krk-text | ナノ


▼ 淡くも白くもないからね




「好きなんだけど」
そうやって告白してみたら、赤ちんはあっさりと応えた。
「そうか、嬉しいよ。オレもお前が好きだ」
なんてこともないような顔で、色好いこんなお返事を。


と言うわけで、付き合うことになった。
赤ちんの本心が何であろうと、告白してオッケー貰えたのは事実だし。恋人同士のオレと赤ちんは、割とうまくやってけてる。
クラスは違うけど、部活が一緒だから帰る時間も同じだし。赤ちんはキャプテンだから他の部員よりも帰宅時間は遅いけど、全然待ってられる。暗い夜道を並んで歩いて、人気がないって気付いたら手を繋いだりすることもあった。
街灯の明かりがオレたち二人の影を地面に作る。それを見ながら赤ちんてちっせーよねーとか言ったりする。そうするとちょっと怒ったっぽい赤ちんがオレに言う。「そうだな、この身長差ではお前のくちびるにキスをすることも出来ない」と。
それを聞いて黙っていられるわけがない。立ち止まって膝を屈めて顔を寄せ。公道の端っこで、初めてのキスをした。
オレの首に両腕を回して、首元でくすくす笑った赤ちんが「頭が高いぞ、紫原」と言ってきたのに、「ごめんね背伸びさせちゃって」って答えて笑い返したのはいい思い出だ。


結構普通なカップル関係を続けてきた。
普段の赤ちんは至って普通で、あの告白以降は一度もオレに好きだと言わない。
昼休みも部活時間も、今までと変わらない態度でオレに接して。なのに、ある日の部活中にオレは黄瀬ちんから言われてしまった。

「ずばり、紫原っちと赤司っちって付き合い始めたっしょ!」
「…なんで分かんの?黄瀬ちんって変態?」
「変態じゃねーよ!…なんか、なんとなく雰囲気違うなーって思ってたんスよー。毎日一緒に帰ってるみたいだし、紫原っちが赤司っちに話し掛けると赤司っちの表情が3パーセントくらい和らいだりして」
「マジ?黄瀬ちんそんなの分かんの?オレ全然わかんねーよ」
「甘いっスね!日常生活に垣間見る些細な変化に気付くのがモテる男の必須条件っス!ってことで紫原っち、どこまでやったんスか?」
「…やったって?何を?」
「だからー、付き合い始めた二人がすることなんて決まってるっしょ。キスとか」
「ああ、したよ。初日に」
「おぉっ!さすが紫原っち!手が早いっスね!…で?」
「なに?」
「その先は?」
「先って…、ないよ。何すんだよ」
「…マジで言ってんスか?先っつったら、先っスよ。エッチとか」
「あー…、…たぶん、しないよ。この先も」
ニヤニヤしながら聞かれてちょっとイラっとしながら答える。すると黄瀬ちんはビックリした顔で首を傾げた。
「しない…んスか?なんで?せっかく付き合えたのに?」
「だって想像できねーし。他ならまだしも、相手は赤ちんだよ?黄瀬ちん、あれよく見てよ。あの赤ちん」
現在赤ちんはこっから離れたところでミドチンと何やら話し込んでいる。その赤ちんを指差して、黄瀬ちんに視線を促す。オレの指先に従った黄瀬ちんは、赤ちんの姿を確認してオレに視線を戻して、また首を傾げた。
「…だから、なんだってんスか?」
「よく見てよ、全然それっ気ないっしょ?」
「え?…あー、うん、まあ、赤司っちはそういう俗っぽいことは考えてないかもしんないっスけど…、え、でも好きなんスよね?」
「好きだよー」
「紫原っち我慢出来んの?キスだけで満足なの?好きならもっといちゃいちゃしたいとか思わないんスか?」
「…黄瀬ちんってさ、常に頭沸いてるよね。自分がそーだからって人に押し付けんのやめてくれるー?オレは、いーの。赤ちんがしたくないことはしなーい」
「紫原っち…」
「つーか黄瀬ちん、赤ちんのこと変な目で見んのやめろよなー。赤ちんは黄瀬ちんと違って、純粋?清潔?そうだ、清純派!なんだからー」
「いつ時代のアイドルっスか…。つーか紫原っちこそオレのこと変な目で見んのやめろよっ!オレ、そんな汚れてねっスよ!」
変なとこでムキになる黄瀬ちんを無視して置き去りにして、無駄話はそれでおしまい。
赤ちんはまだミドチンと真剣な顔して話をしてる。あれは当分終わりそうにないし、かといって練習の輪に加わる気にもなれないので、うるさいのがいないところで休憩の続きを取ることにした。


その日の帰り道でのことだ。赤ちんが妙なことを言ってきたのは。
「紫原はおそらく、オレのことを誤解してると思う」
「…へ?誤解?」
「オレは紫原が思うほど、清くも高潔でもない」
いつも通り校門を出て、近くのコンビニで小腹を満たして、人気の少ない道路で手を繋いだ。その時だ。
咄嗟にオレの脳内に黄瀬ちんの顔が浮かんだ。なんだ、もしかしてあいつ、赤ちんに言ったのか?
「…どーゆーこと?なに?急に」
「黄瀬に言われた。紫原はオレのことを相当大事に思ってくれているらしいな」
案の定だ。あいつ、あとで潰そう。
「…そりゃ、好きになるくらいだし、大事に決まってんじゃん」
「オレが望まぬ関係には進みたくないと」
「…それだって当たり前っしょ。別にいーよ、赤ちんはそれで。黄瀬ちんとは違うし、オレはそういうのいいと思ってるから」
「望んでないなんて誰が言った?」
「…え?」
歩く足が止まる。つられてオレもフリーズする。
頼りない街灯に照らされた赤ちんが真っ直ぐにオレの顔を見据えてくる。
「望まないはずがないだろう。オレは紫原が好きだ。幼児や動物を愛玩する意味でもなければ、行為や飲食物に対する嗜好とも違う。お前と対面して会話をしたり、接触することで動悸が速くなる。お前がいないときにもお前のことを考える。そしてオレは動物であり、心身健康な男子だ。当然のごとく、性欲もある」
「あ…赤ちん…?」
「紫原にそれがないと言うのなら、無理強いをするつもりはない。性欲には個人差がある。オレに対して性的な魅力を感じないならば、今の付き合い方でも構わないと思っている。ただし、勘違いをするな。紫原がそうでもオレは、」
怒涛の主張にオレが口を挟める隙もなく。
とうとう赤ちんは直接的かつオレにも理解しやすい言葉でまとめてしまう。
「お前とヤりたい」
赤ちんに対する清純派のイメージががらがらと崩れ散った瞬間だった。



勝手な思い込みで手出ししないって決めたのは、悪かったと思う。
まさかの肉食発言も、まぁいい。むしろ凄くいい。オレだって本当は赤ちんにエロいこととかしたかった。歓迎されて、嬉しい。
でもあの時、感極まって思わずぎゅっと抱き締めた身体が本当にドキドキしてたのがオレの欲求を制御した。
オレの腕の中でめちゃくちゃドキドキしてんだ、あの人。今まで手を繋いだりキスしたりするときは気付かなかった変化を知って。煽られて火がついたはずの衝動がしおしおとおさまってった。

あんなに強気なこと言っておいて、いざこっちがその気になってくっついたら小動物みたいに変身するってどういうことだよ。ふざけてる。どうしよう。思い出しただけできゅんてなる。
べつに強がってあんなこと言ってきたわけじゃないのは分かる。あれは偽りない赤ちんの考えであり、希望でもある。オレに気を遣ったわけでもない。赤ちんがあると言うからには確実に赤ちんは性欲旺盛な人なんだろう。
だけどあの身体の反応が。馴れてなくて初々しいドキドキ感が。たまらなく愛しく思えて、可愛くて、汚せないって思ってしまった。

あんなのがオレのこと好きだって言ってんだ。大事にしないわけがない。
かわいいから甘やかす。清らかだから汚さない。
そうやって大事に大事に囲っといて。赤ちんが不満を訴えて肉食系行動に打って出たならその時こそ。

全力で、壊してやる。
だから、赤ちん、まだ油断はしないで。
さり気なく指とか絡めてこないで。探るような目つきで顔を覗きこまないで。
「いつ、する?」
…絶対痛い目見せてやる。








「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -