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▼ Pureness


真性ビッチの黄瀬くんが火神くんに好かれて折れる話なのでちょっと火黄以外っていうか作品に登場してない名無しさんとの黄瀬受け描写入ります。



***




セックスは嫌いじゃないから、誘われれば、割とほいほい応じる。
疲れてるときとか体のどっかを痛めたりしてるときは断ることもあるけど。相手が誰々だからって理由で拒絶したことは、ない。

「誰でも?」
「んー。ヤバい筋の女とかだったら話は別っスけど。それ以外ならべつに」
「…性別は?」
「それ聞かれると思った。火神っち、オレね、どっちもイケんスよ」

火神からこういう話題を振ってきた。
それもちょっと緊張気味の恐い顔して。
だから、オレとそういうことすんの興味あんのかなって踏んで、笑う。

「いま火神っちに誘われても、たぶんオッケーしちゃうんじゃないっスかね?特に最近はしてないから、ほんと、…誰でもいーやって気分だし?」

オレの予想は的中し、火神は恐い顔をしたままオレの体に触れてきた。



尊敬してる人は何人かいて、それは完全に特別枠。
あとの人はあんま興味なくて、顔と名前とキャラが一致しないのはザラなので。
誰が相手でも拒まないってのは、誰が相手でも同じだからっていう理由。

だけどあの夜、火神としたのは間違いだったかもしれないってオレは後でちょっとだけ悔やんだ。
なんで、火神を他の人たちと同じって思っちゃったんだろう。ミスしたな。忘れてた。
火神はオレの、数少ない特別枠の中にいる人だったってこと。
特別枠内の人が、オレとしたいと言ってきた。普通の人と同じことを言ってきた。
それはオレにとって初めての経験で。でも、どうなるのかは分かってたつもりだ。

普通の人と同じように、誰が相手でも出来るセックスをした。
そうしたらどうなるか。答えは簡単。そいつがオレの特別枠から外れるだけだって。

思って、いたのに。



「いつでもいーから、またオレん家来いよ」
「…火神っちから誘ってくれんの初めてっスね。何スか?こないだので味占めた?」
「…バカ言ってんな。いいから来い」
「分かった分かった。今度はゴムくらい用意しといてよ」

一線を超えた数日後、火神から呼び出しの電話がきた。
理由はひとつしかないって知ってる。家の庭に来る野良猫にエサをあげたら、味を占めてそこに居座るようになるのと同じで。火神にとってオレは、手軽にヤれる便利な知り合いっていう存在になった。
それについて思うことは特にない。よくある話だ。一回寝たくらいでコイビト面して次を求めてくる頭の軽い人は男女問わずたくさんいる。
べつに千人斬りを目指してるわけでもないので、一回寝たからもうやんないってポリシーはないけれど。
ちょっとだけ気が重いのは、相手がオレにとっての元特別枠の人だったからなのだろう。

できれば、火神とはもうしたくないなって思ってる。
気持ちよくなかったわけじゃない。火神はオレの要求にしたがって、念入りに穴をオイルで濡らして解してくれたし、立て続けに何回も発射するなんてこともなかった。
動きはぎこちなかったけど、突っ込んでからチンコ擦ってくれたし、女代わりでやってるわけじゃないってのも示してくれた。
馴れてるこっちからしたら、焦らしてんのかってくらい丁寧に。一般的なセックスをしてくれたので、オレもまぁまぁ気持ち良かったし、相手が火神じゃなかったらこっちから次はいつする?って言いそうな気にもなった。

だけど目を開けた時にあったのが、火神の顔だった。
真っ直ぐにオレを見詰めて、どこか苦しげな表情をする火神だった。
セックスは、気持ち良かった。丁寧過ぎるほど丁寧にしてもらった。それから。

(…好きだ)

普段は聞いても何も感じない告白に、戸惑った自分を覚えているから。




「そういうのナシにしてくれんなら、もっかいしてもいいっスよ」
「そういうのって?」
「好きとか言うの。…ヤなんスよね、重たくて。萎えるからさぁー」
「…そうかよ」

わかった、って火神は言わなかった。
だから、ウソにはならない。その主張は正しくなくもないけど。

今日も、火神は自分がイく寸前にオレの耳元に「好きだ」って囁いてきた。




左耳が熱い気がするのは、一日経っても変わらなかった。
耳たぶに触れてみても熱なんてない。これはただの錯覚で。だけど、思い出してしまう。低く掠れた声が作る、告白みたいなあの科白。
それは飾りだって分かってる。セックスの最中だ。オレだって、どーなっても構わないって思うことがあるのに、経験の少ない火神が気持ちいいことに溺れて自分で何言ったかわかんなくなるってのは充分に考えられる。
分かってんだ。あの「好き」が、なんてことない空気の振動だってことくらい。
誰だって言えるそんな言葉。欲しくはない。むしろ邪魔だ。ない方がいい。

それでも火神が言うってなら。オレが嫌がっても言わないとイけないとかほざくなら。それは。
たぶん、相性が悪いってことなんだと思う。




「…行くのはいーけど、エッチはもうしないっス」
「なんで?」
「なんでって…。言ったじゃん、オレ、やってる時に好きとか言われんの萎えるって。…気持ち良くないなら、しても意味ないじゃん?」
「……」
「…なんだよ」
「いや。いーよ、だったらもうしねぇ。…から、来いよ」

週末、火神から連絡を貰った。電話を当てる左耳が、また熱くなった。
気持ち良くないって言った時、火神が黙ったのは、オレがウソついてるって見抜いたからだと思う。
気持ちよくなかったら、普通は中で出されたのを受けてつられてイったりしないしね?
でも火神は見え透いた嘘を暴くこともなく、またオレを誘った。
オレは断れなかった。いいよって、答えてしまった。



火神の帰宅時間だけ聞いて、それまでの暇つぶしを都内に住む知り合いの家ですることにした。
中学時代にバイトで知り合った美容師の家には、過去にも何度か通ったことがある。最近はバイトもほとんど絶ってたから、オレから連絡したことに驚いてた。でもオレのために有給使って身を空けてくれた。この親切な対応に下心があるってことくらい、知ってる。

部屋に上がってソファーに座って携帯のメールチェックしてたら、早速隣に座ってきた男に肩を抱かれて囁かれた。
「今日はどっちでさせてくれんの?」
この人とは上も下も経験済みだ。ていうか、女役が気持ちいいってことをオレに証明したのがこの人だったってことをオレは今思いだす。
「…挿れて欲しいっス。つーか、最近そっちばっかだから馴れちゃって」
「へー。涼太くんも大人になったじゃん。なに?彼氏出来たの?」
「…そんなんじゃないっスよ。何つーか、ほぼ練習台になってやってるみたいな感じ。だから、…ひさしぶりに、気持ちいーのが欲しくなっちゃったんス」
両腕を相手の首に回してキスをねだる。目を瞑って受け入れる。口の中を荒らされるだけで恍惚とする。ご無沙汰だった感覚だ。
自然な流れでソファーに体が沈んでく。シャツの中に入って来た美容師の指が腹をくすぐる。
「ますますイイ体になったじゃん。鍛えてんの?」
「えー…?…あぁ、毎日部活やってっからね。つうか、普通っしょこんなん」
「うっそ。前にした時よりこんなに、」
すすす、と指が上に上ってきて、ぺたりと胸を撫でられる。これが、何?そう思って顔を見たら、相手は嬉しそうに笑ってた。
「胸板も厚くなったね。…ねぇ、涼太くん。やっぱり今日は、抱いてくんない?」
「…へぇ、オレの体ってそんな感じなんスか?」
「ん?」
「…や、何でもない。……」

胸の上までシャツを捲られ、あらわになった自分の体を見下ろす。
顔や体を褒められんのは、馴れてる。でも。オレは、もっと逞しくていいカラダを知ってるから。褒められても、あんま嬉しくなかった。それに。

「…あ、やっぱ、今日はすんのやめる」
「え?」
「友達と待ち合わせしてんスよ。…遅れたら怒られるかもしんないし」
「ごめん、さっきの聞かなかったことにしていいよ。だから…」
「上でも下でもムリっス。準備する時間ないし。悪いけど、また今度、」
「ダメだよ」

乗っかる体を押しのけて起き上がろうとした。なのに相手は急にやる気を見せてきて、オレの肩を強く押して強引に下半身に手を当ててきた。
「だから、やんねーって、」
「でも最初はそのつもりでウチに来たんだろ?」
「……」
「気持ち良くしてあげるよ。涼太くんのスキなとこ突いてあげる。時間は掛けないよ。すぐに、」
「そーゆう気分じゃなくなったんスよ」
手を払って身を起こす。乱れた服を直して息をつく。
美容師はちょっと呆けた顔をして呟いた。
「…変わったのはカラダだけじゃないの?」
「…は?」
「涼太くん、セックス拒否したことないじゃん。…ひょっとして、君本当に…」
「……」

なんでこの人こんなにイラつくことばっか言うのかなって頭を抱えた。
でもこの人の言うことは合ってる。誘われて、拒否ったのは。人生で二回目だ。

「…そんなんじゃねぇっスよ」
だけどオレは変わったわけじゃない。
「気分じゃないっつったっしょ?今のオレは、…ぱぱっとじゃなくて、じっくりイジられたい気分なだけっス」

相手は誰だっていいけど。オレの体は。
火神がするセックスに、馴染んじゃっただけだ。










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