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▼ 天敵さん



※緑間くんと付き合ってる黄瀬くんがひたすら高尾くんにやきもちやいてる話。高笠は高→笠っぽい微妙なラインです。


***


あの人はじりじりとオレの意識に入り込んできた。

「わかった、そんじゃ来週のデートはなしね。次はいつなら空くんスか?」
「次?…高尾に確認しておく」
「は?何スかそれ!」

緑間にデートの約束をキャンセルされた。それはいい。別の高校に通っているのだから、予定が一致しないのは百も承知だ。こんなこと、今までにもいっぱいあったし、いちいちごねてはいられない。
分かっている。来週が無理なら、その次に回せばいい。分かっている。それくらいにはオレは大人だ。

だけど後に続いた緑間の発言が、オレの神経にビビっときた。

「なんで高尾クンが出てくんスか!自分のことだろ?確認しなくても分かるじゃん!」
「部活の連絡はあいつから来るのだよ。なぜか分からんが、一年レギュラーの連絡役はあいつが担っている」
「一年レギュラーってアンタと高尾クンの二人だろ?!そんな少人数で連絡網作ってんじゃねーっスよ!」
「…何を怒っているんだ、お前は。この連絡体制は入部した当初から確立していた。今更変更する理由もないだろう」
「……」

さらりと答える緑間の言い分は、よく分かる。
入部した頃、緑間は他のチームメイトたちとの間に分厚い壁を作っていた。その壁を難なくぶち壊して馴れ馴れしく緑間に近寄ってたのは、高尾クンだけだったって聞く。
今はそういう壁も崩落して、緑間はチームに馴染んでうまいことやってるらしいけど、当時の名残が未だにこういう形で残っているなんてオレは聞いてない。

ムカついて、わざと緑間を困らせるようなことを言う。
「やっぱ来週、会いに来て。じゃないと緑間っちとは永遠にさよならっス!!」
勢い任せに怒鳴って、電話切って。
がばっとベッドにダイブしてからため息こぼして、自己嫌悪。

高尾クンは、こんなわがままなこと言って緑間を困らせるような真似は絶対にしないんだろう。




「お前、ホントどうしようもねーな」
「…分かってんスよ、オレが悪いっス。…今夜、電話して謝るつもりっス…」

翌日、部活の時間。
何事もなかったように練習に参加してたのだけど、たまたまOBとして顔を出しに来た笠松センパイに様子がおかしいって呼びつけられて、昨晩の事情を打ち明ける。
割と落ち込んでいるオレに追い討ちを掛けるように、笠松センパイは呆れ顔で言った。
「緑間もよくお前みてーなのと付き合ってられるよ。お前マジ、あいつらとタメとは思えねーな」
「…どーせオレは緑間っちみたいに大人じゃ…、…ん?」
やさぐれて自虐に走ろうとしたところで引っ掛かりに気付く。
あいつら、って言った?複数形?緑間だけじゃなくて、ってことは。
「笠松センパイ、いまオレと誰比べた?」
「は?だから、あいつらっつったろ」
「あいつらって?緑間っちと誰?!」
「高尾に決まってんじゃん」
やっぱり!!
ここでその名前を出されて、オレの昨晩の苛立ちが再発する。
「そ、それ、どーゆう意味っスかねー?オレのどこが、高尾クンとタメっぽくないって?」
「見た目から性格まで全部だよ。お前、いつまでそんなチャラチャラしたナリしてんだ。もうすぐ2年になんだから、ピアス取って髪暗くしろ。あと前髪長過ぎ」
「高尾クンだって長いじゃん!何スか?!笠松センパイ、黒髪好みだったんスか?!」
「は…?」
「そーいや笠松センパイ、高尾クンに憧れの存在とか言われてたっスもんね…!ちゃっかりメアド交換とかしちゃって、知らないうちに仲良くなってて!何なんスか?!何でそーゆうことすんスかぁ!」
「…お前、何言ってんだよ?」

キョトンとしている笠松センパイが、悪気あって高尾クンの名前を出したわけじゃないってのは分かっている。分かってんだ。分かってるけど!

「どいつもこいつも高尾高尾って…!そんなに高尾クンがいいなら、転校して来いって頼めばいいじゃないっスか!」
「お前なぁ…、何キレてんだよ」
「もういいっス!…緑間っちも、笠松センパイも…っ」

緑間はオレの好きな人だ。
あっちも多大な好意を持ってくれてんのは知ってるし、相思相愛。でも緑間は高尾クンに手綱を握られている。
笠松センパイはオレのセンパイだ。
オレのことを誰より認めてくれてるし、口は悪いけど心配とかしてくれる。大事な後輩だって思ってくれてんのは分かる。でもオレより高尾クンのことを褒めまくる。

ダブルでオレの重要人物の心を掻っ攫う高尾クンに、オレは。




「ちーっす、黄瀬くん、久しぶりー」
「……」

その日、オレは結局憤りモードのまま帰宅して即効寝てしまい、緑間に電話が出来なかった。
そして翌日。部活の帰り。校門でオレを待ち伏せしていた人物に、ぽかんとマヌケな顔を晒してしまうことになる。

「な、何スか…?なんでアンタ…」
「真ちゃんと笠松さんから話聞いてさー。…黄瀬くん、オレにムカついてるんだって?」
「は?な…っ、あ、あいつらが言ったんスか?」
「ちょっと話しない?二人でさ」


正直めちゃくちゃ気まずかった。
たしかにオレは高尾クンに対して複雑な思いを抱いている。直接の面識はあんまりなかったけど、オレの最重要人物ツートップと親しい関係にある人だ。そして彼の言うとおり、オレはこの二日間高尾クンにムカつきっぱなしだった。
高尾クンにっつーか、正確には、高尾クン贔屓な二人に対してなんだけど。

学校からちょっと歩いたとこにある駅前のマジバで向かい合って無言の時間をしばらく過ごす。
シェイクのストローを噛みながら、向かいの相手はじっとオレの顔面を眺めている。
「…何スか?」
「ん?やー、やっぱ間近で見ると、カッコイーなーって思って」
「……ハァ?」
「こないだファッション誌の表紙飾ってたじゃん。あれもカッコ良かったし、オレ、真ちゃんのことすげーからかっちゃった。真ちゃんって面食いだなーってさ」
「……」

なんだ、この男。いったい何を考えてるんだ。
カッコイイなんて言われ慣れてる。女の子だけじゃなく、男にもよく言われる。普通に賞賛として受け取ってきたけど、今はちょっと別の印象があって、たぶんそれは顔に出てしまったのだろう。高尾クンは苦笑しながら、黄瀬くんをからかってるわけじゃないよと言ってきた。

「真ちゃんのことからかったっつーのも、半分嫉妬。だってズリィじゃん?こんなキレーな顔した子が、真ちゃんのものだって聞かされると」
「……緑間っちの…?オレが?」
「そーそー。自信満々に言うんだぜ?オレが黄瀬くんの顔褒めると、我が物顔で。黄瀬はキサマにはやらんのだよ。とか。ウケるっしょ」
「…待って、それ、緑間っち…マジで?」
「マジマジ。…ホント、溺愛状態だよな、真ちゃん。…笠松さんもだけど」

想像つかない話をされて困惑する。その状態でセンパイの名前を出されたことで、オレの意識はまた元のムカつきモードに戻される。
緑間の話だって、よくよく考えれば自慢っぽい。オレよりも、緑間と一緒にいる時間が長いってことを遠回しに主張されてるみたいでなんかヤだ。
笠松センパイの名前だって、オレの前で出すなよ。あの人は、オレのセンパイなんだから。

「…可愛くて仕方ないんだろーな」
「…は?何が?」
「黄瀬くんのこと。…真ちゃんと黄瀬くんが気まずい感じになったって教えてくれたの、笠松さん。そんで真ちゃんに事情聴取して、話しに来たわけなんだけど。…笠松さんって、普段から黄瀬くんのことばっか。…もう部活引退して、主将でもないのに、どーしても気になっちゃうんだってさ、黄瀬くんが」
「……」

昨日、体育館で笠松センパイと最初に視線が合ったときのことを思い出す。
オレは何も言ってないし、別に練習サボってたわけでもない。証拠に、他の部員は誰一人、オレがへこんでることなんて気付かなかった。
でも笠松センパイは、目が合っただけで見抜いた。
オレの調子が、いつもとほんのちょっとだけ違うことを。

「背高くて、派手な髪色してて、声でかくて目立つから、どうしても視線が向いちまう、なんて言ってたけど。試しに訊いてみたんだ。黄瀬くんが落ち着いて、地味な格好して、大人の顔になったら安心できるんスかーって。したら、なんて答えたと思う?」
「……わかんないっス」
「それでも黄瀬は黄瀬だ。油断は出来ねーって。…良かったね、黄瀬くん。たぶん、あの分じゃこの先ずーっと笠松さんは黄瀬くんの味方でいるよ」


オレのセンパイ、だ。
オレのことをよく理解してくれて、不調にもすぐ気付いてくれる。そんなことは高尾クンなんかに言われなくたって知ってる。
オレの、なんだ。
笠松センパイも。
…緑間も。


「…ムカつきてーのはこっちのほうって、分かってくれた?」
「……へ?」

ちょっとだけ胸がすっとしたところで、少し険のある声で確認される。手元に下げていた視線を持ち上げると、口元は緩んでいるけど目は笑っていない高尾クンがじっとオレを見ていたことに気がつく。
「な、何スか…?」
「オレ、どんだけ頑張っても黄瀬くんには敵わねーの。真ちゃんのことは別にいいけど、悔しいのは笠松さん。…ほんと、欲張りだよね、黄瀬くんは」
「え…、それ、どういう…」
「無条件で笠松さんのナンバーワンは黄瀬くんなのにさー。マジ、ズリィよ。頼むから真ちゃんだけで満足してくんない?」

真剣な眼差しで見詰められ、そう言われて。
あ、って思う。あ、この人。
笠松センパイのことが。

「…なーんてね。ま、そんだけ黄瀬くんが魅力的な子ってことなんだろーけど。あ、悪いけど今晩辺り真ちゃんに電話してあげてくんない?真ちゃんも、割とガチでヘコんでっからさ。それと、来週の日曜だっけ?うまくセンパイに言って、練習早めに切り上げて貰うよう頼んどいたから。ごゆっくり…とは言えないけど、まぁ、適度に真ちゃんのこと癒してやってよ」

唖然としているオレに向かって高尾クンは次々と用件を言い伝える。
オレはそれを覚えるのに必死で、え?え?ってなって、そうすると高尾クンはさっきの険しい表情がウソみたいに柔らかく笑って見せた。

「…まあ、真ちゃんと笠松さんの気持ちも分かるよ。…ほっとけないオーラ出てるよね、黄瀬くんは。オレでもちょっとグラつくわ。…ねー黄瀬くん、真ちゃんやめて、オレにしない?」
「…は、…はい?!」
「なんてね。冗談冗談!…じゃ、オレそろそろ帰るわ」

まさかの変化球を投げつけられてまごまごしているオレの前で、高尾クンは自分のトレイを持ち上げながら席を立つ。
「た、高尾クン…!」
「んー?なにー?」
「あ、その…、…み、緑間っちは…オレのっスから」
足を止めた高尾クンが、まだ言うか?って顔してオレを見る。
待って、まだ続きがある。あんま、言いたくはないんだけど。
「…あ、ありがとっス、緑間っちのこと気遣ってくれて。…そんで、笠松センパイのこと」
ああ、やっぱ言いたくない。
欲張りで、わがままなのは分かっている。
でもオレは、オレのセンパイを。

「…オレ、黄瀬くんの位置に収まりたいわけじゃないから。べつに、奪ったりはしねーよ?」

淀むオレの発言を先読みしたみたいに高尾クンは言う。
その瞬間、オレはぐっとなる。
あー。くやしいけど、完敗かも。

笠松センパイはこの先もオレを気に掛けながら生きてくかもしれない。
だけどたぶん、あの人が恋愛対象に据えるのは、こういう大人で黒髪な人だ。

「だから黄瀬くんは安心して、真ちゃんに専念してくれよ。あれ、オレのマブダチだから」

笠松センパイがオレと高尾クンがタメだってこと疑うの、いまは素直に頷ける。
この人は大人でヨユウだ。同い年のオレにはないモノを持ってる。もし、笠松センパイがこの人のことを好きになったら。オレは涙を飲んで、センパイを譲ってあげようと思える。

…ほど、オレは大人じゃないから、日曜日は緑間に会ってこの悔しさを充分に晴らしまくろうと思った。









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