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▼ いやいや全然だいじょばないから!



※赤司くんがアホっぽくて、黒子っちが赤司信者な話。


***



驚愕の展開が待ち受けていた。

「いいよ、だったらオレが責任を取ろう」
「…へ?…あ、いや、責任って、何の…」
「お前の顔に傷がついたのはオレの所為だと言いたいのだろう?ならば」
「……いやいや、どういう話だよ」


確かにオレはいま、顔面に生傷を負っている。
っていうのは今日の練習試合に遅刻し、主将にフルボッコされたためなのだが、今回の遅刻に関しては限りなく正当な理由があった。赤司が、オレに集合時間を間違えて伝えていたためだ。
とは言えそんな理由をかかげても、あの主将がオレを信じるわけもなく。赤司が間違えるわけねぇだろ、なんてエコヒイキ甚だしいことを言いながら楽しそうにオレをぶん殴る主将は実にイキイキとしていた。
後々、赤司が自分の間違いに気付いて主将に報告と謝罪をしたという話だが、すでに顔面の形が変わるまで殴られたオレの傷はそう簡単には修復されない。
と言うわけでここぞとばかりに赤司にイヤミったらしく文句をぶつけたところ、すまなかったという謝意と共にこんな誓いを立てられた。

「今回のことは自分でも驚いているんだ。こんなミスは初めてだから、どう謝罪したらいいのか分からない」
「あ、いや…、…もーいーよ、今度何かオゴってくれれば」
「それではオレの気が済まない」
「…どうしてくれんの?」
「お前が二度と部活に遅刻しないよう、五感を駆使して監視する」
「怖ぇよ!つーかそれ、詫びってより罰ゲームだろうが?!」
「だったら逆に聞くけど、どうして欲しいんだ?」
「え?…あー、…そんじゃ、まぁ」

珍しくしおらしい表情で尋ねてくる赤司に、意思が揺れたのは確かだ。
主将に殴られたことはぶっちゃけそこまで堪えていない。些細なことで主将がキレて殴りかかってくるのは日常茶飯事みたいなものだし、まぁ、赤司が伝達を間違えなくともオレは遅刻していたかもしれない。
だから本当は、ちょっと文句言って終わらすつもりだった。何かタカるつもりだったわけでもない。ない、のだが。

責任とか監視とか、カタイ言葉を使ってはいるが、赤司が言ってるのはつまり、こういうことだろう。

「…何でもしてくれんだよな?」
「ああ、構わないよ」
「…そんなら」

オレは親切だから責任を取らせてやる。
ごくりと唾を飲み、オレの指示を待つ赤司を見下ろし、要求を告げる。

「いまちょうど女切れてヒマだったんだわ。付き合えよ、赤司」

おそらくこの時のオレは、赤司の嫌がる顔見たさにこんな提案をしたのかもしれない。
失敗だった。まさか、赤司が。躊躇う様子も見せずに、真顔でうなずいてしまうとは。
「ああ、構わないよ」
オレは赤司と言う男を、正直侮っていた。




翌日には部員全員が知っていた。

「おはようございます、灰崎くん。…おめでとうございます」
「は?何が?」
「あ、いえ、…赤司くんと」
「……あァ?」

先陣を切って祝福してきた黒子をとっ捕まえて、この話が部員すべてに行き渡った経緯を知る。
ギリギリで朝練時間に間に合ったオレは、赤司が全員の前で堂々と交際宣言を果たしたことなど知る由もなかった。
「あの、さすがというか何と言うか…、いえ、僕はお似合いだと思います」
「ウソだろ?!どう見ても似合ってねぇっつーか、さすがって何?!」
「あの赤司くんを籠絡した灰崎くんの手の早さと、灰崎くんほどの尻軽チャラ男を上手く押さえ込んだ赤司くんの作戦…ですか?」
「え、何それ」
「考えたなって思いました。赤司くんと付き合ってるって話なら、誰も灰崎くんに近寄ろうとしないと思いますし、あ、でも赤司くんにそこまで身を張らせた灰崎くんのろくでなしの実力も…」
「…なぁ黒子、オレお前のこと眼中にねーと思ってたけど、いますげぇ殴りたくなった。殴っていいよな?」
「オイ灰崎、テツにちょっかい出してんじゃねーよ」
真顔で言いたい放題ぶっぱなす黒子の胸倉を掴み上げたところで後方から邪魔が入る。ダイキだ。
「お前の相手は赤司だろ」
「…マジで言ってんの?なあマジで?」
「赤司が言ってんだからマジだろ」
それでお前いいのか?と言いたくなってやめた。いいも悪いも、こいつらには関係ない。
いいか悪いかを決めるのは。


「オレ自身だろう?」
「いやいや、オレだよ!」
「お前はオレと交際したいのだろう?可否を決するのはオレだ。そのオレが承諾している。何も問題はないだろう」
「いやいや、問題ありまくりだろ!」

同じ学校とか、同じ部活とか。ただでさえ身近な存在同士の場合は周囲に特別な関係であることをバラしたくはないもんだ。変な認識を持たれて、ぎこちない対応をされるよりは。隠れて今まで通りに接していたほうがスムーズに進むことだってある。
しかも赤司は女じゃない。二重の意味で隠しておくべき事実を、こいつはなんで速攻広めてんだ。

「…何が問題なのか分からないな」
「…あのさァ、お前、自分のダチが男好きって聞いたらぞっとしねぇ?ホモだぜ?今は他の奴がターゲットだとしても、そいつに冷めたら身近な存在が狙われるかもとかって、怖くねぇ?」
「大丈夫だよ。狩られる側に回るつもりはない」
「…赤司ィ…」
自分で言っといて何だが、確かに今の懸念事項は赤司にとって有り得ない。この赤司が、男に言い寄られてビビっている姿などまるで想像つかなかった。

「他に何か言いたいことは?」
淡々と尋ねてくる。言いたいことか。山ほどあるよ。
「…お前、マジで分かってんだろーな?」
「何がだ」
「オレと付き合うって意味。…女代わりだぜ?お前、そんなん許せんの?」
「許すも何も。お前がそうして欲しいのだろう?」
「え…、あ、あぁ、まぁ」
「構わないと。オレはそう言った。大丈夫だよ、灰崎。オレは自身の決断を覆すことが、何よりも嫌いだ。途中で引くような真似はしない」
「いや、あのな、赤司…」
「証明をして見せようか?」

赤司が中途半端を嫌うってのは、まあ、見てりゃなんとなく分かる。
完璧主義っぽいし、かなりの負けず嫌いだ。前言撤回など赤司の辞書にはない。それはいい。
問題なのは内容だ。大っぴらに言い回ってる辺り、どう考えても理解してない。そう疑うオレの眼前に、ずいっと赤司が顔を寄せてきた。

「ッ?!う、うわ…っ、何だよッ!?」
「…証明をする、と言っただろう。膝を折って目をつむれ、灰崎」
「は?!しょ、証明って、何の…」
「お前の恋人になる覚悟だ」

まさか、と動揺する。
分かって、言ってんのか?いやいや、ないだろ。赤司だぞ?
ここでオレが素直に屈んで目を閉じたところで待ってるのは…。
……なんだ?

好奇心が疼き出す。
たとえ罠でも、面白いことにはなりそうだ。
赤司がどう動くのか。見てみたい。その一心で、赤司の指示を受け入れる。そして。




「……」
「これで分かっただろう?灰崎、オレを信じろ」
「…あ、いや…、…何、いまの」
「え?」
「……キスのつもり?」

唖然としながら目を開く。するとそこには、キョトンとしている赤司の目がある。
曇りのない純粋な眼差しだ。なんだ、これ。何でこいつは。

「…違うのか?」
「いや、…まあ、間違ってはいねぇけど」
「ならば大丈夫だろう」
「…ああ、大丈夫……か?」

やわらかい感触を押し付けられたのは、唇ではなく額だ。
だから膝を折れってか。いや、屈まなければ赤司はオレの額どころか唇にもキスは出来ない。んなことは分かっている。問題なのは、唇に出来ることを、なぜ額にしたかだ。
何か企んでんじゃねーか。そう思いながらじっと赤司の顔を凝視する。返って来るのは涼しい眼差し。何かを企んでいるようには、到底見えない。

「あ、あのさ、赤司…」
「これだけでは証明不足か?ならば、もっとしてみせようか」
「え?…な、何してくれんの?」
「何でもいいよ。お前が納得出来る方法で、オレは自身の責任をまっとうして見せるよ」

赤司が前言撤回をしない男だってのは充分に分かった。
それから、オレが想像していた以上に世間知らずで箱入りなお坊ちゃんだったってことも。

「…なあ、赤司」
「なんだ?」

だからと言って、指摘してやる義理はない。
そっちがその気なら。とことん、乗っかってやろうかと思ってしまう辺り、オレもどうかしている。
「そんなら、示してくれよ。いいか?赤司。オレがお前に言ったのは、オレのオンナになるってことだからな」
「ああ、分かってるよ」
「…オレに抱かれる、覚悟があんだな?」
「大丈夫だ。それくらい、躊躇うまでもない」

やたら自信ありげに言いきった赤司は、たぶん何も分かっちゃいない。
オレを手懐けるために身を差し出したとか言ってる黒子は、どうやら赤司を過大評価しているようだ。

この会話を聞けば、一目瞭然だろう。
赤司は意外と、マヌケな奴だ。









「いえ、おそらくそれは赤司くんの策略です。無知を装って懐に入り込む。…凡人には真似出来ない至高の技だと思います。やっぱり赤司くんは凄いです」
「お前、赤司にどんな弱味握られてんの?金か?あいつにいくら貰ってんの?」
「赤司くんがそんなことをする必要がどこにあるって言うんですか」
「赤司家のメンツを保つためとか?あんなアホが御曹司ってバレないようにサクラ雇って崇めさせて世間体を…あ、いや、そんな怒るなって。はいはい、赤司様は天才天才。神様神様。とんだ策略家だな!」
「おい灰崎、テツに絡んでんじゃねーぞ」
「ダイキ、お前もどんだけこのチビに過保護なんだよ!」
「いーじゃん、赤司がヤらしてくれるっつーならヤっとけば。お前バカなんだから、大人しく赤司の言うこと聞いとけって」
「…ヤれっかよ、あんな、…キスもろくに出来ねぇような奴」
「大丈夫だろ、赤司がいいっつーなら」
「…大丈夫、か?」

デコにキスしてきた赤司の純粋な眼差しを思いだす。

「…いやいや、全然だいじょばねぇよ」

あんなのに易々と手を出して、報われる未来が全然想像できなかった。






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