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▼ SweetSweetRedPepper


※大学生同棲パロです。


***




昔、赤ちんに手料理を振舞われたことがある。
中学の合宿の時。手違いで食事当番にさっちんの名前が入ってて、何も知らないばかな部員が喜んでさっちんの手料理を味わってる中、あの子の実力を知ってるオレらは回避して弁当を手配してもらった。
でもその弁当が届くのが翌朝だとか言われてイラっとしたオレの横で、赤ちんが仕方ないと袖を撒くって。
「こんな状況下で調理をしたことはないけれど、やってみるよ」
と、珍しく控え目な発言をして、厨房に消えてった。

30分後に出てきた食事は、量はそんなに多くないけどビックリするほどよく出来ていた。
さっちんの手料理でハラを壊した部員たちを余所目に腹に収めたあの料理は。

本当は、誰が作ったものだったんだろう?




「おはよう、敦。朝食は出来てるよ」
「……マジで?いいって言ったのに…」

高校を卒業して大学に通うために地元へ戻って来て、それから。オレは赤ちんと、同居生活を始めた。
どうしてそうなったかって言うと、意外なことに。オレが一人暮らし始めた賃貸マンションに、赤ちんが転がり込んできたんだ。
まだオレが秋田にいる間に親が勝手に選んでくれた部屋は、駅から近くて間取りも広い。本当は実家に戻るはずだったのに、高校在籍中にがっつり倉庫化されたオレの部屋を元通りにするのは難しいし、この三年間で紫原家の家族数がまた増えたからとか言われて。だったらいい部屋借りてよねって希望伝えて、こうなった。
そのいい部屋に突如赤ちんが現れたのは、大学に入学してひと月ほど経ってからのこと。
「この広さなら、僕が入居しても問題はないかな」
「え…、赤ちん、ここに住むの?」
「もともと実家を出るつもりだったんだけど、なかなか都合がつかなくてね。敦さえ良ければ、しばらく身を置かせて欲しい。もちろん家賃は折半するし、家事も手伝うよ」
「え?それってメシも作ってくれるの?」

昔出された赤ちんの料理は絶品だった。
だからオレはついこの誘惑に乗せられて。二つ返事で赤ちんの居候をオッケーしてしまった。

でもそれは大きな間違いだった。
たぶん、中学の頃に振舞われたあの料理の本当の調理者は、赤ちんじゃなかった。
だって、今朝赤ちんが食卓に並べた料理はすべて。


「…からい」
「そうかな?先日よりも唐辛子の量は控えたし、味気ないくらいだと思うけど」
「いや、目玉焼きに唐辛子入れるのは異常でしょ…。どういう味覚してんの、赤ちん」

キレイな円を描いた目玉焼きは、焼き加減もほどよく半熟だ。味噌汁の具も種類豊富で食べ易いサイズにカットされてるし、焼き魚の焦げ目も食欲を誘うくらいについている。
でもぱっと見でヤバイと思うのは、この料理、全体的に赤っぽい。

最初に振舞われた時に聞いたら、案の定すべての料理に唐辛子を混ぜているっていう話だった。
せっかくよく出来てんのになんでそんな辛くするのって聞けば、赤ちんは得意気な顔をして。
「唐辛子は万能調味料だ。塩や醤油のように塩分の多い調味料で味付けをすると生活習慣病の発症率が高まるけれど、唐辛子で味付けを行えばその点の問題は解決する。それに、唐辛子に含まれるカプサイシンは脂肪を燃焼する働きが強く、食べ過ぎても肥満に繋がることはない。最高だろう?」
などと、のたまった。

これが料理本に書かれた知識の受け売りってだけならまだ良かった。
問題なのは、赤ちん自身の味覚が、割と辛さに馴れてしまっているってことで。
こっちが汗かいて胃に納めている激辛料理を、涼しい顔でぱくぱく食べている様子を見てしまったら、もう料理はしなくていいからって言うしかなかった。

なのにオレの意思は受け入れられることなく、今朝も赤ちんの手料理が食卓に並んでいる。
作られてしまったからには食べずに捨てるわけにも行かず。辛さを少しでもやわらげるために、多目にごはんをよそってもらい、口の中でおかずの辛さと中和させながらすべてを平らげることに専念した。



「ごちそうさま…」
「おそまつさま。…すごい汗だね。学校に行く前にシャワーを浴びて来たほうが良い」
「…あのさ、赤ちん。これ誰のせいか分かってる?」
「新陳代謝がいいのは素晴らしいことだよ。食器はそのままでいいから、浴室へ行っておいで」

赤ちんの手料理を食べたせいで汗だくになっているオレの惨状に対し、赤ちんは悪びれるどころか褒めてくる。ちくしょう、言い返したいけど何も言えない。
赤ちんに悪意がないのは分かっている。どっちかって言うと、これは好意だ。
昔から赤ちんはオレがスナック菓子ばっかり食っていると、窘めてきた。取り上げられるようなことはなかったけれど、栄養が偏るよ、なんてことはよく言われた。
中学を卒業して、高校に進学してから再会したときも、何か言われたっけな。

(相変わらず体に悪いものばかり食べているんだな、敦は)
(だって室ちんがくれるんだもん。あの人、お菓子でオレのこと釣るんだよ?)
(…そうか。敦の気を引くにはもっとも有効な手段だね、それは。…でも、…褒められる行為じゃない)
険しい表情をして、赤ちんは断言した。
(今はそれでいいかもしれないけれど、将来的に考えたら心配になるよ。敦は、きちんと食管理の出来る人と一緒になるべきだ。…遠い話になるけどね)


「…あれ?」
「どうした?敦」

ここに来て、オレは気付いてしまう。
昔、赤ちんの味覚は普通だった。一度だけ振舞われた料理はめちゃくちゃ美味かった。
それが今になっておかしくなったのは。
健康志向で、肥満防止を促進する調味料に拘っているのは。

「…あのさ、赤ちん。聞いて良い?」
明確な答えが得られるかどうかは分からないけど。食器を片付ける手を止めた赤ちんの目を見て、はっきりと問い掛ける。
「赤ちんがここに来た理由って、オレの食生活を管理するためだったりする?」


目を見開いて固まる赤ちんの答えは、言葉にせずともばっちり伝わった。
なんだろうな、この人は。こんな、面倒くさい人だったっけ?
「…ねー、赤ちん」
テーブルの上に頬杖をついて、赤ちんを見上げながら言ってやる。
「今の赤ちんってさ、高校のときに赤ちんが言ってた、オレと一緒になるのに相応しい食管理バッチリな人になってるよね?」

この人が、生来の才能に頼りきらない努力家だったってことは知ってるつもりだ。
だからたぶん、自分が定めた目標に達するために、一生懸命学んできたんだろう。
オレに相応しい相手がどんなかを決めた上で。味覚を変えてまで、そこに収まるのは。

「…そんなわけ、ないだろう。思い上がるな」
「えー、違うのー?だったらもうメシ作らなくていいよ」
「……」
「嘘だよ。ずっとオレのメシ作ってて。オレを病気にさせないように、せいぜい頑張って」

せっかく磨いた料理の腕と知識を、生かす相手はオレだけでいい。
赤ちんが決めたなら、しょうがないから付き合ってあげる。辛さにも、ちょっとずつ馴れてあげる。だって、オレに相応しい相手はそういう人なんでしょ?
今のとこオレの知り合いにはそう言う人って他にいないし。これは妥協するしかないよね。

なんかちょっと結婚するみたいな流れだけど、それならそれで。

「赤ちん、食器そのままでいいから、フロ行こ」
「…僕は汗なんてかいてないけど」
「オレが汗まみれなんだから行くの。ねー赤ちん、オレがこのまま汗だくでいて、風邪でも引いたらせっかくの食事管理も水の泡だよ?背中、流して」
「…調子のいい男だな、お前は」

そう言って苦笑しながらもオレの言うことをきちんと聞いてくれる赤ちんは。
たしかに、オレに相応しい最高の相手なのかもしれないね。











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