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▼ 火黄



前々からよく黄瀬はこういう反応し辛い話題を口にすることはあった。

「男同士でもエッチって出来んスよ」
「…へぇ。そりゃすげーわ」
「凄くないっスよ。まぁ、女の子ともしたことない火神っちには未知の領域かもしんないっスけどー」
「…知りたくもねぇな」


最近、よくうちに来る。
バイトや買い物の帰りに立ち寄ってメシを食ってくのにちょうどいいらしく、週末の夜となるとほとんどといっていいくらい黄瀬がうちにいる。今夜も、マジバのバーガーを手土産にふらりと現れた黄瀬は我が物顔でオレの部屋を占拠しており。いつものごとく、下らない話をし始めた。

「知ってみてもいいと思うんスけどねー。若いんだし」
「オレはお前と違ってふらふら遊んでらんねぇんだよ」
「えー、オレだってそんな遊んでないっスよ。毎日忙しいし」
「いますげーヒマそーだけどな」
「今も忙しいっスよ。火神っちの気を惹きつける話題を一生懸命模索してるんで」

それがヒマつぶしって奴なんじゃねーのか、と言ってやりたくなる回答をした黄瀬を軽く睨みつけ、そのまま視線を時計へ持ってく。黄瀬がここに来てからまださほど時間は経っていなかった。
「いま、そろそろ帰ればって言おうとしたっしょ」
そして図星をつかれてギクリとする。
「終電までまだまだ時間あるし、そんな急かさないでよ、っつーことで」
「…何だよ?」
のそりと動き出した黄瀬が、膝歩きでオレの前へ近付いてくる。嫌な予感がして後ずさろうとするも無駄だった。オレはいま、ベッドを背凭れにして座っている。逃げ道はない。
「話題も尽きてきたところで、ちょっと試してみないっスか?」
目の前には余裕の笑みを浮かべた黄瀬がいる。
試すって、何をだ。言おうとしたところで、黄瀬の両腕がオレの首に絡まってきて。
「オレずっと興味あったんスよ。火神っちが、どういうエッチすんのか」
にやりと口端を釣り上げた。黄瀬の顔面が、間近に迫った。



前々からよく黄瀬はこういう反応し辛い話題を口にすることはあった。
だが、行動に移されたのは初めてだ。動揺したオレは、渾身の力で黄瀬を押し返し、ふざけんなと怒鳴っていた。
「ふざけてなんかないっスよ、オレ、マジっス」
「マジで男にキスするかよっ!お、お前…っ」
「いーじゃん、オレ、……好きなんスよ」
「…っ!」
「エッチなことして気持ち良くなるのが、ね」

一瞬、告白をされたのかと思って息が止まった。
だがそれはただの勘違いだとすぐに示される。それ以上にドン引きする内容によって。

「そんなビビんなくても大丈夫っスよ。火神っちは何もしなくていいんで」
「は…?って、オイ!脱がすなっ」
動揺が収まる間もなく黄瀬の手がオレの下半身に伸びてきた。それは実に迅速かつ手馴れた動きで。履いてたジャージとパンツがずらされ、黄瀬の頭の位置が下がる。オレの足の間に。
「ば…っ、黄瀬、マジ、シャレになんねーぞ?!」
「だいじょーぶって言ってんじゃん。いーから、させてよ」
「な、何を…」
「フェラぁ?」
常習犯の顔つきでそう言った黄瀬は、躊躇いもなく。
「…ッ!!!」
さらにパンツをずらして取りだしたオレのブツを、指で撫で上げ舐め出した。



こいつはとんでもない状況だ。ただごとじゃない。
銭湯でも何でもない自分の部屋で、野郎の前で下半身を露出して。そいつを咥えて頭を振る男は自分と同等の体格の持ち主であり、さらに言えば寄ってくる女は掃いて捨てるほどいるイケメン君だ。
黄瀬の行動が何を表しているのか理解出来ずに混乱するオレをよそに、下半身はみるみるうちに形を変えて行く。

「火神っちのデッケーね。ちょっと苦しくなってきたっス」
ふはっと息を吐きながら頭を引いた黄瀬の声により、漸くオレは抵抗手段を思い出す。
「き、黄瀬…、お、お、おま…」
「…言いたいことは分かってるんで、無理しなくていいっスよ。オレね、馴れてっから」
「は…?!」
「男同士のエッチって、べつにそんな凄いことじゃないんスよ」

馴れている。その言葉通り、黄瀬は余裕を感じる笑みを浮かべて顔に掛かる髪を耳にかけた。
その瞬間、かっと頭に血が上った感覚がして。再び顔を下ろそうとした黄瀬の腕を掴み、行動を制止する。
「何スか?…せっかく勃ったんだし、もーちょっとやらせてよ」
「嫌だよっ!やりてぇなら余所行って来い!」
「…言ったじゃん。オレ、火神っちのエッチに興味があるんスー。余所は余所っス。もう観念しやがれっス」
「観念しねぇよ…っ、って、オイ!」
やや不機嫌そうにオレの手を振り払った黄瀬は、話の途中にも関わらずオレの急所をがっちり握り込み。真っ赤な舌を出し、先端をべろりと舐め上げる。
慌てるオレをよそに、握りこんだ手を上下に激しく擦りつけ。こっちの抵抗を見事に削いで行くそれは実に鮮やかで、卑怯な手口だ。

普通ならば死ぬ気で拒絶するような状況に陥っている。
なのにオレはただただ自分の下半身を刺激する黄瀬の顔を、半ば茫然としながら見下ろすばかりで。
こいつの何がオレから抵抗心を削り取っているのか。いくらこの作業に馴れていて、技術が高くても他の男だったらこうはならないと思う。
まずいのは、黄瀬の顔が無駄に整っているせいだと感じる。

この顔が。

「ん、…ふ、…はぁ、…順調っスね」
「……」
「…ねー、火神っち。もしかしたらこれイけんじゃないっスか?ちょっとイってみる?」
「……」
「…聞いてる?火神っちー?かが、」
「…お前、マジいい加減にしろよ…ッ」

この顔面は、マジでヤバい。
そもそもオレは、今まで黄瀬に上目遣いで見上げられたことなどなかった。
この角度で、この顔に、この。猛々しく成長した自分の性器を、愛しげに擦り付ける様を見せつけられたら。


両手を伸ばし、黄瀬の肩をがしっと掴む。
そのまま勢いで黄瀬を床に押し倒し、体に跨って見下ろした。
さすがにこの展開に驚いたのか、目をかっ開いた黄瀬は焦った様子でたじろぐ。
「か、火神っち…?!何スか、急にどしたんスか?!」
「うるせぇ!挑発したのはお前だバカ!」
「へ…?ちょ、挑発って…、…ッ?!」

左手で右肩を押さえつけたまま、右手を黄瀬のシャツの中に潜り込ませ、ないと知っているはずの胸を揉む。ない、わけだが、黄瀬はぎょっとして息を飲んだ。
「な…っ、ど、どこ触ってんスか!つうか、何のマネっスか?!」
「だ、黙れ!お前のせいだっつってんだろ!」
「お、オレが何したっつーんスか…あ、いや、したけど?」
「…イかせてくれんだろ?」
冗談では済まされない。
先ほどまでの黄瀬の暴言を、なかったことにする気もない。
服を剥きあげて露出した黄瀬の腹が妙に色白でなめらかなのも、悪い。
「か、火神っち…マジで…?」
驚きと焦りが入り混じって引き攣った笑みを浮かべながら、黄瀬が確認して来る。
マジだと、証明するために。オレは。

最初に黄瀬が行った、本気の証拠を黄瀬の唇に押し付けてやった。



男同士でセックスが出来るってことくらい、オレも知ってる。
経験はない。黄瀬に指摘された通り、こっからは未知の領域だ。
ただ、まぁ、帰国子女ナメんな。

「ま、待って、火神っち…!いきなりはムリっス!!」
「あ?なんだよ、お前馴れてんだろ」
「う…、だ、だからって、アレっスよ!女の子のと違ってオレの穴は勝手に濡れないから!」

キスに驚いて固まっている黄瀬の服を次々と脱がし、パンツまで剥き取って。長い足を左右に割り開いたところに体を収め、穴にブツを固定させ。いざってときに、黄瀬による本気の制止が掛けられた。
ついついセックスって単語に惑わされて、そのまま突っ込むつもりでいたが、そうだ、黄瀬は男だ。
強行突破を諦め、あてがったモノをそっから遠ざけると、黄瀬はあからさまにほっとしたような顔をした。

「か、火神っち…ちょっと冷静になろう。若気の至りで早まるのはよくないっス」
「はぁ?試せっつったのはお前だろ」
「オレはここまでするとは言ってないっス…!お、男同士なんスよ?」
「…男同士のセックスなんざスゲーもんでもねぇんだろ?」

自分はそれに馴れている。何なら日常的に抱かれてるレベルの発言をしておいて、なに今更怖気づいてんだ。そう思いながら、それまでの黄瀬の自信に溢れた発言を取り上げる。黄瀬はぐっと言葉を詰まらせた。

「…言った。言ったっス。…言いました、っスけど」
「…オレがどういうセックスするか気になってたんだろ?してやるよ。オラ、ケツ濡らせ」
「うー…、…分かったっスよぉ…。準備、すっから…。……火神っち」
「なんだよ?」
「…ちょっと、席外してもいっスか?」








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