前を誘ったのだけど」
「?!ま、マジ…?その顔で?!」
「…どういう顔をしろと言うんだ」

こないだ、部室で、オレたちは恋人的な一線を踏み越える手前まで来ていた。
あいにく邪魔が入ってお預けになったのだけど、あれ、見てたのが黄瀬ちんだけだったらたぶんいけてた。ミドちんにさえ見られなければ。っていう、そんな状態まで来ていた。
あれから数週間たったけど、赤ちんはあの日のことをすっかり忘れてるみたいに平然と過ごしていたから。いまだって、オレ、母親に電話して「お友達に迷惑かけないようにね」って言われるまで気付かなかった。

「学校で行為に及ぶのは、存外骨が折れる。ホテルを予約しようかとも考えたのだけど、外泊の理由を父に説明する必要があるからな。…手間が省けて良かったよ」
「あ、そう…。赤ちん、そんなやる気まんまんだったんだ」
「分からなかったのか?」
「まぁね…。ま、浮気に走らないで貰えてよかったけど、今回は」
「浮気?面白いことを言うな」
「どの口が言う?…もういーけどさぁ」
「ああ。オレが渇望しているのは、紫原、お前だけだよ。…だから」

隣を歩く斜め下の目線が、痛いくらいに突き刺さってくる。
だからって、見なきゃ良かった。なんなのその、エモノを見据えるようなまなざしは。

「今夜はじっくりと堪能させてくれ」

これがちょっと前まで抱き締めるだけで怯えて震えてた人の発言だなんて、誰に言っても信じて貰えない気がする。




玄関で靴を脱いだ途端に襲ってきそうな気配を滲ませながらも、赤ちんは行儀良くオレを屋内へ誘導した。
赤ちんの部屋は二階にあるらしい。先にそこへ連れて行かれて、でかいベッドを見た途端、立ち尽くしたまま息を飲む。
まさか、いきなり?って思ったのは束の間。赤ちんは、食事の支度をしてくるから休憩していてくれ、と言い残し、さっさと部屋から出て行ってしまった。よかった。食事が先みたいだ。

そこで一回緊張の糸が切れたせいで、オレはかなり油断してしまったのかも知れない。
メシ食って先にシャワー借りて再び赤ちんの部屋で待たされたオレは、赤ちんのベッドに転がってちょっとウトウトしてしまった。

日中の疲れがあった。
赤ちんに対する警戒心の薄さも原因のひとつにある。
それから、赤ちんのベッド。これが広さも弾力も申し分ない上等なもので、非常に寝心地が好く感じられたのだけど。



「随分と快適そうだけど、紫原。悪いがまだお前を休ませるわけにはいかない」

うつ伏せになってたオレの腰辺りにずしんと圧し掛かった重みと、不穏な空気を滲ませた低い声の宣告が、一気にオレを現実世界へ引き戻しに来た。




さすがに覚悟を決めただけあって、今夜の赤ちんは積極的だった。
オレの腰に圧し掛かったまま前のめりに屈んだ赤ちんの指がオレの項を撫で、後ろ髪を掻きあげて露出した皮膚にキスをしてくる。何度も、何度も。

「う…、あの、赤ちん…」
「綺麗な首筋だ。いくつキスをしても、飽きないな」
「そ、それはどうも…。…でも、オレにもさせてよね?」
「……」
無反応か。何となく分かっていたけれど、赤ちんオレにさせる気はないっしょ。
そうなんだよね。赤ちんて。ヤるぞって時は積極的にグイグイ来るくせに、こっちから手出ししようとすると固まる。それを学習したのか、今夜の赤ちんは。
「…ねぇ、赤ちん、腕…離してよ」
「……」
「赤ち〜ん…」
動かそうとした右腕は、速攻で赤ちんに押さえつけられてそのまんま。ああ、もう。油断して隙を見せたオレが悪かったって分かってるけど。分かってんだけど。
「…赤ちん、当たってる…」
「あぁ、興奮しているんだよ。愛しいお前を組み敷いているこの状況に」
「…オレは逆に全然なんだけど。ほら、擦りつけてないでさっさとそれ出しなよ」
「情緒がないな。だが、お前にも感じて貰わないと困るな。…分かったよ」
漸くオレの不満が赤ちんに通じて、拘束された腕が解放される。赤ちんはオレの上から退こうとしなかったけれど、問題ない。体を反転させて赤ちんに正面から対面できれば、こっちのもんだ。

目が合うと、赤ちんは少しだけピクリと肩を跳ねさせて怯んだ様子を見せる。
これが演技とかじゃないのは分かってる。馴れない人だ。だけど、オレのほうはもういい加減順応してきてんだ。ハイハイって気分で、赤ちんの腰に手を回す。

「む、紫原…」
「一応言っとくけど、オレ、手加減しないから」
「……」

たぶん、オレは赤ちんを泣かせる。本当はそうしたくないけど、そんくらいの覚悟を決めないと多分途中で心が折れるから。
泣かせるし、痛めつける。プライドを傷つけてトラウマ作らせるし、もしかしたら恨まれることになるかもしれない。でも、いい。
今のオレに与えられた使命はただひとつ。なんとしても、赤ちんの初めての男になることだって。
自分にそう言い聞かせて、震える赤ちんのシャツの中に手を潜り込ませた。



冷たかった皮膚がじわじわと汗ばんできて、赤ちんのカラダの変化がオレの指に伝わる。
向かい合う体勢で、オレの足に座ってる赤ちんの額はすっかりオレの肩に乗っかってて、震えながら耐えている様子はすごく健気に見えた。
「…下、触るよ」
赤ちんの耳元で宣言して、答えを聞かずにハーフパンツの中に手を突っ込む。濡れたそこが無反応ってわけじゃなかったのでちょっと安心した。
「あ、ぅ…っ」
「…ッ」
握りこんだ途端か細い喘ぎ声が漏れたので、ちょっとぎくっとなる。でもこれで怯んだら元の木阿弥だ。心を鬼にして、根っこから先端へ手をスライドさせると、赤ちんは熱のこもった吐息を弾ませた。
「ふ…っ、ぁ、…そ、んなに、…するな…」
「…ちょっと擦ってるだけだって。まだまだだよ、赤ちん」
「あ、ん…っ、はっ、ぁあ…っ」
「……」
少し握力を強めて擦っただけ。それだけでこんな声を出されてしまうと、なんかやっぱ焦る。いっそ口を塞いでしまおうか、いやそれはそれで可哀想かもしれない。そうだ、こうやって自由に喘がせてあげたほうが赤ちんのためだ。きっと。
「ひぁ…ッ、…っ、だ、めだ、…紫、ぁ、も、…ッ」
「え…?…あ、うそ!?」
ごしごしと数回扱いた。それだけ、なのに。
ちょっと、信じられなかった。手の中に広がるこの熱い液体の感触が。
「あ…、う…、ぅ…」
「…っ、だ、大丈夫!赤ちん、まだ一回だけ!すぐ次出来るから!ね?!」
オレにしがみついて嗚咽をあげる赤ちんにビビってついつい慰めるようなことを言ってしまう。鬼にしたはずの心はどこへやら。
ていうか赤ちん早過ぎるだろ。いや、そんだけオレに反応してくれたってことで、責めるようなことじゃない。そうだ、これはむしろ褒めるべきことだ。
「紫原ぁ…」
「大丈夫大丈夫、赤ちん、可愛い」
軽く頭を撫でて、頭頂部にキスをする。そうやって宥めたところで、オレは赤ちんの体を半ば強引に押し倒した。
「?!な…っ」
「ごめん、こっちのがやりやすいから」
「え?あ…、やっ、…やめ…ッ!」
動揺している赤ちんに抵抗する猶予なんて与えてらんない。手早くハーフパンツをずりおろし、片足から引き抜いて。両足を大きく開かせて、その間に顔を埋めてやる。
「ひっ、いや、や、あ…ッ」
悲痛混じりの拒絶には心が痛んだ。でもやめてあげない。萎んだ赤ちんのを舐め上げて含んで、二回目に挑む。
幸いなことに赤ちんの赤ちんはみるみるうちに復活してった。良かった。淡白じゃないっての、正しかったみたい。これだったら。
「ま、て…っ、紫原…ッ!…やめてくれっ」
「うわッ?!」
夢中になってしゃぶりついてたオレの肩に、ぐいっと反撃の足が。初めて抵抗らしい抵抗を受けたオレは驚いて赤ちんから口を離す。
「赤ちん…?」
「た、のむ…、…一方的には、しないでくれ…」
「え?」
息も絶え絶え、体の震えもそのままの赤ちんは、今にも消え入りそうな声で自己主張を行った。
「オレ一人で高まっても…、意味は、ない…。…お前も、」
「……」

今夜の赤ちんは、いつもと一味違うらしい。
一回出したからだろうか。それとも、普通に、もうガマンできなくなってるの?
わかんないけど。どうでもいいけど。優しくなりかけたオレの心をぽっきりと折るのに充分な発言を行っちゃった赤ちんは、もうなんか、本当に痛い目を見ればいい。

「…分かった。そんじゃ赤ちん、…指、いくよ?」
「…ああ、…来い」

ごくりと息を飲んで目を瞑った赤ちんの身体は、多分完全にぶち壊される。
しょうがないよね。赤ちんが望んだことなんだし。恨むのならば。

「あっ…紫原ッ、そこ、もっと…っ、もっと、しろ…っ」
「え、ちょっと、赤ちん…?ま、まって、これって…」

異常に感度が良くて順応性が高い優秀なこの自分の体を、恨んでくれ。












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