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▼ 先輩談



※帝光中一時代、主将視点の灰赤SSです。
※本人たちはセフ関係と思いこんでるけど両想いな純愛灰赤です。非常に純愛灰赤ですが、下半身ネタはやっぱりあるので苦手な方はご注意ください。
※主将の後輩可愛がり現象はあるけど恋愛感情的な要素はありません。灰赤です。


***



練習の開始時間になっても現れない馬鹿部員の名前を出し、赤司に所在を問う。
赤司は速やかに携帯を取り出し、男の所在確認を始めた。

「…出ません」
「あーそーか。赤司、後でシバいとけ」
「分かりました」

真顔で報告を済ませ、指示を受け入れた赤司が携帯を仕舞う。この応酬も、馴れたもんだ。日常茶飯事だ。そんくらい、灰崎という男は遅刻とサボりをやらかしている。

「あいつ、調子ぶっこいてんな。何とかなんねーの?」
「そうですね。……」
「あ、いや、そんな考え込むなよ。別にお前責めてるわけじゃねーから」
「…責任は感じています。灰崎一人の勝手な振る舞いで、部全体の統率が乱れるのは事実ですから」
「だからそりゃお前のせいじゃねぇって」

確かに1年の管理は赤司に任せきっている。それはオレが赤司を信頼しているからだ。
今年の1年は粒ぞろいだが、どいつもこいつも癖のある奴ばかりで、赤司以外にまとめられる奴などいないと判断している。
赤司はその期待に応え、よくやってくれている。
自信過剰で生意気盛りの1年坊主たちは、赤司が副主将に任命されるまでは上級生としょっちゅう諍いを起こしていた。だが赤司が仲裁を務めるようになってからはそういった報告もめっきり減り、他の1年同様マジメに掃除をするし、練習時間も守るようになった。
ただ一人の問題児を除いては。

「あいつ、マジでダメかもな。いくら実力があろうが、こうしょっちゅう問題事起こされたら他の部員にも示しがつかねぇし」

赤司はうまいことやってくれている。
それでも灰崎に限っては、遅刻、サボりは当たり前。よその学校と揉め事を起こしてはすぐに手を出すし、学校側からの注意勧告も幾度となく通達されている。
実力は、申し分ない。近いうちに1年だけでチームを構成する予定だが、その中に灰崎の存在は不可欠だ。あいつの代わりになる1年は、今のとこうちの部にはいない。
それでも、部活のチームってからには教育者からの意見は無視できない。いくら実力者とは言えど、素行の悪い生徒は1軍から除籍するべきではないかという話もちらほら聞かされている。

「頭もワリィだろ、あいつ」
「…先日の実力テストでは赤点を免れていると聞いてますが」
「ギリギリだろ?…まぁ、赤司や緑間みてぇに成績もトップクラスキープしろとは言わねぇが、大丈夫なのかよ?万が一赤点取って補習で試合欠場なんてことになったら、まーた学校側がうるせぇぞ」
「…何とかします。…先日のテストも、彼なりに努力はしていたようです」
「そうかぁ?」
「赤点を保持すれば、確実に補習日程が練習試合と被っていました。だから、オレは」
「…は?…もしかして、お前、」
やたらと灰崎を庇う赤司の言葉に引っ掛かりを覚え、確認をする。
「…あいつに、勉強教えたりした?」
「あまり時間は取れなかったので要点だけを。授業はほとんど聞いていなかったようですが、飲み込みは早い。頭はそこまで悪くないと思います」
「……マジかよ」

赤司の告白に唖然とし、落ち着いた横顔を二度見する。
軽く息を吐き、赤司は続けた。
「素行についても、改善の努力はしているようです。自分から手を出したことはないと言っていました」
「…ウソだろ?お前、あいつに何て言ったんだよ」
「…特別なことは何も。彼の実力を評価し、必要な存在であることを伝えただけです」
「それで?あいつが?…お前の言うこと聞いてんの?」
「いえ。屁理屈をこねてばかりです」
そこで赤司は前方を見据え、ふっと笑みを浮かべた。
「…あれほど反抗的な男も、珍しい」
そう言う赤司こそ珍しく喜色を滲ませた表情をしていたが、それについて言及することはやめておいた。



赤司が与えた筋トレメニューを素直に実行している灰崎を見かけたのは、初めてだった。
トレーニングルームでひたすら腹筋を行っている灰崎を、赤司は少し離れた場所に位置するランニングマシーンに寄りかかりながらじっと眺めている。
監視の眼がどれだけ鋭いのかは、トレーニングルームの窓からは確認することが出来ない。ただ、灰崎が必死に腹筋回数を重ねている事実は間違いない。あの灰崎が、よく素直に筋トレをしていると感心するばかりだ。

「もういいよ、灰崎。…凄い汗だな」
「誰のせいだよ。…クソ、無駄に疲れさせやがって」
「無駄に体力を消耗するのが嫌ならば、遅刻しなければいいだろう。どうしてお前はそんな簡単なことが出来ないんだ」
「うっせーな、たまたま寝坊しただけだろ、こないだのは。大体、テメェがさっさと一人で出掛けっから、オレは…」
「一緒に出掛けたかったのか?」
「んなことは一言も言ってねぇ!」

室内から聞こえる会話は、何かおかしい。
違和感の正体を探りながらも聞き耳を立てる。腹筋台上にぐったりと倒れ込んでいる灰崎の元へ、ゆっくりと赤司が近付いた。
唇が動いているのは分かったが、声のボリュームが極端に絞られた。二人の距離なら難なく聞き取れる会話なのだろうが、こちらには聞こえない。
何話してんだ?と気になり、ドアに手を掛けたところ。

「ッ!!」



必要以上にデカい音を立ててドアを蹴り破る。
中にいた二人が同時に目玉をひん剥いてこっちを見た。
「しゅ、主将…ッ?!」
「灰崎ィ、テメェ、…赤司に何してんだコラッ!」
「へ?…うおっ?!」

拳を振り上げ灰崎の顔面に一発ぶち込み、目撃したものに対する衝撃を解放する。
感情的、というよりも、これはショックのあまり手が出た反射攻撃だ。よろめいた灰崎が、腹筋台の手摺につかまりながら顔を押さえた。
「いって…ッ、何すんだよッ!」
「そりゃコッチのセリフだ!テメー、今自分が何したか分かってんのか?!」
「な、何って…、お、オレは何もしてねーよっ!今のは、赤司が…っ」
「あァ?!」
「あの、主将…」

反論する灰崎の胸倉を掴み、睨みを効かせたところ。背後で謙虚な声が聞こえ、はっとする。
振り向くと、赤司がいた。赤司…が?……赤司、だよな?

「オイ赤司!テメーのせいで殴られたじゃねーかっ!どーしてくれんだよッ!」
「…お前は黙れ。いま、説明をする。…主将、先ほどのキスは、確かにオレが望んだ行為です」
「?!」
「汗を滴らせている灰崎の姿に、欲情しました」
「?!?!」
「今夜、灰崎の家に宿泊する約束を先ほど取りつけ、その際に行う行為に期待して、思わず」
「オイコラ灰崎ッ!」
「は?!オレ?!」

白い頬を赤く染め、やや険しい表情を作りながら淡々と、かつ赤裸々な感情を吐露する目の前の後輩の顔は、信頼している副主将によく似ている。てゆうか、紛れもなく本人だ。
だがオレは思う。赤司はこんなこと言わない。

「テメェ、赤司に何吹き込んだ?!いや、何飲ませてこうなったんだよ!」
「な、何も吹き込んじゃいねぇし、飲ませてもいねーよっ!こいつが勝手に…」
「んなわけねぇだろ?!赤司が欲情したとか言ってんだぞ?!つーか、お前、赤司を家に泊めて何するつもりだったんだよ、いや、何したんだよッ?!」
「え、…いや、そりゃー…」

再び灰崎を睨みつけながら真相を問う。すると灰崎は、気まずそうに視線を泳がせ。
あってはならないことがあったと、その目で白状した。

「主将」
冷静な声が呼ぶ。今度は簡単には振り向けない。
背後に立つ男の顔が、赤司ではない別人に変わってしまえばいい。有り得ない希望を持ちながら、オレは灰崎の顔面を睨み続け。
「オレが灰崎と肉体関係を持ったのは、決して不本意な展開からではありません。互いに合意の上で体を重ね、相性が悪くないことを確かめました。その上でオレは灰崎との関係の継続を望み、休日前の夜は灰崎の家へ通っています。だから…」
「…もう言うな、赤司」

肩を落とし、項垂れる。
ここまでハッキリと丁寧に説明されてしまっては、もう何も言えない。
世間知らずの赤司が灰崎に騙されているのかと思ったが、冷静に考えればそんな展開があるはずもない。赤司がどれだけ頭脳明晰で気丈夫な男かは、良く知っている。
赤司だって健全な男子中学生だ。色ボケたことに興味があり、実践していてもおかしくはない。そしてそのプライベートを同じ部の主将にわざわざ報告する義務は、赤司にはない。
ない、のだが。

「…なんで、灰崎だよ……」

よりによって、としか言いようがない。
赤司なら、他にいくらでも相手は選べるだろう。好意を持っている女はうちの学年にも掃いて捨てるほどいる。それらを完全に視界から遮断し、よりによって、だ。
素行不良で手が早く。女癖の悪さは部内一。バカなくせにずる賢くてどうしようもないこの男を、どうして赤司は。

「…そりゃ、オレが聞きてぇよ。…何でオレなんだよ」
胸倉をオレに掴まれたままの灰崎がぽつりと呟く。するとすかさず回答が返された。
「心外だな。灰崎、お前はオレをよく知っているだろう?」
「…見た目の大人しさに不釣合いなド淫乱だってことか?」
「誤魔化すな。オレが、どういった場合に乱れるか、言ってみろ」
「……あー。あれな。…言っていーのかよ?」
「構わないよ」
「いや言うなッ!」

赤司の促しを受けた灰崎の首を思いっきり絞めて黙らせ、ぱっと手を放し後ろを振り向く。
目が合うと、赤司はやや戸惑ったような表情を浮かべた。だがそれも一瞬のこと。ふっとその表情を崩した赤司は、自らの性癖を暴露する。

「挑発的な視線と発言を受けると、どうしても屈服させたくなる。…灰崎は口の減らない男です。…セックスの最中でもね」

喘ぎ声をあげれば女のようだと揶揄し、抑えれば不感症だと罵る。
挿入時に身を強張らせれば処女くさいと呆れ、体の力を抜けばゆる穴の淫乱体質だと嘲笑う。

赤司が、見た目の大人しさに不釣合いな負けん気の強さを備えていることは、部内では割と有名だ。
だがここに、もう一つ意外な個性が加わった。

どうやら赤司は、言葉攻めという奴に弱いらしい。


「この男はセックスでしかオレを組み伏すことは出来ません。だけど、その時になれば人格が豹変したように得意になり、調子に乗る」
「…だから、いつも言ってんだろ。男は上に乗っかると狼に化けんだって。他のヤツ試したことねーだろ、お前」
「挑まれることもないからね。…オレに性接触を持ち掛けた男は、灰崎、お前が初めてだ」
「そりゃ分かってっけど。…は?なに、お前、オレみてぇにヤらせろって言ってきたら誰にでも」
「それが出来る人間は限られていると思うけどね。…あいにく、穴があれば同性でも構わないという考えの持ち主はそれほど存在しない」
「べつに、穴が空いてたからお前に突っ込んだワケじゃねーよオレは」
「…そうか。だったら分かるだろう。…オレだって、強く要求されたからお前に身を開いたわけじゃない」

オレに対する赤司の釈明が、灰崎との会話に変わっていく。
黙ってそれを聞いているうちに、疑問が一つ生じてきた。
「なあ、お前ら…」
にわかには受け入れ難い事実だ。だが、こいつらの会話とやってることと特有の雰囲気をこうして目の当たりにすれば、間違いはないだろう。
「…付き合ってんの?」
「いえっ、」
「はっ?!んなわけねーだろ!」

だがオレの質問は目を見開いて同じような表情をした二人に揃って否定された。
納得は、出来なかったが。




赤司が灰崎に引っ掛かった理由ってのはなんとなく分かった。
やっぱり赤司は世間知らずの坊ちゃんなんだろう。初めて自分に性的な欲求を持つ男が現れ、請われるままに試しにヤらせて、そしたら割と良くて、癖になった。
たしかに赤司相手に猥談を持ち掛けたり、組み強いて言うことを聞かせようなどと考える人間は異性同性に限らずそうそういない。あいつの育ちの良さと性行為とは無縁そうな聖人ぶりの前では、たとえ多少の下心があったとしても視線を交えれば木っ端微塵に砕け散る。

そこを自分の欲望のままに突破した男が、一人だけいて。
レアな存在に、すっかりハマっちまったってのが赤司の現在だ。

だが、灰崎は?
いくらあいつがバカで下半身が緩いろくでなしで、赤司のような絶対に折れそうのない品行方正な優等生を得意技で捻じ伏せてやろうとか考えたとしても、一度崩せれば飽きて終わりにしそうな気がするが。
その答えは、本人から聞きだした。

「…全然崩せてねーっス。あいつ、主将やカントクの前ではネコかぶってっけど、本性最悪だし。キスもフェラも、させる度に上手くなってくし、誘い方も、ツボを心得てるっつーかなんつーか…。…あいつも、オレだけだっつーし?まァ、…時々、可愛いことも言ってくっから、捨てるに捨てられねー感じで、ずるずると」

相性がいいのは、体に限っての話というわけではないのかもしれない。
需要と供給は完全に一致している。他人が口を挟む隙もない関係がデキているようだが、まぁ。

「…っ、イテ!!んだよ、言えば殴らねーっつっただろ?!」
「うっせーな。赤司に妙なこと仕込んでんじゃねーよ、このボケカス」
「はァ?!べつに仕込んじゃいねぇよ、あいつが勝手にどっかで覚えてきて、オレしか試す相手がいねーっつーから…ッ」
「ならその役割、オレが代わってやってもいーぜ?」
「…ッ」

ノリで切りだした申し出に、灰崎は目を剥いて息を飲む。
想像でもしてんのか。自分の赤司が、他の男に組み敷かれるところを。
そしてその結論は。

「…冗談じゃねーよ。あいつは、オレが身を張って開発したんだ。…いまさら、余所にくれてやれっかよ」

気恥ずかしそうにもごもごと呟く灰崎が。
赤司同様に、セフレという枠に収まりきらないほど相手にハマっている現状が、非常に腹立たしいのでオレはもう一発灰崎の頭をぶん殴っておいた。










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