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▼ Pureness2





だから火神の家に入ってすぐ、オレは火神の背中に抱き付いた。

「…んだよ。しねぇんじゃなかったのかよ?」
「気が変わったんス。いま、超ヤりたい気分。それにオレ、いーこと思いついちゃった」
「何だよ?」
「見て」
腕の力を緩めて火神をこっち向きにさせる。そして髪を耳にひっかけ、アイディアを見せつける。火神が嫌そうな顔をした。
「耳栓?」
「これしてたらアンタが余計なこと言っても聞こえないし、あとテレビつけっぱにすれば完璧。ほら、火神っち。やろ?」
「……」
嫌そうな顔してため息つくくせに。オレの要求を受け入れ、リモコンを拾った火神はテレビをつけて、ボリュームを少し上げた。
これでオレは火神の性癖に惑わされることはない。

思う存分、気持ち良いことに集中出来るから。




気に入ってるのは、火神の指だ。
短く丸く切った爪は決して皮膚を抉ることはないし、指の腹は弾力あって撫でるのも押すものいい。この指が丁寧にオレの肌を摩ってたかと思えば、不意に指圧マッサージみたいに食いこませてくる。
くすぐったいのと痛気持ちいいのとが交互に来るので、油断はしてらんない。
大事に触られてる。それがすごく伝わってくるから、気分はいい。

視線を火神の顔に向けると、何か言いたそうな目でオレを見下ろしてた。
唇が動くのは分かったけど、耳を塞いでいるオレには伝わらない。だからとりあえず笑って見せて、火神の首に腕を回して「もっと撫でて」って言ってみた。そしたら唇で塞がれた。

キスがしたかったのかって分かって、応える。
手順については指示したい気持ちもあったけど、べつに火神なら任せても構わないって知ってる。こいつはオレの負担をより軽減させようと努力してくるから、多少強引に進められても怒らない。
そうやって許しているうちに火神の右手がオレの下半身に伸びてくる。この人、片手でベルト外すの上手いんだよな。不器用そうに見えて、割と器用な面を知る。
あっと言う間にベルトのバックルが外れ、ジーパンのボタンもジッパーもするする開かれる。この時点でオレは割と興奮してしまっているので、火神のデカい手のひらがパンツの中に入って来たときは体が期待してぴくってなった。

「ん、ん…ぅ、」
そして例の絶妙な指使いでチンコを揉まれ、若干息が苦しくなって来る。訴えるために背中を軽く叩くと、キスの蓋が外された。
「は…っ、火神っち…」
「……」
「ん…、ぁ…、……気持ちい、」
芯が出来ると指の動きも形に伴って変化して。揉むのから擦るのに変わって、確実なツボを押してく。火神の手のひらはオレの先走りで濡れてって、すべりがよくなって、これすごくいい。
ちょいちょい喘ぎながらうっとりしてると、不意に火神の手が止まる。
「ん…?どしたんスか?」
視線を上げると、火神はオレからちょっと離れて、自分の服を脱ぎだした。
きれいな体だと、まじまじ思う。
オレだってそれなりに鍛えてるし、自信がないことはないけれど。他人の、それも男の体を見て、いいなって思ったのは火神が初めてかもしれない。

これはもしかしたらおかしな話で、オレの周囲には筋トレ好きな野郎共がわんさかいる。むさい部室で一斉に着替えるし、合宿で大急ぎの入浴を済ますこともある。そういうときに他の男の裸を見ても何とも思わなかった。なのに。なんでオレ、この人の体には欲情してんだろ。

欲情、っていう言葉を意識して、オレは火神の胸に手を伸ばした。
ぺたんとくっついた皮の向こうで。ドクドク鳴ってる心臓の動きを感じる。

「…ふふ、」

どっちかっていうと恐い顔をしている。だけどこうしてドキドキしてる生の音を聞いちゃうと、どうしてもオレの頬はゆるむ。緊張してんだ、可愛いな。
もうこれで三回目なのに、火神の様子が最初と変わってないのがオレは嬉しい。
でもオレが笑うのを、火神は不快に感じたらしく。胸に触れる手をぱっと掴まれて、頭の横に押し付けられた。
そして火神の片方の手がオレの胸に置かれた。それまで気づかなかったけど、オレのそこは火神のと同じくらい速いスピードで波打ってる。ドキドキしてんだ、オレも。
「…釣られちゃった」
舌を見せて笑って言う。すると火神の恐い顔がゆるまった。
同じに笑って、たぶん。「バァーカ」って、口がそんな風に動いた気がした。

耳栓はしてるけど、ちょっと声張ってくれれば聞こえるのに。
そうしないのは火神が気付いてないからか、もしくはオレが聞きたくないってことを踏まえての気遣いなのか。
はたまた、策略か?

「…何言ってっか、聞こえねっス」
押さえつけられた左手はそのままに。空いてる右手で、右耳に触れる。
詰まった耳栓をひとつ外す。それだけで周囲の音声はオレの耳に突き刺さる。クリアになった鼓膜に、火神がまた「バカ」って言ってきた。

そうオレはバカなんだろう。
聞きたくない言葉があって、そのために耳栓して火神にくっついて。
でも途中で飽きて自分で耳栓外して火神の声を聞きたがる。
火神と話をしながら、火神の体にオレも触る。

体勢を入れ替えて火神に乗っかって、自分で自分の穴を解しながら火神のチンコをしゃぶってデカくする。
そのうちにちょっと苦しげな息をしながら火神がオレの前髪を掴んで、聞いてくる。
「挿れてもいーか?」
切羽詰まった顔をしているし、オレの唾液でべたべたになったチンコはもうパンパン。
欲しくなってきて、ちょうどよく願われて。笑いながら、いーよって答えて跨ぐ。

先端を入り口にあてがっただけで背中がぞくってする。
他の人としてるときは、ここ、割ときつい場面なんだけど。火神のを受け入れる時は、そうでもない。
今までさんざん高められて焦らされてたからってのもあるんだろう。それでも、こんなデカいの飲み込んでくのに、体が悲鳴を上げないのが不思議だ。
ちょっとずつ腰を沈めて、熱が埋め込まれてく感覚がすごく気持ち良くて目を瞑る。
「…っ、黄瀬」
低く掠れた火神の声がすぐ側で聞こえる。でもちょっと遠いのは、囁く位置が左耳に近いから。
こっちの耳にはまだ栓が詰まってて、でも聞こえないことはない。中途半端に響くから、オレはつい火神にしがみついて、火神の唇に耳を寄せた。
「…火神、っち…」
自分のペースでねじ込みながら、熱い塊の持ち主の名前を口にする。
オレの中に入ってくる。そいつは質量で示せばそんなにデカいわけじゃない。なのに身体の半分以上が支配された気分になるのは、熱と音と振動のせいだ。それは毛細血管を通って全身に広がって行く。
浸食してく。ふたつのドキドキが一つに重なる。
「ふ、…はぁ、…も、いっぱいっス…」
「……ッ」
「火神っち…」

不自然に広がった穴の中に、灼熱が埋まってる。
その感覚がどうしても気持ちいい。火神に寄り掛かって、恍惚感のままに名前を呼ぶ。
ドクドク鳴ってる。この音がオレを安心させる。このまま、いつまでも聞いてたい。
動きだしたらきっと止まらなくなる。頭の中がぐちゃぐちゃに溶けて、真っ白になって、涎垂らしてバカになって身体の快感を高めることしか考えられなくなれば。今よりもっと気持ちいい状態を、オレは知ってる。

なのに、なんでか、そうなりたくない気持ちもある。
このまま時間を止めて、繋がってたら。それはそれで、いいかもしれない。これくらいの気持ち良さにずっと浸かってられたら。それも、すごく。

「黄瀬、」
「ん…、…待って、火神っち、…もーちょい…」
急かす声が聞こえる。でもまだ。あとちょっとだけ、ひたらせて。
抜かないで。一番奥に収まったまま、このまま、ほっといてくれ。
今のオレは、そうゆう気分で。
これが、すごく、欲しかった。
「…っ、ん?!」
「…お前、やっぱバカだろ…」
「え?何?うそ、火神っち、まだ…っ」
火神に擦り寄って息を吐いた瞬間。中で火神のがドクンと膨張した感覚があって驚いた。まだ、デカくなんのか。すげぇな、こいつ。
でもなんで。擦ってもいないのに。
「う…、ちょ、ちょっと火神っち、さすがに、くるし…」
「…こっちだって苦しーっつーの、……バカ」
「え?あ……っ」
あまりデカくされると、それはそれできついって。訴えようとしたところ、火神がオレの体をぎゅうと抱き締めてきた。
なんだ、って思う間もなく。
左耳に。キた。

「…好きだ」
「ッ!」


今までよりも遠くに聞こえた。
それでも、確実に響いた。言葉が。オレの体にぞくりとしたものを走らせる。

「や…っ、」
「好きだ、黄瀬」
「やめ…、…言う、なぁ、ッ!」
「嫌だ」

指先がびりびりする。それだけじゃない。色んなとこの感覚が消えてくのが分かる。
繋がったとこも。痺れて麻痺して、自分のカラダじゃないみたいな。
「あ、やだ…っ、何…ッ」
それが急に恐くなってきて、視界が歪む。はらはらと頬が濡れてく。火神が動き出した。
「あ、ん…ッ!ま、って、かが、ぁ…ッ!」
「…好きだ」
「やだぁ…ッ、も、イっちゃう、…も、やァ…っ!」

感覚の消えたカラダがすごく単純になって、ぶるりと震えて意識が飛ぶ。
今まで感じた事のない絶頂感に呆けてる間もなく。火神が腰を揺すってきた。
「ふ、ッ、ちょ、まって…、いま、うごかした、ら、ぁッ」
「…待てねーよ」
「あっ、んゃ…っ、かが、火神…ッ、はっ、ん、ぁあ…ッ」
イってんのに。
泣いてんのに。
容赦なく突かれて、えぐられて、くるしくて、アタマ。壊れそう。

そうして何も考えられなくなったオレの脳みそに、急に、ぶちこまれる。
それはまるで、鉛の弾丸で撃たれたみたいに。

「…ッ、好きだ、黄瀬…ッ」


左耳の栓はいつの間にか抜かれてた。




目を醒ました。オレは死んでなかった。
すぐ近くに男の顔がある。オレを苦しめた極悪人間の寝顔は、意識失う前までの印象とは打って変わって無防備で幼い。なんなら無垢な寝顔を見せつけるこいつが、憎たらしくて仕方ない。

「…バッカじゃねーの?」

睨みながら呟く。相手の反応はない。
ため息をついて、布団の中から手を出す。自分の左耳に触れる。やっぱりそこに、栓は詰まってなかった。
人がいっぱいいっぱいになってる間に勝手に外すなよ。お陰でオレはまたヤな気分になっている。
耳が熱くて気持ち悪い。これ以上は、無理かもなって思った。

これ以上、火神とセックスするのは良くない。
昨日だってギリギリだった。してる最中はまぁいい。でも、今この時が。
終わって、冷静になった瞬間、オレは物凄く自己嫌悪に陥る。
心臓がズキズキ痛む。吐き気すら感じる。いくら、刹那的な快楽を味わうことが出来ても。すっきりしないセックスなんて、しても無駄なだけだ。

「…ねぇ?火神っち」

オレとアンタとでは、求めるものが違うんだ。
だからもう、これまでだ。

薄く開いた火神の口にキスをした。
二度と、オレに余計な言葉を囁かない。そんな呪いをかけてした。










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